長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。
2022年F1第3戦オーストラリアGPでは、フェラーリのシャルル・ルクレールがポールポジションから全ラップをリードし、ファステストラップも記録するというグランドスラムを達成。また、予選、決勝ともにセーフティカーが出動、これが何人かのドライバーに運・不運をもたらした。オーストラリアGPでのそれぞれのドライバーたちの戦いぶりを、バスコンセロス氏が振り返る。
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■メルセデス
ルイス・ハミルトン:評価 9/10
予選5番手/決勝4位
前戦の予選で遅かったのはやはりマシンの問題だったようだ。今回は週末のほとんどでジョージ・ラッセルより速さがあった。
目の覚めるようなスタートを切り、最初の数コーナーをうまくこなしたことで、予選5番手だったマシンで3番手に浮上。ハミルトン自身の才能なくして、セルジオ・ペレスをあそこまで長く抑え続けることはできなかっただろう。
ペレスに抜かれた後、いったんジョージ・ラッセルに詰め寄られるが、タイヤがグリップを取り戻した後に、ギャップを広げ始めた。
セーフティカーのタイミングに恵まれず、ラッセルの後ろに落ちた後、その差を5秒から1秒まで縮め、3番手をうかがったものの、オーバーヒートの問題に見舞われて、4番手にとどまらざるを得なかった。
ジョージ・ラッセル(メルセデス):評価 8/10
予選6番手/決勝3位
表彰台に上れたのは運が良かったからだと、自身で認めている。ラッセルはこの3位により、ドライバーズ選手権では2位に浮上した。しかし今回も、ハミルトンのチームメイトでいることがどれほど大変かを、ラッセルは思い知ることになったはずだ。
予選でハミルトンに届かず、決勝では彼のペースについていくことができなかった。しかしセーフティカーによってラッセルは表彰台に上るチャンスを得た。ペレスに抜かれた後、マックス・フェルスタッペンのリタイアにより3番手に繰り上がった。正しいタイミングで正しい場所にいたことが好結果につながった。
■レッドブル
マックス・フェルスタッペン:評価 7/10
予選2番手/決勝リタイア
週末の初めからずっとRB18のバランスに満足できずにおり、問題は最後まで解決されず、無線で強く不満を訴えていた。予選は彼としては最高の出来ではなく、Q3最初のランで大きなミスをした。
レースではシャルル・ルクレールと優勝を争おうとしたが、フェラーリについていけないまま両タイヤセットを傷めてしまい、最終的にはトラブルでリタイアという結果に終わった。いつもどおり速さはあったが、チャンピオンを獲った昨年の彼よりも、2020年の彼に近い感じがした。
セルジオ・ペレス(レッドブル):評価 7/10
予選3番手/決勝2位
ジェッダの魔法は消えてしまった。予選Q3の最初のアタックはまずまずだったが、今回はポールポジションを狙うには至らなかった。
決勝スタートではターン1に向けてハミルトンにやすやすと抜かれてしまい、ポジションを取り戻すのに数周を要した。ピットストップの後、セーフティカーのタイミングによって順位を上げたラッセルを抜くのにも時間がかかった。チームに貴重な18点をもたらしたものの、フェルスタッペンのペースには遠くおよばず、メルセデス2台を引き離すこともできなかった。
■フェラーリ
シャルル・ルクレール(フェラーリ):評価 10/10
予選1番手/決勝1位
週末を通して完璧な仕事をした。ポールポジションを獲得、レースの全ラップをリード、ファステストラップで追加の1点も確保した。エンジニアから止められたが、最終ラップにプッシュして、自身がすでに記録していたファステストラップを更新した。これは正しい行動だった。そうしなければ、フェルナンド・アロンソが終盤ファステストを記録していただろうからだ。
週末のなかでルクレールが唯一犯したミスは、最後のリスタートだ。最終コーナーでマーブルに乗り、危うくフェルスタッペンにリードを奪われるところだった。
だがどちらのタイヤコンパウンドでも高いパフォーマンスを発揮し、ドライバーズ選手権において大きなリードを築いた。
カルロス・サインツ:評価 5/10
予選9番手/決勝リタイア
24時間のなかで、数々の不運に見舞われた。普通は1シーズンかかってもこれほど多くの不運に直面することはない。それだけの出来事にサインツは冷静に対処できず、決勝序盤にスピンしリタイア、大量得点のチャンスを自ら投げ捨てた。
予選ではラインを越える2秒前に赤旗が出たことで、2番手となるはずのラップを失った。また最後のランに出る前にスターターの問題が発生した影響で、タイヤの準備をうまく整えることができず、予選9番手に沈んだ。
最後のドラマは、決勝スタート前にステアリングホイールを交換しなければならなかったことだ。スタートのマッピングが適切でなく、5つ順位を落とし、追い上げを急いだ結果、2周目にスピンした。
■マクラーレン
ランド・ノリス:評価 8/10
予選4番手/決勝5位
予選Q3最後のアタックラップが素晴らしかった。メルセデス2台に勝ち、グリッド2列目を獲れたことを、ノリス自身も驚いていた。
だがレーススタートは失敗、ハミルトンとラッセルに前に行かれてしまい、彼らについていくペースはなかった。後方から追い上げてくるマシンはなかったため、チームメイトのダニエル・リカルドの前で無理のないペースで走った。5位と6位は今シーズンここまででチームにとってベストリザルトだ。
ダニエル・リカルド:評価 7/10
予選7番手/決勝6位
予選でも決勝でもチームメイトを上回ることはできなかったが、リカルドは母国オーストラリアを笑顔で発つことができたのではなかろうか。今シーズン初めて予選Q3に進出。レースの58周にわたってチームメイトのすぐ後ろを走った。何度もDRSの力を借りて仕掛けようとしたが、前に出ることはなかった。
シーズンスタートの厳しい状況から脱しつつあり、2023年のシート獲得に向けていい流れができ始めている。
■アルピーヌ
フェルナンド・アロンソ:評価 8/10
予選10番手/決勝17位
オスカー・ピアストリを応援するファンの前で、まだまだ若手に負けない速さがあることを強烈に示した。週末の初めからエステバン・オコンより間違いなく速かった。予選Q3の最初のアタックで油圧系のトラブルが発生、クラッシュすることになったが、あのラップを走り切っていれば、グリッド2列目を確保していただろう。
レースではハードタイヤスタートというギャンブルをしながら、ポジションを維持して走行。マクラーレン勢との戦いに備えていたものの、セーフティカーとバーチャル・セーフティカーにチャンスを完全に潰され、1ポイントも獲得できなかった。
エステバン・オコン:評価 6/10
予選8番手/決勝7位
マシンセットアップに満足できていなかったが、予選ではスペインドライバーふたりの不運により8番手を獲得。レースではマクラーレンのふたりについていけず、30周以上もアレクサンダー・アルボンに引っかかり、最も遅いウイリアムズのマシンを抜くことができなかった。アルボンが最終ラップでタイヤ交換に入ったことで7位に繰り上がったが、前を行くマクラーレン勢との間には大きなギャップができていた。
■アルファタウリ
ピエール・ガスリー:評価 7/10
予選11番手/決勝9位
予選ではトップ10を狙って戦っていたが、Q2最後のランで目の前でチームメイトがワイドになったことが妨げになった。
レースのスタート時にサインツとアロンソの前に出たものの、ミディアムタイヤがだめになっていき、18周目にアロンソに抜かれた。最初にピットストップを行ったグループのひとりで、その直後にセーフティカーが出動したため、他のドライバーたちと同様にガスリーも後方に沈み、14番手に。そこからバルテリ・ボッタスやランス・ストロールと素晴らしい戦いをし、ボッタスには敗れたが、ストロールには勝って、難しい週末にもかかわらず貴重な2ポイントを持ち帰った。
角田裕毅:評価 6/10
予選13番手/決勝15位
フリープラクティスと予選ではガスリーと同レベルのペースで走行、Q3進出をかけて戦った。しかしターン11で小さなミスをし、タイム取り消しも受けた。
決勝ではスタートでボッタスとサインツの前に出て、16周目までボッタスを抑え続けたが、タイヤが終わり、18周目にピットイン。17番手に落ちた後、ポイント圏内を目指す戦いに加わった。しかしライバルたちをオーバーテイクできる速さはなかったようで、ハース2台に抜かれ、15位という悔しい結果に終わった。
■アストンマーティン
セバスチャン・ベッテル:評価 1/10
予選17番手/決勝リタイア
新型コロナウイルス感染症で最初の2戦を欠場、オーストラリアがベッテルにとってシーズン初戦となった。出だしは好調で、FP1では13番手でチームメイトのストロールより速いタイムを記録。しかしセッション終了まで約15分のところでエンジントラブルが発生し、そこからネガティブな流れに傾いて行った。
パワーユニット交換が間に合わず、FP2は走れず、FP3では最初のフライングラップで大クラッシュを喫した。メカニックたちは予選に間に合わせようと懸命にマシンの準備に取り組み、赤旗のおかげでセッション終了が13分延期になったことで、なんとかベッテルをコースに送り出すことに成功した。
計測ラップ1周のみしか走れなかったベッテルは、まずまずのタイムで18番手を獲得。しかしレースでは10周目にスピンをし、22周目には大クラッシュ。4度チャンピオンに輝いたドライバーにはふさわしくないレースだった。
ランス・ストロール:評価 3/10
予選ノータイム/決勝12位
アストンマーティンAMR22についての知識を誰よりも持ち合わせているはずのストロールだが、週末を通してまるで良いところがなかった。FP1ではベッテルより遅く、FP2は14番手とまずまずだったが、FP3終盤に不必要なミスを犯し、ベッテルのマシンの修理で忙しいチームにさらに負担をかけた。さらに予選Q1終盤には、お互いスローラップだったときにニコラス・ラティフィと接触。悪いのは完全にストロールの方だった。
レースではセーフティカーのタイミングがプラスに働いたものの、彼をオーバーテイクしようとするすべての相手に対して危険なドライビングを繰り返した。ひとつしかペナルティを受けなかったのはラッキーだったといえるが、本人は納得していない。このままでは出場停止のペナルティを受ける可能性が高いので、自分自身を見つめ直して、努力する必要がある。
■ウイリアムズ
アレクサンダー・アルボン:評価 9/10
予選失格/決勝10位
10チーム中最も遅いチームでありながら、自分より速いマシンに乗るドライバーたちを7人倒して1ポイントをつかんだというのは称賛に値する。
予選ではあと一歩でQ2に進出というところまでいったが、その時走った素晴らしいラップは、サンプル用の燃料不足が発覚し、取り消された。失格となったアルボンは、前戦のペナルティでの3グリッド降格を消化したうえで、レースを最後尾からスタートすることになった。
決勝ではニコラス・ラティフィ、ストロール、ベッテルをパスし、最後の最後までタイヤ交換をせずにハードタイヤで走り続け、アロンソとマグヌッセンがピットインし、フェルスタッペンがリタイアした段階で7番手に浮上。オコンの前を走り続けたアルボンは、その後ろのストロールがしばらく後続を抑えていたこともあり、残り1周でソフトタイヤに交換した後、トップ10圏内でコースに戻ることができた。見事な走りを見せてくれた。
ニコラス・ラティフィ:評価 4/10
予選18番手/決勝16位
週末を通してアルボンに匹敵するラップタイムを出せなかった。予選Q1ではストロールの愚かなミスの犠牲になったが、それがなくてもQ2進出は無理だっただろう。
ピットストップ後に最後尾に落ち、その位置を単独で走り続けた。終盤アロンソがピットストップをしたため、ラティフィは16番手に繰り上がった。
■アルファロメオ
バルテリ・ボッタス:評価 7/10
予選12番手/決勝8位
103戦にわたり予選Q3に進出するという素晴らしい記録がここで途切れることとなった。ボッタスはレースを重視し、1ラップペースをある程度犠牲にするセットアップを選んだためだ。
スタートで角田に抜かれるが16周目にポジションを取り戻すと、すぐさまガスリーに追いつき、タイヤ交換の時期を経て前に出ることに成功した。セーフティカーのタイミングが影響して12番手に落ちて、ストロールと戦うことに。何度かストロールに弾かれそうになりながら、最終的に前に出て、ガスリーを再び抜いて8位に上がった。終盤、前が開けた状態でのペースはよく、オコンとのギャップをどんどん縮めた。ストロールの後ろで時間を失っていなければ、オコンより前でフィニッシュできただろう。
周冠宇:評価 7/10
予選14番手/決勝11位
初めて挑むコースだったため、慎重なアプローチを取った。週末のなかで経験あるドライバーたちがウォールにクラッシュするなか、周は一度もそういうミスを犯さなかった。
予選ではQ3進出を争う速さはなく、14番手に。決勝スタートでミック・シューマッハーに抜かれてひとつポジションを落とした。ハース2台の間を走り続けた後、セーフティカー出動の少し前にピットインしたことで後退し、リスタート時には17番手だった。
だがタイヤをうまく管理して走り、角田とハースのふたりの前に出て、最後にストロールをパスしたが、2.3秒の差で10位を取り逃した。
■ハース
ケビン・マグヌッセン:評価 5/10
予選16番手/決勝14位
メルボルン到着時から体調が悪く、週末を通して最高の状態には戻れなかったようだ。チームが基本のセットアップを誤り、修正が間に合わず、最終セクターで大量に時間をロスしており、予選Q1で敗退した。
決勝をハードタイヤでスタート、ミディアム勢全員がピットストップを行った段階で7番手に浮上。しかしマクラーレン2台を抑えきることができず、抜かれた後にタイヤ交換に入った。中団で激しく戦ったが、単純にスピードが足りず、14位どまりとなった。
ミック・シューマッハー:評価 6/10
予選15番手/決勝13位
今シーズンここまででベストな週末だった。予選でQ2に進出、15番手ながらもマグヌッセンより前の位置だった。
ハースはベースのセットアップを誤っていたため、週末を通して、遅れを取り戻すことに集中するしかなかった。状況を考えれば、Q2に進んだシューマッハーはよくやったといえるだろう。
レースで素晴らしいスタートを決めて、13番手に上昇。しかしタイヤをあっという間に使い切ってしまい、リスタートの時点で16番手だった。角田、マグヌッセン、アロンソ、周を相手にいいバトルをし、何人かには勝ち、何人かには負けて、最終的に13位でフィニッシュした。