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 2リッターの直列4気筒直噴ターボと燃料流量リストリクターを採用した2014年のNRE(ニッポン・レース・エンジン)規定導入以降、出力でも燃費でも、こと「エンジン性能」という観点では天井知らずの進化が続いてきた。これはモータースポーツの世界がいかに進化の歴史に紐づいているとはいえ、あまり前例のない状況とも言える。

 スピード抑制の観点から、かつてエンジンの吸入空気量(エアリストリクター)で出力を制限してきた時代があったが、現在のNREは燃料リストリクターの採用による燃料流量によって規制が掛けられている。そのため時間当たりの流量が決められているガソリンから、力として持っているエネルギーを『発揮できる部分の面積を上げて』いくという熱効率の競争が続いている。

 そのためには「速い(早い)燃焼」により、短期間でいかに「燃焼の圧(P-Max)」を高く上げるかが勝負に。前者では副室燃焼(プレチャンバー)による着火が脚光を浴び、後者では共通タービンからできるだけ多くの空気を押し込み、少ない燃料ながら高い圧力に変換する超希薄燃焼の世界へと踏み込んでいる。

 そのトレンドは現在も変わっておらず、エンジン開発を担う技術陣が「燃焼を改善する」と話す場合「燃焼を早くして、P-Maxを上げていくという」取り組みを意味し、時間損失をいかに短くするかを目指して日夜の改善が続いている。

 エンジンの基本的な特性として圧力が上がっていくのはピストンの上昇過程となり、圧縮上死点で最大圧となる。このとき燃焼自体が早く完了し、すべてが力に変換されれば高い効率が保てるものの、その早い燃焼によって起こってしまう問題がある……それがノッキングだ。

 異常燃焼により本来のタイミングとは異なる発火が起きると、ピストンなどに想定外の力が加わり大きな負担が掛かってしまう。最悪の場合、振動から破損というトラブルにも繋がっていく。

 各メーカーとも燃焼時の火炎伝播(火炎が未燃焼領域に伝播していく状態)をどう広げるかを焦点にシミュレーションを重ねているが、現在のシミュレーションでは燃焼のスピードこそ分かれど、その燃焼の形状自体まで克明に判断することは難しいとも言われる。

 そこで燃焼の化学反応自体を解きながら、ノックが起こる部位を実機と相関を取りながら「ここにノッキングを起こさない形状はなにか」など、高い燃焼圧力を力に変えられるような形状を追求していく。

 一方でフリクションの観点からすると、ピストン上昇過程の圧力が邪魔になるという点もあり、燃焼室内でノックが起こる部位を検証しつつ、ピストン冠面などの形状を改良。カムの作用角によるバルブオーバーラップなども活用して“掃気”にも着目することで、燃焼スピードを助ける方法も検証する必要がある。

 燃焼ガスをどれだけ残留させずにキレイに排出できるか。その観点でも圧力損失の低減とノッキング抑制を狙うとなると、ポートの基本的形状とインテーク、エキゾーストの両カムシャフト系、そしてバルブオーバーラップの部分を最適化していくことになる。こうした要素の組み合わせが、いわゆる『燃焼改善』の開発サイクルとなる。

 そのうえで、レースを通じて高い競争力を発揮するには、レースペースを維持しながら給油時間をいかに短く済ませるかも大きな課題となる。その面では燃費が良ければ良いほど戦い方の自由度が上がり、先にピットへ入って満タンに給油し、その後も何km走れるのか。それが各陣営の強さに直結する。

 とくにGT500は他クラスとの混走で、300~450kmのレース距離でコンディションも移り変わるだけに、レースペースを維持するにはエンジン側での高いドライバビリティが求められる。ブレーキングとターンインから、トラクション領域で踏んでいったときに、どのようにトルクが出せるか。ドライバーの要求に対して最適なトルクの出方をしているか。この観点で現在トレンドとなっているのが「非過給領域でのトルク供給の確保」、つまり低いブースト域でもトルクが出るようなエンジンが理想とされている。

 先にもあったとおり混合気をリーン化(希薄化)するためには、空気を送り込むべくターボの過給圧も上げる必要がある。しかしブーストを掛ければ掛けるだけ、ドライバビリティ確保を狙ってアンチラグシステムを使用する必要性が高まる。ご存知のとおり、このシステムはスロットルオフ時に発生するタービンの回転落ちを補助し、燃料を使用してラグを解消、エンジンの応答性とレスポンスを確保する仕組みだ。

 ドライバビリティを確保しようとアンチラグに頼れば、燃費性能が犠牲になる背反が生まれる。そこで着目されるのが「非過給領域でのトルク供給の確保」という流れとなる。

 こうしたトレンドの一助となっているのが、2020年から採用されたボッシュ製共通ECUの存在で、初年度から2019年まで使用されたコスワース製ECUとは異なりトルクディマンド型と呼ばれる制御プログラムを採用する。

 従来のECUではスロットルとブーストの制御が連動し、スロットルを開けたなりにブーストも上昇、結果的にトルクを出しに行く方式だった。そのため、再度スロットルを踏み込んだ際に同じ開度の部分でラグが起きてしまう。

 一方で、パラメータ次第でドライバーの要求開度に対してスロットルを任意に操作できるトルクディマンド型では、過給しながら燃料と点火でトルクを抑え、オーバートルクになりそうな際にはスロットルを閉めるなど、空気量と燃料と点火を最適化することが可能になった。これにより非過給領域でトルクを確保しながらも、再ブースト時のノッキングも抑制するなど、ECUの使い方もより最適化し、洗練されていく過程にある。

 従来よりアンチラグシステムへの依存度が低いとされてきたホンダに対し、非過給領域でのトルク供給を改善して燃費性能とドライバビリティ両立を図ってきたトヨタ、そして急速燃焼に加えベース車両形状によるドラッグ低減も合わせ、最高速のみならず燃費性能まで改善を見たニッサンと、2022年は車体だけでなくエンジンの分野でも3社拮抗の図式が描かれる。