アメリカ・カンザス州の1.5マイル高速“トライ・オーバル”で開催されたNASCARカップシリーズ第13戦『AdventHealth 400』は、この日最多の116周をリードしたカート・ブッシュ(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)が、最強の弟カイル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)や、23XI共同ファウンダーのデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)らのサポートを受け、最後の攻防でディフェンディングチャンピオンのカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)を撃破。移籍加入の新天地で今季導入の新車両規定“Next-Gen”での初優勝を飾るとともに、ハムリンと並ぶ共同創業者でもあるバスケット界の“伝説”マイケル・ジョーダンに捧ぐ勝利を手にした。
このカンザスシティの週末に向け、その象徴的なジョーダン・ブランド“ジャンプマン”で飾られたペイントスキームを採用したカートの45号車は、公式練習から未だ未勝利の地で幸先よく最速タイムをマーク。弟カイルもそれに続き、ブッシュ・ブラザースがプラクティス首位を分け合うと、続く予選ではクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が自身2戦ぶり、今季3度目のポールウイナーに輝き、JGRと23XIのトヨタ陣営が公式セッション完全制覇の好調さを見せた。
迎えたファイナルでは、スタートから37周をリードしたベルが62周目に不運に見舞われ、ここ数戦で頻発するイン側の左リヤタイヤが“フラット”になり後退。代わってステージ1は2022年“台風の目”ロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)を抑えたカンザス優勝経験者、カイルが勝利を手にする。
そのまま好調を維持したトヨタ艦隊はカート、カイルの兄弟編隊でステージ2も制覇し、最終局面へと向かっていく。すると残り33周時点でこの日最後のリスタートを迎え、首位ラーソン、2番手カイルに次ぐ3番手にいた兄がスパートを見せる。
弟カイルも背後の兄をうまくリードし、ドラフティングのサポートに徹して残り22周で道を開けると、この日は終始ハイラインで苦しいハンドリングを見せていたラーソンの5号車に肉薄。
するとサイド・バイ・サイドで迎えた残り9周時点で、わずかにウォールを触ったHMSシボレーがロスを喫し、ボトムから抜けたカートが1秒以上のマージンを守ってトップチェッカー。カートがカップ戦通算34勝目を手にするとともに、チームに待望の2勝目をもたらす結果となった。
「それはすべてチームワークに関するもので、僕ひとりがこれを成し遂げたわけじゃない。トヨタやJGRが僕を助けてくれ、そしてスゴい弟が家族の絆を発揮してくれたんだ!」と、開口一番に感謝を口にしたカート。
「カイルを味方にできれば、すべてを手にすることができる。僕はただ自信を持って挑む必要があっただけだ。これは45号車とジョーダン・ブランドのボンネットで手にした最初の勝利で、まさにG.O.A.T(史上最高の選手/ジョーダンの意)のようにプレーし、カイルを倒さなければならなかったが、それをやり遂げたんだ」と、これでフォード、ダッジ、シボレー、トヨタの4つの異なるメーカーで勝利を飾ったカート。
■眼前で見たカートの勝利に「感情的になった」と4位チェッカーのハムリン
「そう、僕は多くのチームやメーカーと一緒に戦った。今、この勝利でトヨタのボックスをチェックすることができたが、それは家族についての話であり、僕はクルーやチームのメンバー全員を愛している。真新しいカーナンバーでゼロから作業するのは、最も満足のいくことだね」
一方、このレースで29周のリードラップを記録したラーソンは、ウォールにタッチする直前に「カートとのコンタクトはなかった」と語りつつ、勝利を目指したチャージは叶わなかった、と明かした。
「もちろん勝ちを狙ったけれど、ハイラインでは彼の位置を見ながらスロットルを絞らざるを得なかった。今日はその位置で少しキツかったけれど、カートとのレースは楽しかった。チームには感謝しているけど、今日は本当にたくさん壁に当たって苦労したよ」
3位カイルに続き、5位まで回復してきたベルや6位のマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)を従え、4位チェッカーを受けたハムリンは、自身のカップシリーズ通算47勝、そしてデイトナ500で挙げた3勝よりも、眼前で見たカートの勝利に「感情的になった」と、レース後のインタビューで涙を浮かべた。
「それは僕の目の前で繰り広げられ、正直に言って、心の底から1-2フィニッシュを望んでいたから、その点だけは悔しいんだけどね」と続けたハムリン。「本当におかしな部分だが、その瞬間をライブで見て思わず『行け、行け!』と叫んでいたんだ。それはとても奇妙な気持ちだ。僕自身、自分のラップタイムを見て、自分の仕事をしていたし、クルマのパフォーマンスを最大限引き出すことに集中していたからね」
その後、ビクトリーレーンに向かうカートと祝福を交わしたハムリンは「これまでの勝利で、これに匹敵するものはなかった」と明かした。
「感情的に? 確かにそうだね。どうしてだろう、この勝利がデイトナ500よりエモーショナルに感じられるんだ。わからねいけど、目の前でライブで見たからかな。彼らがどれほど一生懸命働いているかを知っているし、僕らは家族だ。僕らが今いる小さな建物のなかには、家族がいる。皆、非常に距離が近くて親密だから、その理由でこの勝利が大きく感じられるんだろうね」
併催のキャンピング・ワールド・トラックシリーズ第8戦は、134周のうち108周をリードしたタイ・マジェスキー(トースポーツ・レーシング/トヨタ・タンドラTRD Pro)からのレイトチャージを喰い止め、ゼイン・スミス(フロントロウ・モータースポーツ/フォードF-150)が勝利。服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライゼスは、16号車タイラー・アンクラムが16位、序盤トップ10圏内を走行したチェイス・パーディの61号車は、ラスト6周で最後尾から20台抜きを披露し、13位までカムバックしている。