2022年から共通ハイブリッド機構を導入する世界初のツーリングカー・シリーズに変貌を遂げたBTCCイギリス・ツーリングカー選手権が、4月23~24日の週末にドニントンパークで開幕。ノーハンデの予選では今季より名門ウエスト・サリー・レーシング(WSR)とのジョイントチームで参戦するジェイク・ヒル(MBモータースポーツ・パワード・バイ・ロキット/BMW 330e Mスポーツ)が最速をマークし、日曜のレース3で3人目のウイナーに輝く快走を披露する。そして同日オープニングのレース1を制覇し、共通ハイブリッド時代の幕開けを飾ったトム・イングラム(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8・トレードプレイスカーズ.com/ヒョンデ[旧ヒュンダイ]i30ファストバック Nパフォーマンス)が、残るヒートでも2位、5位と安定した戦績を残して新時代の主導権を握っている。
4月に入って以降、ドニントンパーク、クロフトを経て、スラクストンでのシーズンラウンチを兼ねた恒例“メディアデイ”を実施したBTCCは、複数年計画で準備を進めてきたコスワース・エレクトロニクス社製のTOCAハイブリッドシステムを組み込み、ついに新時代幕開けの日を迎えた。しかし直前にアナウンスされたハイブリッド機構の運用ルールは、従来のサクセスバラストを補完する意味合いも兼ね複雑高度化したものに。
シーズン最初の公式セッションとなったプラクティス1では、新たにスウィンドン・パワートレイン社製のヒョンデ・ベース新開発エンジンを搭載するイングラムが。続くプラクティス2では“メディアデイ”でもトップタイムを叩き出したディフェンディングチャンピオン、アシュリー・サットン(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)が最速を記録するも、予選ではそのハイブリッド機構が思わぬ事態を引き起こす。
開幕戦のクオリファイは今季ドライバーが各ラップ15秒のハイブリッド・エネルギーをフルに活用できた唯一のセッションとなるが、120km/h(75mph)以上で走行している場合にのみ利用可能な追加ブーストに対し、その速度に達する前にシステムをアクティブにすると、約2秒間の“ロックアウト”が発生する仕組みを取り入れている。
その最大の犠牲者となったのがインフィニティからの電撃移籍を決めた王者で、彼のフォーカスSTはアタックラップのシケイン出口でハイブリッドパワーが失われまさかの失速。モーターベース・パフォーマンス移籍デビュー戦で、ポールポジション獲得の夢が潰える事態となった。
■僚友ダン・カミッシュのフォードは予選で炎上
「正直に言って自分を蹴り飛ばしてやりたい。みすみす移籍デビューの華々しい戦果を自分で放り投げたようなものだからね」と、珍しく苛立ちを露わにしたサットン。「最終コーナー出口に向け集中しすぎていて、ハイブリッドの恩恵を自分で締め出してしまったんだ。データでは(最速ヒルの)BMWよりコンマ1秒はマージンがあったはずなんだ……」と続けたFF乗り換えのチャンピオン。
「しかし、これは僕らにとってまったく新しい事態であり、大きくポジティブな側面では、僕が前輪駆動車の中で最速であるということ。バランスは良さそうだし、実際のレースペースには勇気づけられている。レースで何が起こるか見てみよう」
そして同じく、オフテストではつねに上位を争ったモーターベースのもう1台、シリーズ復帰組のダン・カミッシュ(NAPAレーシングUK/フォード・フォーカスST)は、予選で「フロントガラスに燃料が吹き上がった際に問題が発生し、次に気付いたときには炎が上がった」とまさかのトラブルに見舞われ、鳴り物入りのNAPAフォード勢には厳しい船出となってしまった。
そんな2台とは対照的に、予選で成功を収めたのが新たなジョイントチームで参戦するヒルのBMWで、FP2ではギアボックスの不具合で早期に走行を切り上げ、クルーが懸命のトラブルシューティングを実施しながらも、そのビハインドを跳ね返し自身キャリア初の予選最速タイムを刻んで見せた。
「あの状況から初ポールを獲得したなんて信じられないよ。そしてチームとの最初の週末にそれを達成できたなんて最高の気分だ。セッション開始20分前には、まだギアボックスは付いていなかったんだからね」と、喜びを語ったヒル。
「あとはすべての信頼をチームに委ね、ひたすら限界を探った。クルマは夢のようなハンドリングを見せてくれ、この結果が得られてとてもうれしいよ。コリン(・ターキントン)が僕のそばにいるのも素晴らしいこと。明日はBMWのためにできる限り最善の仕事をし、WSRでのワン・ツーを目指したいね」
しかしその日曜レース1で主役を演じたのは、ポールシッターのヒルとフロントロウに並ぶ4冠王者ターキントン(チームBMW/BMW 330e Mスポーツ)ではなく、王者サットンの背後4番手からスタートしたイングラムで、オープニングラップ早々にフォードを仕留めて3番手へと浮上する。
■ヒルが5番手後退後に追い上げ見せるも、レース後車検で失格に
続くラップに向け首位のヒル、ターキントンのBMW同士はポジションを入れ替えながらサイド・バイ・サイドの同門対決を演じると、その間隙を突いたヒョンデが一閃。前に並ぶ2台の330e Mスポーツを押し除けるように前に出ると、ヒルはワイドになり5番手へと後退してしまう。
直後にリッキー・コラード(TOYOTA GAZOO Racing UK/トヨタ・カローラGR Sport)がストップし、6周目にレース再開が宣言されると、そのヒルが猛スパートを開始。8周目にジョージ・ギャンブル(カーガッツ・ウィズ・シシリー・モータースポーツ/BMW 330e Mスポーツ)を、続く11周目のオールド・ヘアピンでサットンをパスすると、みるみるWSRのエースに迫っていく。
ファステストを記録しながら4冠王者とテール・トゥ・ノーズに持ち込んだヒルは、最終シケインで最後のアタックに。しかしここでイン側のタイヤウォールにヒットしたBMWは右フロントのボディワークを破損し大きくスライド。これで勝負アリとなったばかりか、レース後車検で最低地上高違反が認められたヒルは表彰台を奪われ、勝者イングラム、2位ターキントン、そして繰り上げ3位に“古豪”チーム・ダイナミクスのゴードン・シェドン(ハルフォーズ・レーシング・ウィズ・カタクリーン/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)の今季初表彰台となった。
そのシェドンは続くレース2で2列目3番手からスタートすると、クラッチの問題で立ち往生したターキントンを降してハイブリッド時代の初優勝を獲得。2位にイングラム、3位にルーキーのギャンブルが続く表彰台に。
しかしリバースグリッド採用の最終ヒートでは、ポール発進となったヒルが雪辱の初勝利を獲得し、キャリア通算4勝目をマーク。2位サットンの背後では、ハイブリッドを使い果たしたにもかかわらず、好ディフェンスを披露していたダン・ロイド(ブリストル・ストリート・モータース・ウィズ・エクセラー8・トレードプレイスカーズ.com/ヒョンデi30ファストバック Nパフォーマンス)をファイナルラップでかわしたジョシュ・クック(リッチエナジー・BTCレーシング/FK8型ホンダ・シビック・タイプR)が続くポディウムとなった。
こうして幕を明けたハイブリッド新時代の2022年BTCCシーズン。続く第2戦は5月14~15日の週末にブランズハッチ、インディ・サーキットで争われる。