もっと詳しく

 2017年よりTCR規定を導入し、TCRスカンジナビア・シリーズとして開催されてきたSTCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権は、来季2023年よりシリーズの大変革プロジェクトを実施するとアナウンス。TCRスカンジナビアと並行し、STCCは世界初のフル電動ツーリングカーによる国内選手権へと変貌し、スウェーデンのEPWR社による新型競技車両を導入すると発表した。

 現在STCCに参戦するPWRレーシングのBEV開発プロジェクト“PWR002”が発展し、新たに設立されたEPWR社を介して供給される電動ツーリングカーは、市販車をベースに大幅な変更が加えられ、その最初の1台として『テスラ・モデル3』が公開された。

 競技車両はリヤ駆動を採用し、最高出力550PS想定のモーターにより最高速も300km/hをマーク。電動車両の性能と個性を象徴する0-100km/hは3秒以下が見込まれている。

「これは1996年のチャンピオンシップ開始以来、STCCとスカンジナビアのモータースポーツにとってもっとも重要な前進だ。今日、新たな歴史が書かれることになった」と語るのは、STCCのマネージングディレクターを務めるミュッケ・ベルン。

「電動モビリティに関する主要なパートナーと協力し、我々は長年に渡ってこの方針に懸命に取り組んできた。そして持続可能な方法でこれを開始するための条件が、ついにここに開かれたんだ。我々の基本的な哲学は、壮大な電動レースを通じて社会を持続可能な移行へと刺激することだ」と続けたベルン。

 以前はストックホルム市街のソルバラや、ヨーテボリの中心地でイベントを開催していたSTCCだが、6月9日の電動化アナウンスと同時に、南部ヘルシンボリ市との3年契約締結に合意。カレンダーはまだ未定ではあるものの、同市セントラルハーバーでのストリートレース開催が決まっている。

「ヘルシンボリの市政府と協力し、STCCのカレンダーにストリートレースを戻すことができるという事実は、この電動化プログラムが可能にするもうひとつの強さのメッセージだ。このイベントのみ2台が直接対決する“デュエル”の特別フォーマットを導入し、観客にとってエキサイティングなものとしたい。パーマネントコースでは伝統的なレースを残し、都市部ではより積極的なアプローチで緊密なレースを提供する。若い世代を筆頭に、誰もガッカリはさせないはずだ」と、シリーズ電動化の意義を強調したベルン。

2017年よりTCR規定を導入し、TCRスカンジナビア・シリーズとして開催されてきた
2011年からはTTA規定と呼ばれた独自の鋼管パイプフレーム製ワンメイクシャシーを使用していた
2023年のヘルシンボリ戦は、2台が直接対決する”デュエル”の特別フォーマットを導入する

■新しいSTCC車両は「めちゃくちゃ楽しくて、運転が難しい」

 現在、2023年シーズンに向けて12台のBEV車両が製造されており、この発表と同時に現在のSTCCでアウディを走らせる強豪ブリンク・モータースポーツと、新興エクシオン・レーシングが早くも参戦を表明。3台体制を明言したブリンクを含め、この2チームがテスラを採用するのか、それともクプラ・レーシングとの提携で長年同社のモデルをベースに開発が続けられてきたEPWRの基幹車種を採用するのかは、まだ確認されていない。

「スカンジナビアのモータースポーツで新しい章を始めるのに際し、我々はこの日を長い間待ち続けていた」と話すのは、ブリンク・モータースポーツ代表のテッド・ブリンク。

「STCCの電化は我々の事業と将来にとって決定的なものであり、現在のSTCC TCRスカンジナビア・プログラムと並んで、目の前の移行に精力的に取り組むことを楽しみにしている」

 そのBEV車両の開発とテストは、2018年に開始された『PWR001エレクトリック・プロトタイプ』から引き継がれ、今季2022年はSTCCでのレギュラーシートを退いたミカエラ-アーリン・コチュリンスキーが一貫してプロジェクトを担っている。

「今季のプロジェクトは“PWR002”になるけれど、この新しいSTCC車両はめちゃくちゃ楽しくて、運転が難しい。現在のTCRレースカーとは昼と夜ほどの違いがあるわね」と、今季も電動オフロード選手権エクストリームEに参戦中のコチュリンスキー。

「バッテリーに伴う低重心化とモーターにより瞬時に炸裂するパワーで、そのドライビング体験はシングルシーターに限りなく近いものになる。でも、ツーリングカーの素晴らしいレースはまだそこに存在しているの」と続けた彼女。

「私は長い間、電動車両でのレースの可能性を信じてきた。初日からその開発に参加できたことは素晴らしい体験だったし、2023年を本当に楽しみにしているわ!」

 こうして新規定電動車両への移行をアナウンスしたSTCCだが、来季2023年も引き続きTCRスカンジナビアのシリーズを併存させ、小規模な独立チームやジュニアドライバーに活動の場とステップアップの機会を提供するという。

「TCRはSTCCの週末で重要な役割を果たしており、確立されたチームよりも少ないリソースで、ジュニアとインディペンデントの活動機会を確保する。これにより、電化されたメインクラスのSTCCにステップアップする良い機会が提供されるはずだ」と語った前出のベルン。

「また、2023年にハイブリッドを導入するTCR規定は興味深い進展の渦中にあり、これについては綿密にフォローする。それは間違いなくTCRスカンジナビアに関連するものであり、持続可能な移行のため我々の方針にもよく合致しているからね」

先行投資として2022年よりSTCCとの提携を拡大し、公式パートナーに就任したCUPRAは、セーフティカーとメディカルカーを供給する
2018年に開始されたPWR Racingの『PWR001エレクトリック・プロトタイプ』開発プロジェクト
今季2022年はSTCCでのレギュラーシートを退いたミカエラ-アーリン・コチュリンスキーが一貫してBEV開発プロジェクトを担っている