2022年F1第7戦モナコGPでは、スタート直前に雨が降り始めた。その影響でスタートが遅れたものの、セーフティカー先導でスタートしたレースは、ウエットタイヤからドライタイヤへ履き替えるタイミングがレースを左右することに。母国レースでポールポジションを獲得し、先頭からスタートしたシャルル・ルクレールだったが、戦略ミスによりまさかのポジションダウン。一方でレッドブル勢はピット戦略でポジションを上げることに成功したのだった。モナコGPのレースを無線とともに振り返る。
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モナコGP決勝当日は、降雨の予報が出ていた。それでも各マシンがグリッドに向かうレコノサンスラップまでは、完全ドライ。ところがスタート15分前になって、本格的に雨が降り出した。
マルコス・パドロス(→シャルル・ルクレール):これぐらいの雨が10分続いて、その後2、3分軽い降りが続く
ルクレールの担当エンジニアは雨雲レーダーをもとに、そんな見通しを伝えた。しかし雨はいっそう激しく降り続け、最初のスタートはすぐに赤旗中断となった。
ダニエル・リカルド:正直行って、そこら中びしょ濡れだ
ルクレール:とんでもなく雨が降ってる
ミック・シューマッハー:フォーミュラカーのレースで、こんな雨ありえないよ(笑)
ルイス・ハミルトン:みんな、深呼吸して行こう
ハミルトンからチームメンバーへの呼びかけは、難しいコンディションのレースに臨む自分自身へ言い聞かせたものでもあっただろう。
最終的に1時間6分遅れで、SC先導のフォーメーションラップが始まった。
フルウェットタイヤを履いているにもかかわらず、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)がヘアピンで曲がりきれず、バリアにぶつかってしまう。
ラティフィ:ガエタン、全然曲がらないよ。
ランス・ストロール(アストンマーティン)もマスネでガードレールの餌食になり、いずれもピットに戻って最後尾からコースに復帰した。
3周目から、スタンディングスタート。ルクレールがホールショットを決め、カルロス・サインツ(フェラーリ)、セルジオ・ペレス(レッドブル)、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が追う。
雨はほぼやんだが、コース上では場所によって盛大にしぶきが上がっている。路面状況について、エンジニアとドライバーが頻繁に情報を交換する。
(7周目)ジャンピエロ・ランビアーゼ:コンディションは、どう?
フェルスタッペン:乾きつつあるけど、このタイヤでもトリッキーだよ
それでも7、8周後には、かなり乾き始めていた。
(13周目)ペレス:完全にインターミディエイトだ
(14周目)マルコス・パドロス:他の車は、直接スリックに行くことを考えてる。きみは、どう思う?
ルクレール:可能かもしれないけど、なんとも言えない
マルコス・パドロス:わかった。(2番手)サインツのタイムは33秒0だ
15周目のハミルトンのピットインを皮切りに、各車が次々にタイヤ交換に向かう。そのほとんどがフルウェットから浅溝のインターミディエイトに履き替えた。そんななか、フェラーリのふたりはインターへの交換には懐疑的だった。
(16周目)アダミ:ペレスがピットイン、インターだ
サインツ:僕らは直接、スリックで行ける
マルコス・パドロス:ペレスがピットイン。インターだと思う。……確認した。インターだ
ルクレール:このまま行くのが、いいと思う
マルコス・パドロス:了解した
しかしサインツが21周目まで引っ張って、直接ハードタイヤを履いたのに対し、ルクレールはなぜか18周目にインターに履き替えた。これがふたりの明暗を、大きく分けることになる。
サインツ:あと6周ほどしたら、ドライになりそうだ
アダミ:ステイアウトで行こう
(19周目)アダミ:スリックの準備はできている
サインツ:コンパウンドは?
アダミ:ハードだ
21周目、暫定首位のサインツと、3番手まで後退していたルクレールに、同時ピットインの指示が出た。
(20周目)アダミ:ボックス、ハードを履く
サインツ:OK
(21周目)マルコス・パドロス:ボックス、ボックス、ハードに履き替える
マルコス・パドロス:いや、ステイアウト、ステイ、ステイ! ステイアウトだ!
ルクレール:XXXX! XXXX! なぜだ!? どういうことだっ!何やってるんだ!
マルコス・パドロス:タイヤポジション5
ほんの数秒だったが、サインツの後ろで待っていたことで、ルクレールは4番手まで順位を下げてしまう。
担当エンジニアは、なんとかルクレールを落ち着かせようとする。
マルコス・パドロス:レースは長い。いい仕事をしてるよ
次の周にはレッドブルも、同時ストップ作戦を敢行した。
(22周目)アダミ:ペレスとフェルスタッペンがピットだ。プッシュしろ
マルコス・パドロス(→ルクレール):ペレスはハード、フェルスタッペンもハードだ。プッシュしろ
アダミ(→サインツ):ペレスは前、フェルスタッペンは後ろだ
マルコス・パドロス:すぐ前にフェルスタッペン、その前にサインツだ
ルクレール:僕らは4番手だね……
サインツ:リヤタイヤがオーバーヒートしてる
49周目、角田裕毅(アルファタウリ)を抜こうとした周冠宇(アルファロメオ)が、シケインブレーキングで挙動を乱し、マシンはほとんど横を向くが、かろうじて立て直した。
周:トライしたんだけどね。あとでパンツ履き替えないと
ちびりそうなくらいの状況で、こんなジョークを言える周は、なかなか大物かもしれない。
レース終盤は上位4台が一団となる接近戦が展開されたが、モナコではよほどのミスがない限りオーバーテイクは不可能だ。そのままペレスがモナコ初優勝。ルクレールは、今年も地元GPで勝つことはできなかった。
バード:モナコだぞ
ペレス:なんてこった。やったぞ! みんな、本当にありがとう! 最後はきつかったけど、みんなのおかげだ。そして昨日はすまなかった
バード:いい旗を見つけたじゃないか
ペレス:(笑)ちょうどメキシコ国旗があったんだ
マルコス・パドロス:4位だ
ルクレール:言葉もないよ、言葉もない。シーズンは長い。でもこんなんじゃ、勝てない
ルクレールはチームと担当エンジニアへの信頼を、取り戻すことはできるのか。そしてフェラーリ側は、再発防止にどんな有効な手を打てるのか。その打開策がない限り、ルクレールと跳ね馬の王座奪還は難しいかもしれない。