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 4月25日、トムスとデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社は、『デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社と株式会社トムスの包括的協業における、開始から1年の成果発表』と題した記者会見を合同で行い、2021年3月に開始したモビリティサービス領域での包括的な協業について、取り組み開始から1年が経過後の成果と今後の予定を発表した。

 日本のみならず、世界で活躍するレーシングチームとしてその名を知られるトムスと、国内最大級のビジネスプロフェッショナルグループであるデロイト トーマツ グループにおいて、ファイナンシャルアドバイザリーサービスを担い、M&A、クライシスマネジメントという分野を主要な事業領域としているデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー。

 両社の協業は、新しいモビリティ社会の確立に向けた業界変革を構想し実現することを目的に2021年3月に開始され、デロイト トーマツが有する専門スキルと、トムスのモビリティ業界での知見やネットワークを活用し、7つの分野における事業構想の実現および関連サービスの強化を図るものだ。

 協業開始からおよそ1年が経過した2022年4月25日、両社は合同で記者会見を実施し、これまでの成果と今後の予定を発表した。会見はデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーから三木要氏、有限責任監査法人トーマツから染谷豊浩氏、そしてトムスからは代表取締役社長の谷本勲氏、取締役会長の舘信秀氏、計画室長の田村吾郎氏が出席し、協業を行う7つの分野の成果と今後の予定について語られた。

■1.グローバル人材の育成

 まずひとつめのグローバル人材の育成では、2021年からジュリアーノ・アレジをサポートした結果、アレジは全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権から2022年は全日本スーパーフォーミュラ選手権へステップアップを果たすともに、スーパーGTではGT300クラスからGT500クラスへも参戦を果たし、アレジはダブルステップアップを果たる結果になった。

 2022年に向けては、2021年にフォーミュラリージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップのチャンピオンである古谷悠河を、アレジに次ぐグローバル育成選手として指名し、今シーズン参戦のスーパーフォーミュラ・ライツからスーパーフォーミュラへのステップアップを目指す。

 会見冒頭には、そのアレジと古谷も姿を見せ、アレジは「昨年初めて日本に来て、スーパーフォーミュラ・ライツに参戦し、GT300、スーパーフォーミュラのチャンスも貰いました。ですが、一番大切なことは昨年初めからのデロイトトーマツさんのサポートです。今年もサポートを続けてくれてとてもうれしいです」と日本語でデロイトトーマツへの感謝の言葉を述べた。

 そして古谷も、「今年はスーパーフォーミュラ・ライツにDeloitte. HTP TOM’Sから参戦することになりました。このような素晴らしい体制でレースに参戦することができることに感謝したいです」と始め、続けて今季の意気込みを語った。

「開幕戦では少し厳しい結果でしたが、鈴鹿大会では表彰台に上がることができたので、この勢いで次は優勝を狙い、チャンピオンも狙って頑張っていきたいと思います」

記者会見に出席したジュリアーノ・アレジ(左)と古谷悠河(右)
記者会見に出席したジュリアーノ・アレジ(左)と古谷悠河(右)
デロイトトーマツに感謝の言葉を述べるジュリアーノ・アレジ
デロイトトーマツに感謝の言葉を述べるジュリアーノ・アレジ

■2.レースデータ分析(アナリティクス)

 レースデータ分析では、トムスのエンジニアとデロイト トーマツのデータサイエンティストがタッグを組み、最先端のレースデータ分析プラットフォームを開発することに成功。これにより、より強固なレース戦略上のアドバンテージを獲得できるようになり、各セッションデータをリアルタイムで分析することで戦略をアップデートすることが可能に。4月24日に行われたスーパーフォーミュラ第3戦鈴鹿での宮田莉朋のピットストップでもこの技術が活用されたという。

 2022年には、データロガーの自動解析システム導入を通じ、車体の状態やドライビング特性の瞬時解析によるタイム短縮と、レースエンジニア業務の負荷軽減を実現するとともに、住友ベークライト株式会社の高性能脳波測定器を用いたデータ計測により、ドライビング中のドライバーの集中状態の科学的な解析や、運転特性との関連についての研究を推進していくとのことだ。

■3.オートパーツメーカーへの事業承継支援戦略

 オートパーツメーカーへの事業承継支援戦略では、2021年に、創業40年の老舗ヘルメットメーカーである石野商会の事業承継を実施し、今年は経営人材のアサインと再成長に向けた事業変革の実施を石野商会に継続していく。そのほかにも継続的に事業承継案件を検討しており、年間1~2件の事業承継の実施を予定している。

■4.EV技術等の開発、EVレース場の運営

 続いてのEV分野では、2021年に25kW級の競技用カート、6kW級のレンタルカートを開発するとともに、アジア圏随一の“モビリティ・エンターテイメントの聖地と謳われる『ひろしまモビリティゲート(名称仮)』が広島県の再開発事業において採択された。

 このエンターテイメント施設では、トムス・フォーミュラ・カレッジやサイクリング、野外イベントなどが実施できる多目的サーキット広場のほか、室内EVカート場やレーシングシミュレーターが体験できる施設、自動車・バイクディーラー、飲食などが行える施設が集まったものになる。

 今後もひろしまモビリティゲート(名称仮)を進めながら、2022年に向けては、国内においてEVカートレースの開催を検討しており、都市部でのエキシビジョンマッチの実施を予定しているという。

『ひろしまモビリティゲート(名称仮)』の概要を説明する谷本社長
『ひろしまモビリティゲート(名称仮)』の概要を説明する谷本社長

■5.Eスポーツの展開とデジタル・ツインの実現

 5つめのEスポーツとデジタルツイン関連では、トムスは新たに9機種のレーシングシミュレーターを開発し、2022年4月20日から東京タワー内にオープンした最先端のEスポーツパーク『RED゜TOKYO TOWER』内の機種に、開発したシミュレーターの一部をインストールして営業している。

 今後の予定としては、上記のEVカートレースの開催とともに、デジタル・ツインとしてEVカートとシミュレーターのリアルタイム連動を計画しており、リアルカートとシミュレーターを連動させ、ナイトレースなどの大規模都市型イベントを実施予定だとしている。

トムスが新たに開発したレーシングシミュレーター。左下の機種は畳1畳ほどで設置が可能だという
トムスが新たに開発したレーシングシミュレーター。左下の機種は畳1畳ほどで設置が可能だという

■6.スーパーシティ・スマートシティとの連携

 続くスーパーシティ・スマートシティとの連携では、2021年に内閣府と千葉県前橋市が推進する『交通テック×脳テック』においてドライブシミュレーターを提供。同時に住友ベークライトの高性能脳波測定器を利用し、運転中の脳波の研究を実施した。

 今後も、前橋市の交通テック×脳テックへの参画を継続し、シミュレーターシステム、解析装置などの高精度化も合わせて実施するとともに、運転中の脳波研究を継続することで交通事故削減へと繋げていくという。

千葉県前橋市の『交通テック×脳テック』の様子。左下が住友ベークライト製の高性能脳波測定器
千葉県前橋市の『交通テック×脳テック』の様子。左下が住友ベークライト製の高性能脳波測定器

■7.オートメーカー全般を含むESG戦略の策定

 最後となる7つめのオートメーカー全般を含むESG戦略の策定では、スーパーフォーミュラをプロモートする日本レースプロモーション(JRP)が推進する『NEXT50』において、デロイト トーマツが従来のストラテジーパートナーに加えて、トップパートナーに就任することが3月に発表され、今後もカーボンニュートラルに向けたさまざまな取組やモータースポーツ全体の変革支援の実施を予定しているとのこと。

 こちらについては、これまでの具体的な成果が明らかにされていないが、「目指すべきものが大規模なので、この1~2年の成果としてではなく、中長期の視点で見ています。ですが、大きな取り組みに一歩一歩着手しているということだけは間違いなくお伝えすることができます」とトムス谷本社長が補足した。

 レースデータ分析プラットフォームやEVカート、レーシングシミュレーターの開発など、協業開始からおよそ1年ですでに成果や結果が出ているものもあれば、今後のカーボンニュートラル社会に向けた長期的な取り組みも着々と実施しているトムスとデロイトトーマツのパートナーシップ。今回は協業1年が経過したことによる会見だったが、両社は今後も随時情報を発信していきたいと語っており、2年後、さらに長期での取り組みにも期待が寄せられる協業となっていきそうだ。

トムスのドライバー育成について説明する谷本社長
トムスのドライバー育成について説明する谷本社長
EスポーツからEVカート、トムス・フォーミュラ・カレッジまでのピラミッド図
EスポーツからEVカート、トムス・フォーミュラ・カレッジまでのピラミッド図