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『SUPER FORMULA NEXT50(スーパー・フォーミュラ・ネクストゴー)』を掲げ、この先の50年も持続可能なモータースポーツ業界を目指し、次世代に向けた技術開発や、新たなコンテンツ発信などに力を入れ始めている全日本スーパーフォーミュラ選手権。今回は、シリーズプロモーターである日本レースプロモーション(JRP)の上野禎久社長に、改革の真意や現在の課題、目指している『フォーミュラレース像』など、多岐にのぼる話題について聞いた(取材は第3戦予選前に実施)。

“ドライバーズファースト”というスローガンやデジタルプラットフォームなどについて触れた前編に続き、この後編ではシリーズが現在取り組んでいる次世代車両開発を中心に聞いていく。

■次期シャシー名は検討中

──続いて、次世代車両開発について。空力の部分はより追い抜きがあるレース、より接戦を、というコンセプトかと思います。これまでは『とにかく速いフォーミュラ』『クイック&ライト』といったコンセプトを掲げられていましたが、転換を迎える時期なのでしょうか?

上野:転換といいますか……話が(前編の内容に)戻りますが、“ドライバーの腕を競う道具として何が正しいのか”、ということに尽きます。つまり、これもドライバーズファーストということです。

 ダウンフォースはフォーミュラカーのひとつの要素ですよね。僕たちが見てきたフォーミュラカーレースは、そこまでバトルがない。でもそれが良いという話ではなく、幸いいまのスーパーフォーミュラはワンメイクレースで、ほぼほぼパワー出力がそろったトヨタ・ホンダのエンジンを使っているなかで、ドライバーが腕を競う、チームが強さを競う道具として価値が上がってきています。

 その価値をさらに突きつめるなかで、いまのSF19のボディワーク、エアロダイナミクスが正解かと言ったら、課題があると思っています。

 SF14からSF19に変化するときは、後ろの空気を綺麗にするためにいろいろなディフューザーを付けたりと、開発をしました。速さを求め過ぎると当然後ろ(のエアフロー)は犠牲になるので、そういった部分は少し改善しながら進めていきます。とはいえトップフォーミュラなので、やはり速さにもこだわりたいところはあります。

──いまのシャシーは『SF19』ですが、手を加えようとしているシャシーは次のモデル名になるのでしょうか?

上野:それはいま、検討しているところです。

2022年スーパーフォーミュラ第4戦オートポリスの定例会見でコメントする上野禎久JRP社長
2022年スーパーフォーミュラ第4戦オートポリスの定例会見でコメントする上野禎久JRP社長

■新燃料開発におけるスーパーGTとの状況の違い

──スーパーGT第1戦の定例会見では、カーボンニュートラルフューエルについて、コスト増加をチームやオーガナイザー、プロモーターがどんな割合で負担するかという部分で、GTアソシエイションの坂東正明代表から踏み込んだ発言がありました。スーパーフォーミュラでは、どうなるのでしょうか。

上野:その部分はチームやみなさんも気にしているところだと思いますが、いまは発言を控えたいと思います。検討中ですし、決していますぐ(新燃料を)入れないといけないという話ではありません。いまは何が正しいかという答えを一生懸命探している段階なので、答えから入りたくないと考えています。そのプロセスで、我々が何を知るのか、得るのか(が大事)。

──永井(洋治/NEXT50テクニカル・ディレクター)さんからもお話がありましたが、本当にいろいろなものをこの1年で試していくということでしょうか。

上野:そうです。新たな燃料サプライヤーからの提案なども来ています。経済合理性の面も重要で、安くならなかったら市販にフィードバックされない。でもGTAさんはさすがで、サプライヤーともこのタイミングで契約されました。

──当初はスーパーGTともう少し協力体制を築いて新燃料の開発を……といった話がありましたが。

上野:ずっとその話はしています。我々はまだ銘柄も公開していませんし、燃料、成分を含めて、いろいろなものを試していきながらやっています。GTAさんとは異なる我々の強みを言うと、エンジンがトヨタさんとホンダさんしかないので、ちゃんと両社が技術的に合意したものであれば、いろいろなものが試せるという部分です。

 スーパーGTは(GT300クラス含め)エンジンの種類が多いので、そこの要件・環境がまったく違います。どちらというとGTAさんは広く遍くみんなに共通するルール(燃料)を作る必要がありますが、我々は技術的に尖ったことができるわけで、アプローチや環境が違うということです。

 もちろん、GTAさんとはずっと連携していますし、当然GTAさんが採用した燃料が最適という答えが出れば、それをどうやって我々が使うかという話になるかもしれません。

■横綱相撲のような“つまらない”レースがあってもいい

──2レース制は今季の大きなトピックですが、この先に向けてたとえば給油やタイヤ交換義務、オーバーテイクシステム(OTS)の使い方など、スポーティング規則の変更やバリエーションなどは考えていますか?

上野:検討はしています。ただ、いま具体的に答える内容はありません。僕が下ろしている指示は、ドライバーズファースト、ドライバーの実力を競うフォーマットは何かという部分でやってほしい、ということです。

 たとえばタイヤ2スペック制のときには、結局ソフトタイヤでどれだけ周回を重ねるかという選手権になってしまった。あれが本当にドライバーのスキルを試すレースなのか。給油ありのときも結局リフト&コーストをしながらの燃費走行で、それは本当にドライバーが速さを競うフォーマットなのかという疑問があり、それを少しずつ変えていったのがいまのフォーマットです。そういった意味では、いまのフォーマットが最適解とは思いません。ですが、そこ(ドライバーズファースト)は絶対にブレずにやってほしいと思っています。

 昔、中嶋一貴さんが「明日はつまらないレースをします」ということをポールポジション会見で言っていました。ポール・トゥ・フィニッシュで帰ってきます、という宣言だったわけです。

 でも、ポール・トゥ・フィニッシュはフォーミュラカーのレースで一番称賛されることです。誰にも影を踏ませずに勝つということは、本当に速いドライバーにしかできない。本当に強いドライバーは、つまらないレースをするわけです。

 大相撲の横綱もそうで、横綱が毎回土俵端に行っていたらつまらない。ドンと構えて倒して連勝もかっこいいじゃないですか。それはスポーツなので、僕はあっていいと思っています。フォーミュラカーでもそういった戦いをして良いのです。

 2レース制に対しても、『それでは速いドライバーが両方とも勝ってしまう』という声もありました。僕はそれも横綱相撲だから良いではないか、と思います。ですので、あまり意図的にバトルを作りにいくのではなく、速いドライバーがしっかりと抜けるクルマであればいいのだと思っています。

sformula, superformula
JRPが2022年を通じて新燃料、新素材、空力などをテストしていく次世代車両開発で使われているSF19 CN
2022年全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦オートポリス スタートシーン
2022年全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦オートポリス スタートシーン