1970年代以来のリバイバルとして、昨季に引き続き実施されたブリストルでのダートオーバル戦、2022年のNASCARカップシリーズ第9戦『Food City Dirt Race』が4月16~17日の週末に開催され、舗装時代から同地通算8勝を記録する相性の良さを誇るカイル・ブッシュ(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が、ファイナルラップ最終ターンの逆転劇で今季初優勝。グリッドに並ぶ現役ドライバーでも最多勝となるキャリア通算60勝に到達するとともに、新車両規定“Next-Gen”での自身初勝利を手にした。
2021年のトライアルに続き、今季もブリストル・モータースピードウェイのダートトラックに見参したカップシリーズの一行は、このトリッキーな0.5マイルのグラベルサーフェースで新規定車両がどんなハンドリングを見せるか。誰もが「未知数」と語るなか、各車の走行で「路面状況の改善が進んだその先」を見据えた難しいセットアップを強いられることとなった。
そんななか、最初のプラクティス最速をマークしたタイラー・レディック(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)や、その最初のセッションで壁にタッチしながらも、2度目のセッションを制したデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)らを出し抜き、コール・カスター(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)が今季初のポールポジションを奪取。
フロントロウには今季トヨタ勢でもっとも安定した戦績を残すクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が並び、2列目にレディックとチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)、そしてディフェンディングチャンピオンのカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が続くトップ5となった。
決勝を前に各ドライバーから上がって来た報告を受け、当局はブラックだったウォール上部をホワイトで再塗装し、視界悪化に苦しむドライバーの視認性をサポートする措置を採り、砂塵舞う250周の勝負が始まった。
途中、2度の降雨ディレイを挟んだレースはステージ1をラーソンが、ステージ2をブリスコが制するも、レースの主導権を握ったのはレディックの8号車シボレーで、151周目のリスタート後には、ターン1のトップにいたカイルと、ボトムにいたジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)をミドルから切り裂き、5度のコーションをモノともせず99周のリードラップを奪っていく。
しかし風向きが変わったのは最後のレイン・ブレイクを経た227周目のリスタートで、この時点で3番手からレースを再開したブリスコが5周後にカイルの18号車を捉えると、首位を行くレディックを追走する展開となる。
迎えたホワイトフラッグ。勝利に向け細心の注意を払ってトラクションを掛けた2番手のマスタングが、最後の勝負となるターン3、ターン4に向けハイバンクにいたレディックのシボレーに仕掛けると、2台はダートトラックで“ルーズ”となり大きくサイドウェイ。レディックはフルカウンターからなんとかカマロの姿勢を立て直したものの、遠く3番手にいた18号車カムリを抑え切ることができず。
ターン4で前に出たカイルが0.330秒差でトップチェッカーを受け、待望の2022年初優勝。劇的な逆転を決めた“Rowdy”はリチャード・ペティのシリーズ記録に並ぶ18年連続のビクトリーレーンに登場した。
■アクシデントの全責任は「自分にある」と22位に終わったブリスコ
「ああ、俺たちはようやくそれを手に入れたようだ」と、今季投入の“Next-Gen”カムリで初優勝を飾ったカイル・ブッシュ。
「どうやって手に入れるかは関係ない。それはすべて『獲ったか、獲られたか』なんだ。なんとも言えない気分だが、今はなんだかデイル・アーンハートSr.にでもなったような感じだ(群衆はいつも、彼の予想外の勝利をブーイングで祝福したことによる)」
ほとんど「何もしなかったようなもの」と展開を振り返ったJGRのエースだが、終盤のリスタート以降は優勝争いに絡むスピードがなかったことも認めた。
「理由はわからない。どちらの場合も雨が降った後のリスタートは速さがなく『ファイア』することができなかった。発火しないまま、取り戻すのに20周以上も掛かったんだ」と続けたカイル。
「全体として、ようやく戻って来れた。勝利は何よりの薬だ。これにはたくさんの意味がある。俺はブリストルならどんなサーフェスでも勝てる。『掛かって来な、ベイビィ!』」
一方、勝利に向けチャージしたブリスコは22位に終わり、アクシデントの全責任は「自分にある」と懺悔した。
「逆転を狙ってタイラー(・レディック)のボトムに“スライダーを投げ込もう”としたが、彼のタイトな動きが予測できなかった。それでルーズになってしまったんだ。あらゆる方向にスピンし、気分は最悪だったよ。彼のレースを破壊したくなかったが、これは100%僕の責任だ。彼とは良い友人だし、こんな終わりにしたくなかった」とブリスコ。
そのレディックは目前で勝利を逃した失望を抱えつつも、からくも2位を確保したダートでの勝負を、紳士的な応対で振り返った。
「僕は彼(ブリスコ)をそんなに近づけさせるべきではなかった。彼は僕を追い詰めることができたし、その手前でもう少し良い仕事をするべきだったんだ。僕らはダートの上でレースをしていて、最後のコーナーで勝負に出るのは当然だ。ガッカリしているが、ファンにとって本当にエキサイティングな展開だっただろう。改めての正直な気持ちとして、僕はもっと良い仕事をして彼を引き離すべきだったね」
最終的にレディック以下、ロガーノ、ラーソン、ライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)のトップ5に。
そして土曜夜に併催のNASCARキャンピング・ワールド・トラック・シリーズ第6戦は、終盤にカーソン・ホセヴァル(ニース・モータースポーツ/シボレー・シルバラードRST)を逆転したベン・ローズ(トースポーツ・レーシング/トヨタ・タンドラTRD Pro)が今季初勝利。
服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライズは、2度のタイヤトラブルに苦しんだタイラー・アンクラムの16号車(トヨタ・タンドラTRD Pro)が31位、後方から追い上げたチェイス・パーディの61号車が13位(トヨタ・タンドラTRD Pro)となっている。