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 マクラーレンのランド・ノリスは、F1でキミ・ライコネンと競い合った3年間、彼とはひと言も話さなかったと語った。

 F1ドライバーたちは互いに親しく言葉を交わすことはあっても、F1のような強い緊張感と冷徹さが求められるスポーツのなかで友人同士にはなりにくい。しかし、厳しい条件をくぐり抜けた20人の精鋭スポーツマンという選ばれし者たちであり、互いの基本的な関心事に共感し合える個人でもある彼らは、連帯意識をもった特別な関係性で結ばれている。

 その冷ややかな物腰から、F1で過ごした20年のあいだ、ライコネンと親しい友人同士になろうとするドライバーはいなかった。ただ、彼独特の気質と不愛想かつ一本調子な率直さが相まって、ファンたちからは人気があった。

キミ・ライコネン&アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)
2021年F1第22戦アブダビGP キミ・ライコネン&アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)

 昨年までグリッド上で最年長だったライコネンは、おそらく若い世代のドライバーたちからは畏敬の念をもって見られていただろう。ただしそれは、彼らがふだん魅力を感じるような人当たりがよくて誠実なベテランドライバーとしてではなかったはずだ。

 ライコネンとノリスとは年齢が20歳離れている。これは、ふたりのドライバーの意思疎通を阻む、あるいは遠ざけるもうひとつの要素でもあっただろう。

 ノリスは、自身のQuadrant YouTubeチャンネルにおいて、ファンから2007年F1世界王者がいなくなって寂しいかと聞かれると、「僕から彼に言葉をかけたことは一度もなかったと思う。『やあ、元気?』というような、あまり親しくない人とすれ違いざまに挨拶を交わすようなときを除いてはね」と語った。

「キミを見られなくなって寂しいよ。彼のインタビューや、(彼の)そうした側面が見られないのはね。けれど、それ以外については、そう思わない」

「クールな人たちなら世界中に大勢いるし、グリッド上だってエキサイティングだよ」

2020年F1バルセロナテスト 初日会見
2020年F1バルセロナテスト初日会見 キミ・ライコネン(アルファロメオ)、ジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)、アレクサンダー・アルボン(レッドブル)、ランド・ノリス(マクラーレン)

 アストンマーティンのセバスチャン・ベッテルは、数シーズンにわたりフェラーリでライコネンとともに戦ったが、グリッドから友人がいなくなり、「自分を偽らない」彼を見られなくなって寂しいと言う。

「うん。彼は自分を偽らなかったんだと思う。チームメイトとして彼と過ごした時間は楽しかったよ」とベッテル。

「公平を期して言えば、僕はすでに以前から彼を知っていた。おそらく、僕がF1の世界に入った初日から今日まで変わらずに接してくれた、数少ないドライバーのひとりだと思う。若手だった僕を、その時点で最も名声が確立されていたF1ドライバーの彼が、とてもオープンに受け入れてくれたんだ」

「とても尊敬している。キミと口論になったり問題を抱えたりするような人はいないんじゃないかな。仮にそうなったとすれば、原因は彼でなく、相手にあるはずだ。彼は素晴らしい人だよ」

セバスチャン・ベッテル&キミ・ライコネン(フェラーリ)
2018年F1第21戦アブダビGP セバスチャン・ベッテル&キミ・ライコネン(フェラーリ)