もっと詳しく

 第106回インディアナポリス500マイルレースは、予報通り快晴の下で行われた。観戦チケットの売れ行きも良く、およそ32万人と過去2番目の入場者数になると予想されていた。

 先週末の予選、それと金曜日カーブデイが天候に左右されていたことを思えば、嘘のように晴れ渡ったインディのスーパースピードウェイで33台がスタートを切る瞬間は、パンデミック以前のインディ500に完全に戻ったようだった。

 デイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシングの佐藤琢磨は、プラクティスの好調さを予選で発揮するとができず予選10番手からのスタートだった。

 月曜日のプラクティス、そして金曜日のカーブデイで、レースセッティングの確認を重ね、10番手から挽回する策を考え続けていた。

 まずは前半の100周で5番手まで上がること。それがレースで自分に課していた最初の命題だった。そして勝負は終盤に……。

 昨年までキャンセルされていたインディ市内のパレードや、スタート前のセレモニーもすべて復活し、ロジャー・ペンスキーの“Gentle men, Start you engines!”のコマンドで33台に一斉に火が入ると、30万人の歓声が響き渡った。

 レースがスタートすると琢磨はライバルとのポジション取りで前後しながら11番手になって戻ってきた。その後サンティーノ・フェルッチ(ドレイヤー&レインボールド)にも抜かれて12番手となる。ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)を自力で抜いたのは19周目だった。

レース序盤は12番手を走行する佐藤琢磨
レース序盤は12番手を走行する佐藤琢磨

 最大のライバルで優勝候補筆頭、チップ・ガナッシのスコット・ディクソンが思いの外早く30周目に最初のピットに向かった。チームメイトのアレックス・パロウもその翌周にピットへ。

 トップ争いで燃費が悪いのか、さもなくば早く入る作戦なのか。まずはガナッシ勢が最初にレースを動かす。琢磨がピットに入るのは、ディクソンから3周後のことだった。

 琢磨のピット後にリナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)のクラッシュがあり、41周目から45周目までイエロコーションとなったが、それがグリーンになった時、琢磨は4ワイドの大外からポジションを上げて7番手となった。

4ワイドで走行しアウト側が3台を一気に交わす佐藤琢磨
4ワイドで走行しアウト側が3台を一気に交わす佐藤琢磨

 2回目のピットインはカラム・アイロット(フンコス・ホーリンガー・レーシング)のクラッシュで出たイエローコーションの最中だった。6番手にいた琢磨は、ピットの後に10番手まで落ちてしまった。ポジションを上げるのに苦労していただけに大きな痛手だ。

 琢磨は10番手のポジションを第3スティントの間キープし続けた。

 4回目のイエローコーションはロマン・グロージャン(アンドレッティ・オートスポート)がターン2でクラッシュした際に出された。ここでレースのちょうど半分の頃である。9番手にいた琢磨は、そのキープを保ってコースに戻り、8番手に上がって第4スティントを終える。

 トップ10以内で戦いながら、ポジションを上げられないもどかしさが、伝わって来るようなレースだった。レースがグリーンのまま145周目にピットに入った琢磨は、ややオーバシュートとなりピット作業に時間がかかった。

 結果12、13番手までポジションを落とすことになってしまう。ここから少しずつ歯車が狂い始めた。

 レースは残り50周あまり。このままでは大きなポジションアップは叶わないと読んだピットは、イエローコーションの最中となった157周目に琢磨をピットに呼び、ピット作業を済ませ、残りを走り切る作戦を取った。奇しくも昨年のレイホール・レターマン・ラニガンが取った作戦と酷似している。

ストラテジーを変更しピットインする佐藤琢磨
ストラテジーを変更しピットインする佐藤琢磨

 琢磨は一時27番手まで落ちながらも、燃費をセーブした走りで、ライバルが最後のピットに入っていくのを尻目にポジションアップし、185周目には4番手まで上がった。

 琢磨の燃費はギリギリ。イエローコーションが出るのを熱望している間に、ピットから出てきたマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ)、パト・オワード(アロウ・マクラーレンSP)が琢磨を抜いていく。

 残り周回が10周を切ったところで、燃料が足らなくなりピットは琢磨を呼ぶしかなかった。193周目に琢磨はピットに向かい、これで上位入賞の可能性は失せた。そしてその翌周にジミー・ジョンソン(チップ・ガナッシ)がクラッシュし、なんとここでイエローが……。

 せめてあと1周早くと思わずにいられない瞬間だった。

 レースは残り4周で赤旗となり、残り2周のシュートアウトとなったが、琢磨の順位が上がるべくもなく、25位で今年のインディ500を終えることになった。

「今持っているパッケージで最大限にダウンフォースを減らしていくセッティングでしたが、中盤から上がって来るのも苦労したし、前に出ないと勝負できないクルマだというのはわかってました」

「でも勝負するには5回のピットをすべて完璧にこなし、ポジションを失わないことが前提で、最後はチームもギャンブルをせざるを得なかった。インディは難しいですね」

「予選で前のグリッドを確保できなかったから、こういう形になったわけですから。それでもデイル・コインとの初めてのインディ500は学ぶこともあったし、プラクティスからずっとチームは良くやってくれました。また来週のデトロイトから頑張りたいと思います……」

 自分が描いていたレースの理想像とは違った形で終ってしまい、さすがのインディ500二冠のチャンピオンも意気消沈。その後ろではエリクソンの優勝を讃える歓声がこだましていた。