5月7日にベルギーのスパ・フランコルシャンで決勝レースが行われたWEC世界耐久選手権第2戦スパ6時間レース。初のポールポジションからスタートしたグリッケンハウス・レーシングの708号車グリッケンハウス007 LMH。レース終盤に入るまではいいレースができていたが、無線のミスコミュニケーションによって「悪夢と化した」と、チーム代表は語っている。
レース残り1時間半、ピポ・デラーニは2番手を走る708号車をピットへと戻し、チームはここでウエットからスリックへとタイヤを交換した。
しかし、雨量は少なくなってきたものの、まだスリック装着には早いと思われるコンディションだった。実際に同タイミングでピットインしたトヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッドと、アルピーヌ・エルフ・チームの36号車アルピーヌA480・ギブソンは、インターミディエイトタイヤを選択している。
デラーニはこのとき、無線でエンジニアが「ウエットか、スリックか」と尋ねているものと認識していたという。実際にはエンジニアは「カットスリックか、ウエットか」と質問していた。
「無線が酷い状態だったんだ」とマシンから降りたあと、デラーニはコメントしている。
「彼は『カットスリックか、ウエットか』と聞いていたのだと思う。でも僕には“スリック”という部分しか聞こえなかった。僕はカットスリックと問われていると分からず、エンジニアは(僕の返答を)スリックだと理解した」
この結果、デラーニから代わったロマン・デュマはスリックタイヤでピットを離れたが、ドライラインがまだ出現していなかったため、グリップ不足に悩まされた。
グリッケンハウスのチーム代表であるルカ・チャンセッティは、このタイヤ選択のミスが、チームのWEC初優勝を阻む致命傷となった、と語った。
「レースの半分以上のところまでは、とてもうまくいっていたと思う」とチャンセッティ。
「その後、いくつかのミスから、とても良いレースは悪夢へと姿を変えてしまった」
「使用するタイヤについて、いくつかのコミュニケーショ上の問題があった。そのため、どちらの選択をすべきか明確な判断をできず、間違った方向へと進んでしまった」
「これは準備とコミュニケーションに関わる、改善すべき問題だ」
その後、チームはカットスリックへの交換を遅らせ、デュマが履くスリックに対して最適なコンディションとなるかどうかを確認しようとした、とチャンセッティは説明した。
だが、デュマをコース上にとどめておくとタイムロスが大きくなると判断したチームは、最終盤のフルコースイエロー直前にマシンをピットへと戻し、カットスリックを装着することにした。その後、完全にドライラインが出現すると、再びスリックタイヤへと交換する必要が生じてしまった。
デラーニ/デュマ/オリビエ・プラは、優勝したトヨタ7号車から1周おくれ、総合9位でチェッカーフラッグを受けた。この一連のミスが起きるまでは、トヨタの6秒うしろを走行していた。
「終わって振り返ってみれば、フルコースイエローの際にスリックタイヤのままで走っていれば、もっといいレースができたはずだ」とチャンセッティは述べた。
「だが、あの瞬間は、5秒以内のところにいるライバルに対して、違う選択をすることは間違っていた。ライバルたちと同じ選択をし、同じ状況でレースを続けるべきだった」
「そうすれば、その後の判断も別にものになっていたかもしれない。でも、あの時点ではできなかった」
もし誤った判断により装着したスリックのまま走り続けるという判断をデュマに対して下していれば、グリッケンハウスは優勝を狙えたかもしれない、という点にデラーニは同意しているようだった。
「スリックタイヤのままにしておけばよかったかもしれない」とデラーニは振り返る。
「スリックのままステイアウトするか、あるいは適切なタイミング適切な判断を下していれば、優勝争いができていたと思うと残念だ」
「でも、ポジティブに捉えたい。ウエットでもドライでも速く、素晴らしいレースができた。(次戦)ル・マンでもっといい仕事ができるよう、このポジティブな結果を活かすしかない。僕らした仕事は、誇りに思うべきだろう」
「コースコンディションが良くなっていくなか、その時々に必要な戦略とは正反対のことをやってしまった。それらは、無線の(不調の)せいでもあったし、僕らのミスでもあった。でも、僕らは前に進む」