WTCR世界ツーリングカー・カップの2022年シーズンが開幕。5月7~8日にフランスのポー市街地で開催された第1戦では、引き続きネストール・ジロラミ、エステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)の“アルゼンチン・エクスプレス”を擁したALL-INKL.COM・ミュニッヒ・モータースポーツがポール・トゥ・ウインでのワン・ツー・フィニッシュを達成。続くレース2は、今季よりヒョンデ移籍を決めたミケル・アズコナ(ヒョンデ・エラントラN TCR)が、BRCヒョンデN・スクアドラ・コルセとの初戦で勝利を飾っている。
WTCRでは初開催となる伝統的ストリートコースでの開幕戦を前にして、このTCR規定を統括するWSCグループは新たなテクニカルアドバイザーを招聘。昨季までヒョンデ・モータースポーツ代表を務めたアンドレア・アダモがWSC技術部門と協力し、TCRのみならず電動シリーズのETCRに向けても、導入可能な新しいテクノロジーについて豊富な経験を元に進言を行うことになった。
「モータースポーツのキャリアで新しいチャプター(章)を開くことに興奮している。私はマルチェロ(・ロッティ/WSC代表)とプロとしても個人的にも、長年にわたり非常に良好な関係を築いてきた。機会があればすぐに彼のチームに参加するのは当然で、今回の依頼もまったく躊躇しなかったさ」と意欲を見せたアダモ。
同じく開幕まで数週間の段階で「このクプラ・レオン・コンペティションTCRが、おそらく最後の内燃機関搭載レースカーになるだろう」と明かしたクプラ・レーシングに対し、その他のマニュファクチャラーとの可能性を探って来たゼングー・モータースポーツだが、ほぼ時間切れの状況から、最終的に4台から2台体制に縮小する形で今季のプログラム継続をアナウンス。そのレースシートにはロブ・ハフとダニエル・ナジーを据えた。
こうして17台の年間エントリーが確定して迎えたポー市街地は、プラクティスからリンク&コーCo 03 TCRが速さを見せ、サンティアゴ・ウルティア(シアン・パフォーマンス・リンコ&コー/リンク&コー03 TCR)が連続トップタイムをマーク。FP1では王者ヤン・エルラシェール(シアン・レーシング・リンク&コー/リンク&コー03 TCR)も2番手に続くなど、今季も盤石の体制作りを伺わせた。
■予選ではアクシデントが相次ぎ1時間近くの赤旗中断も
しかしアタック1発を狙う予選に入ると、市街地コースの表情が一変。多くのドライバーがバリアにキスするアクシデント満載の展開となり、レッドフラッグも掲出されるセッションに。ここでチャンピオンはQ1で左リヤをヒットしてピットへ戻ると、アズコナも最終セクターで壁に張り付き、2度目のアタックを台無しにしてしまう。
さらにQ2開始3分後には、WTCC世界ツーリングカー選手権“最後の王者”でもあるテッド・ビョーク(シアン・パフォーマンス・リンコ&コー/リンク&コー03 TCR)が激しくバリアに衝突し、直後を走行していた僚友マ・キンファやウルティアらがかろうじてこれを回避。ビョークもなんとか自走で離脱したものの、バリア修復の必要性からセッションは1時間近く中断されることとなった。
そんな波乱のセッションで輝いたのが“荒れた路面は大好物”のアルゼンチン勢で、Q3に向け2番手でコースインしたジロラミは、1分19秒783の最速タイムをマーク。僚友グエリエリも0.154秒差でこれに続き、ホンダ・シビックがフロントロウを独占する結果となった。
「素晴らしい仕事をしてくれたチームを祝福したい。リンク&コーの速さと可能性を考えれば、最前列に立つことは本当に困難だったはずだからね」と、クルーの仕事を称えたジロラミ。「その最大の要因は、赤旗のセッション中断による気温の低下だろうね。路面温度も下がったことでシビックはとても良く機能してくれた。間違いなくこれが僕らに有利に働いたんだ」
明けた日曜午後13時過ぎに開催されたレース1は、その前日予選とは一転。暑い状況が多くのドライバーに問題を引き起こすことに。スタートではナサニエル・ベルトン(コムトゥユーDHLチーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)をパスしたイヴァン・ミューラー(シアン・レーシング・リンク&コー/リンク&コー03 TCR)が3番手に浮上し、2台のシビックを追う展開となる。
しかし集団内ではジル・マグナス(コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ/アウディRS3 LMS 2)が早々にタイヤの問題を訴え、王者エルラシェールはエンジン冷却の必要に迫られ後退。僚友ビョークも技術的な問題により11周でピットインし、修復作業に7周を要する事態に。
こうした追走集団が苦しむ一方、逃げを形成したホンダ艦隊はタイヤやエンジン温度のマネジメントに集中し、ジロラミがライト・トゥ・フラッグでの勝利を獲得。2位にグエリエリが続きALL-INKL.COM・ミュニッヒ・モータースポーツがワン・ツーを決め、3位に“帝王”ミューラーの表彰台となった。
■2019年王者ミケリスに、次戦6グリッド降格ペナルティ
「僕はエステバンと一緒に最初のコーナーに近づき、そこからはクルマのケアに集中した。タイヤの損傷を避けるために縁石を避け、エンジンにはクールエアを当てることを優先した。チームが僕を信頼してくれて4年目、こんなかたちでシーズンを始められるのは素晴らしいことだね」と2022年最初の勝者となったジロラミ。
続いて現地午後17時過ぎに始まったレース2は、リバースポール発進だった2019年王者ノルベルト・ミケリス(BRCヒョンデN・スクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)と、今季はエングスター・ホンダ・タイプR・リキモリ・レーシングから参戦のアッティラ・タッシ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が接触。すぐさまセーフティカー出動となったこの事故で、ミケリスにはレース後「次戦6グリッド降格」の処分が下ることに。
リスタート後にウルティアから首位を守ったアズコナは、そのまま21周を独走。ウルティアやマ・キンファのリンク&コー勢を従え、移籍初戦で早くもヒョンデを手懐けるスピードを披露した。
「ヒョンデ・モータースポーツやBRCとの最初のレースで、こうして勝利を飾ることができて本当にうれしい。チーム全員の仕事に感謝したいし、今季も戦うことができそうだ」と、新天地での勝利を喜ぶアズコナ。
「僕の移籍以外にもヒョンデには多くの変化があり、チーム体制だけでなくマシンの習熟も大きな課題だった。(昨季までドライブした)クプラと対照的に長いホイールベースを持ち、ロングコーナーでは非常に安定しているんだ。これはドライビングに大きな影響を与えるし、タイトなコーナーでは別の方法でドライブする必要があるんだ」と続けたアズコナ。
「BRCでの作業方法も僕が経験してきたものとは異なるし、このクルマでは何ができて、何ができないのか。それにも気付き、慣れてくることができたと思うよ」
続くWTCR第2戦は5月26~28日にドイツ・ニュルブルクリンクの超難関トラック“ノルドシュライフェ”での1戦が待ち受ける。