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 2022年、アルファタウリの角田裕毅は、F1での2シーズン目を戦っている。昨年に続き、エディ・エディントン氏が、グランプリウイークエンドを通して角田の動きをくまなくチェックし、豊富な経験をもとに、彼の成長ぶり、あるいはどこに課題があるのかを忌憚なく指摘する。今回は2022年F1第6戦スペインGPと第7戦モナコGPについて語ってもらった。

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 よくあることだ。ベストを尽くして、進歩を遂げ、これまで以上に良い走りをし、ドライバーとしてもひとりの人間としても成長し、正しいことをすべてやっているのに、結果が伴わない。

 そういうとき、フラストレーションを表に出して、プッシュしすぎて、マシンをそのポテンシャル以上に速く走らせようと必死になって、クレイジーな動きをしたりしがちだが、そういうことをするとたいていは大失敗に終わる。

 シャルル・ルクレールの話をしていると思った? もちろん、君が聞きたがっている角田裕毅について話しているので、安心しなさい。

 ある話をしながら、相手に他の話をしているような印象を与えるというのは、交渉の席ではなかなか有効な技なのだ。昔、タバコ会社とスポンサー契約を結ぼうとしていた時に、彼らは最初は関心を示さなかった。それで……分かった、分かった、今日のテーマはその話ではなかった。バルセロナとモナコでの角田裕毅の話だ。

 基本的にあの子はほとんど間違ったことをしなかった。ただどちらのサーキットでも、マシンのせいで力を発揮できず、2戦で1ポイントしか獲得することができなかった。

 しかし、誰もが高く評価しているピエール・ガスリーより1ポイント多く稼いだというのは、いい話だ。ここまでの獲得ポイントは角田裕毅が11点で、ガスリーが6点。ここは褒めていいだろう。

2022年F1第6戦スペインGP 角田裕毅(アルファタウリ)
2022年F1第6戦スペインGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 バルセロナでは、ガスリーが最初は優勢だったが、FP3でトラブルのために走行できず、その後、形勢が逆転した。予選でガスリーより0.2秒速く走るというのはなかなかできることではないが、角田はやってのけた。そして決勝で角田は、予選結果が偶然のものではないことを証明した。自分より経験豊富なガスリーの前を走り続け、4度のF1チャンピオン、セバスチャン・ベッテルを抑えて1ポイントをつかんだのだ。

 モナコはそれほどうまくはいかなかった。フリープラクティスではガスリーの方がはるかに速かったのだ。だがアルファタウリの戦略担当者が大失態を犯したせいで、ガスリーはQ1で落ちてしまった。一方で角田はQ1を9番手で通過、Q2では11番手タイムを出して、ベテランのバルテリ・ボッタスや、ハース勢、ダニエル・リカルドに勝った。マシンの力を考えれば、立派なものだ。

2022年F1第7戦モナコGP 角田裕毅(アルファタウリ)

 だが決勝で、6周目にインターミディエイトに換えたのは間違いだった。そのせいで角田は、タイヤを交換していないグループの後ろで走り続けることになり、エステバン・オコンやルイス・ハミルトンからどんどん遅れていった。フラストレーションが募る状況のなか、角田はいくつかミスをし、チームもパニックに陥ったようだ。角田にその週末持ち込まれた全種類のタイヤ(フルウエット、インターミディエイト、ハード、ミディアム、ソフト)を履かせ、4回のタイヤ交換を行った角田は、レース終盤には最後尾に落ちてしまった。そうなった責任は大部分がチームにある。

 次に我々が向かうのはバクーとモントリオール。ふたつとも通常のサーキットとは異なった特性を持っている。私は次の2戦に実際に足を運んで、自分の目でいろいろと確かめてこようと思っている。今の時代、他人を信用するのは難しいし、ましてやインターネットでは真実は全く分からないからね。ああ、心配してくれなくても、ちゃんと辿り着けるよ。失礼な。

 角田にとって次の2戦で大事なのは、冷静さを保ち、ウォールに絶対に接触することなく過ごすことだ。ミスをするのは他のドライバーたちに任せておいて、レースペースに集中するのだ。アゼルバイジャンもカナダもオーバーテイクしやすいコースだからね。そうしてタイヤを各スティントの終盤までしっかり持たせて、入賞のチャンスを最大化するのだ。

 ガスリーは苛立ちを募らせて、チームのミスを責め立てている。そこで角田がナイスガイぶりを発揮して、建設的な姿勢を見せれば、チームを自分の思うように動かせるようになるかもしれない。2023年のことを考えれば、その方が利口だと思うぞ。

2022年F1第7戦モナコGP 角田裕毅(アルファタウリ)とヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)
2022年F1第7戦モナコGP 角田裕毅(アルファタウリ)とヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)

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筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。