今年一番の暑さの中で行われた2022全日本スーパーフォーミュラ選手権の第4戦オートポリス。決勝レースでは平川亮(carenex TEAM IMPUL)が今季2勝目を飾り、8番手からの見事な逆転劇に注目が集まったが、その後方ではルーキーの三宅淳詞(TEAM GOH)が初の3位表彰台を獲得した。
新体制となったTEAM GOHにとっても嬉しい初表彰台となったが、その実現には状況に応じたチームの適確な戦略変更と、三宅のレースペースの良さが大きなカギとなっていた。
■急きょ戦略を変更
前日の予選では自身最上位となる5番グリッドを獲得した三宅。スタートでは2つポジションを落としたものの、そこから安定したペースを披露したのと同時に、レース後半までピットストップを引っ張る作戦を採った。結局、全体の中で一番遅い32周目にタイヤ交換義務を消化すると、3番手でコースに復帰。終盤は2番手のサッシャ・フェネストラズにも迫る勢いをみせ、3位でチェッカーを受けた。
国内トップフォーミュラ初表彰台となる3位を獲得した三宅は「ホッとしたというのが一番ですね。優勝はできていないんですけど、3位を獲れたというのが良かったと思います」と、メディア向けに設置されたミックスゾーンでは安堵の表情をみせた。多くの取材陣が三宅を囲んだことでも、その注目度の高さが伺える。
今回の3位獲得で決めてとなった要素のひとつはレース戦略だったが、基本的には周りの状況をみてピットストップを判断するとのことで、逆に早めのタイヤ交換を選択する可能性もあったと、三宅は語る。
「僕も他のチームのマシンと同じく、早めに(ピットに)入ろうかなという作戦を立てていたのですが、前方のマシンがいなくなって“クリーンエア”で、想像以上に良いペースで走れていたので、急きょ作戦を切り替えました」
「僕がタイヤの情報を伝えて、ピットで山本雅史監督をはじめ、アドバイザーの岡田秀樹さん、伊沢拓也さん、あとエンジニアさんを含めて、みんなで戦略を決めてくれました」
「乗っている僕からすると、けっこうタイヤが厳しくて『辛いな』と思う場面もあったのですは『タイムは周りと比べるとぜんぜんいいよ』と、伊沢さんやエンジニアさんから無線があったので、励みになったというか、落ち着いてレースを進められたのかなと思います」
レース後半までタイヤ交換を引っ張った経緯について、55号車を担当する岡島慎太郎エンジニアは、「序盤にSCがけっこう長く入っていて、実際に(タイヤの)内圧が低い状態で、三宅選手のペースが予想できていませんでした。ただ、本人は『上位のクルマについていけそうだ』と言っていましたし、セーフティカー(SC)明けで何台かピットインする可能性もあったので、あのタイミングで入れるよりは、クリーンエアで走って、ピットインを引っ張る方向でいきました」と説明する。
「結果的に、三宅選手が言っていた通りにペースが良くて、ピットインした組は、しばらくしたら1分31秒台に落ちていましたが、こちらは1分30秒台6~7で走れていて、そこで取り分があるのが見えたので、さらに引っ張る方向で戦略をスイッチしていきました」
「最初の方に入った牧野選手や野尻選手のタイムをみても、ずっと引っ張った方がギャップを築けるなと思いました。途中にSCが入るリスクとかはあったかもしれませんが、結果的にうまくいったのかなと思います。パフォーマンスに対して、戦略を変えたのが良かったです」
残りの周回数と、各ライバルとのギャップをみて、最終的には野尻智紀(TEAM MUGEN)の前に出ることをターゲットにしていたというが、その目論見通り、野尻の前でピットアウトすることに成功した。
■SF初走行コースでも問題なし。「SUGOも楽観的に」と山本雅史監督
チームの総合力やレース戦略が光ったレースでもあったのだが、TEAM GOHの山本雅史監督は三宅のレースペースが良かったからこそ、実現できたものだったと振り返った。
「今日は三宅選手が良い走りをしてくれました。午前中のフリー走行から、三宅選手とエンジニアが良いコミュニケーションを取っていて、良い方向性を見つけられた。何よりレースラップが良かったので、僕たちとしても戦略が立てやすかったです。(レースでは)周りの動きの出方をみて、いろいろなオプションを考えていましたが、三宅選手のペースの良さがあったからこそ(数あるオプションから)選ぶことができました。そういう意味で、彼の今日の走りにはチーム全体が感謝です」
さらに伊沢拓也アドバイザーも「スタートで少し順位を落としていましたし、思いの外みんなが早く(ピットに)入ったので、表彰台に上るには作戦として、あれしかなかったのかなと思いますが……何より三宅選手が良いレースペースで走ってくれたからこそだと思います」と、その走りを評価。さらに今週の彼には驚く部分もあったという。
「今週の三宅選手は、レースに向けての準備や取り組み方も含めて、すごくプロフェッショナルにやっているように感じました。『そんなところまで考えてやっていたんだ』と逆に驚いたところもありました。そういう積み重ねが、こういう結果につながったのかなと思っています」
今年はルーキードライバーふたりを擁し、新体制で臨んでいるTEAM GOH。三宅のみならず、相方の佐藤蓮にとっても、スーパーフォーミュラで初めてオートポリスを走る週末だった。ただ、彼らの力強い走りをみて、山本監督も「もともと(オートポリスに)来るときは、ルーキーふたりが、ここで走っていないから心配はしていましたが、その辺はクリアになったし、次のSUGOも良い意味で楽観的にいきたいなと思います」と笑顔をみせていた。
そんな若いドライバーの下支えとなっているのが、強力かつ経験豊富なチーム体制だ。岡田、伊沢両アドバイザーはもちろんなのだが、加えてスーパーフォーミュラを長年経験しているスタッフが多数いることも、大きな要素となっている。そこは、岡島エンジニアもかなり手ごたえをつかんでいる様子だった。
「僕自身も(スーパーフォーミュラで)初表彰台ですし、ドライバーやチームとしても初めての表彰台ということで、そこは非常に良かったです。SF自体、TEAM GOHは昨年もやっていて(昨年はTEAM MUGENとタッグを組んで参戦)、それまでチームが培ってきたエンジニアリングなどが活かせていると思います」
「またチームが2台体制を整えてくれたからこそ、55号車としてはFP2(日曜朝のフリー走行)であまり調子は良くなかったんですけど、53号車のデータも参考にしてパフォーマンスを上げられました。こうして、TEAM GOHの中でも体制がどんどん強化されてきていますし、ドライバー、メカニック、首脳陣も含めて、みんなが良い方向に向かっているので、良い流れをもっと続けていければなと思っています」
開幕前から、何かと注目を集めていたTEAM GOHだが、今回のオートポリス大会では、彼らの底力が垣間見えたレースとなり、ふたりのルーキーとともに力強いレース運びを見せていたのが印象的だった。このチーム力が進化していけば、今後さらに目が離せない存在となっていくことは間違いないだろう。