5月29日、鈴鹿サーキットで行われた2022スーパーGT第3戦『たかのこのホテル SUZUKA GT 300km RACE』は、GT500クラスは3号車CRAFTSPORTS MOTUL Z(千代勝正/高星明誠)が、GT300クラスは7号車Studie BMW M4(荒聖治/近藤翼)が制し、ミシュランタイヤユーザーが2014年第5戦富士以来となる8年ぶりの両クラスダブル優勝を飾った。
レース後、日本ミシュランタイヤのモータースポーツダイレクターを務める小田島広明氏に、両クラスの第3戦鈴鹿の戦いについて聞いた。
「8年の間にGT500クラスだけの期間もありましたが、2020年にGT300クラスに復帰し、今年は実質GT300復帰2年目となりましたが、今回ダブル優勝できたことで我々としても手応えを感じています」と小田島氏は振り返る。
GT500は前戦富士での大クラッシュによりほぼ新車状態となった3号車CRAFTSPORTS MOTUL Zが予選3番手を記録しセカンドロウを確保。一方、23号車MOTUL AUTECH Zは予選Q1で12番手と後方に沈む結果となった。2台は同じ車両かつ、同じくニスモがメンテナンスを担当し、さらに同じコンパウンドのハードタイヤを装着してQ1に臨んだが、タイムにして1.130秒の差が開いた。
「2台ともタイヤに違いはありません。ただ、車両側の違いとして23号車の方が少しサクセスウエイト(SW)が重かったことが(Q1のタイム差の理由の)ひとつだと思います」と小田島氏はその要因を説明する。確かに、3号車のSWが12kg、23号車が30kgと重量にして18kgの違いはあるが、決してそれだけが理由ではないだろう。
3号車は予選中、至るコーナーでフロントアンダーパネルから火花を散らし、フロアのスキッドブロックから白煙を上げるまで車高を下げており、その姿は中継映像でも際立っていた。車高を下げたことでフロア下でダウンフォースを稼ぐことに成功したことも大きな要因だろう。
この低車高を実現するにあたり、予選でのタイヤの内圧も低めだったのではという見方もあったが、小田島氏は「23号車は高め、3号車は低めと言えるほどの差はなかったと思います」と明かした。
決勝日は気温は33度、路面温度は49度と、5月にしては異例の真夏日となった。スタート早々、3号車はタイヤの発動性の良さをみせ、2コーナーで37号車KeePer TOM’S GR Supraをかわし2番手に浮上すると、同じくオープニングラップの130R進入でポールシッターの19号車WedsSport ADVAN GR Supraを仕留め、ラップリーダーとして2周目を迎えた。
「予選日から気温も路温も想定より5度ほど高めでしたが、タイヤが故障してしまうといった心配はありませんでした。ただ、狙っていたプライマリゾーンからは少し高めの温度だったのは事実です」
「ハードタイヤでのスタートでしたので、(気温・路温に対しタイヤが)固すぎるといった心配はありませんでしたが、デグラデーション(性能低下)やピックアップ(タイヤマーブルなどが装着すること)、そしてブリスター(タイヤの温度上昇で表面に気泡ができること)に関しての心配はありました」と小田島氏。しかし、幸い懸念事項であったこれらの症状はレース中に出ることはなかったという。
「発動性の良さというアドバンテージを保ちながら、タイヤの耐久性も十分に想定の範囲内で、安定したレースができたと思います。当然、オフのテストの頃よりも暑く、5月の鈴鹿にしては温度域が高めで推移したなか、持ち込みの範囲内で対応できたことも良かったです。また、8月の第5戦鈴鹿大会に向けても、大きな材料が得られたとも考えています」
GT500では2015年シーズン以来、シリーズタイトルからは遠のいているミシュラン。第3戦を終えて、3号車はランキング首位(獲得ポイントは14号車ENEOS X PRIME GR Supraと同じ52ポイント)に浮上している。7年ぶりのタイトル奪還に向けて「1勝だけではなく、チャンピオンシップを考え、油断せずに頑張っていきたいと思います。最終戦までまだまだ長いですから」と小田島氏は語った。
■開発タイヤのグルーピング適正化で掴んだGT300の8年ぶりの美酒
一方、ミシュランタイヤのGT300優勝は、先述の2014年第5戦富士以来、8年ぶりとなった。車両が今季初投入となったBMW M4 GT3ということもあり、今季の第1戦岡山では「ペース的には頭打ちで、我慢のレースを強いられてしまいました」と小田島氏は振り返る。
「第2戦富士では、第1戦のデータのフィードバックを行い、少し向上した部分もありました。依然として課題が残る部分はありましたが、“こういう方向に進めばいいな”と、我々として目指す方向がここで見えました」
今季GT300では1台のみの供給であり、また第2戦富士の決勝はパワーステアリングのトラブルで早々にリタイアとなった。データも十分とは言えない状況ではあったが、「手応えが得られそう」な方向性を掴み、第3戦鈴鹿に臨んだミシュラン。
既報のとおり、ミシュランはGT300へのタイヤ供給にあたり、一からGT300専用のタイヤを開発するのではなく、数ある開発タイヤのラインアップからGT300で使用するタイヤを選択するという体制を敷いている。2022年シーズンはその選択できる開発タイヤの使用枠を拡大して臨んでおり。今回の8年ぶりの勝利にも、その新たな供給スタンスが寄与したという。
「2戦を終えて、BMW M4 GT3で使える開発タイヤのグルーピングが適正化されていった結果だと思います」と小田島氏。さらに、7号車のタイヤ選択は“安定志向”だったとも明かした。
「ただ、2本交換や無交換といった、300kmレースにおけるトリッキーな戦略ができるほどの選択肢の幅がまだありませんでした。岡山、富士と過去2戦を振り返ると、決勝中のデグラデーションの問題があったため、まずは“きちんと完走できるタイヤ”を選択しましょうとチームと話しました。そのため、予選、決勝と安定志向のタイヤでしたが、鈴鹿のあのコンディションにおいては、速さもともなっていた、というふうに考えています」
また、決勝の第2スティントを担当した近藤が、タイヤ無交換作戦でマージンを得たマッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号をアウトラップで抑え切ったことも、8年ぶりの両クラスダブル優勝を掴んだ大きな要因に違いない。また、小田島氏は「もう少しタイヤのグルーピングの適正化を煮詰めることができれば、戦略の幅も提供できるのではとは思っています」と今後に向けた見通しも口にする。
「第3戦鈴鹿は我々が思い描いていたストーリーに対し、両クラスとも懸念していた部分が思っていたよりも出なかった、というのも正直なところです。そして、我々の方向性も間違っていなかったことがわかり、自信になりました。タイヤ、クルマともに進むべき方向性を維持し、さらに煮詰めていくためのひとつの指標ができたレースになったと思います」と小田島氏は第3戦を総括した。
次戦となる2022年シーズン第4戦は、第2戦と同じく富士スピードウェイで開催される。すでに一戦を経験している舞台で、ミシュランタイヤはどのような走りを見せるだろうか。“仕切り直し”となる決勝450kmの戦いの、その戦いぶりに注目したいところだ。