5月3日、公式練習と公式予選が行われたスーパーGT第2戦富士『FAV HOTEL FUJI GT 450km RACE』。GT300クラスに参戦するStudie BMW M4は、今回荒聖治/アウグスト・ファーフス/近藤翼という3人で挑み公式予選では12番手につけたが、実はQ2でアタックを担ったファーフスは、なんと5月3日、富士スピードウェイを初めて走ったのだという。
今季BMW Mブランドの50年を祝うべく必勝体制を敷き、BMW M4 GT3を投入、ミシュランタイヤを履くなど、強力な布陣を組んできたBMW Team Studie × CSL。その目玉とも言えるのが、BMWワークスドライバーで、世界中のGTレースで多くの結果を残してきたファーフスの起用。第1戦岡山でも、レース後半厳しい状態になっていたタイヤをうまく使いながら、後続を抑え込む巧さをみせつけていた。結果こそ残らなかったが、スーパーGTファンにも鮮烈な印象を残していた。
■鈴木監督が驚いたファーフスの発言
迎える第2戦富士を前にファーフスは一度ヨーロッパに戻り、4月23日にはニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)にローヴェ・レーシングの一員として参戦。コナー・デ・フィリッピとともにM4 GT3をドライブし、見事優勝を飾っていた。そしてふたたび来日すると、迎えにいったチームの鈴木康昭監督と車中でこんな会話になったのだという。
「富士スピードウェイを走るのは初めてなんだ」
鈴木監督も驚いたファーフスの発言だが、たしかにWTCC世界ツーリングカー選手権での岡山、そしてこれまでスーパーGTに参戦したときも鈴鹿1000kmの第3ドライバーで鈴鹿のみの参戦で、ファーフスが富士を走ったことはない。しかも、現代のレーシングドライバーが初めてのコースを走るときに活用する、レーシングシミュレーターもまったくこなさないまま来日したのだという。
この報せにはチームメイトの荒も「ビックリしました。てっきり他のレースで走っているとばかり思っていたんですが(笑)」と驚いたのだという。チームは当然ながら、9時から行われた公式練習でファーフスの習熟に多くの時間を割いた。
ところがファーフスはコースイン後、1分50秒台、1分42秒台とタイムを上げると、8周目には1分37秒台をマーク。その後一度荒に交代した後、後半もドライブしているが、公式練習であっという間に他と遜色ない走りをみせてしまった。
予選後ファーフスに富士について聞くと「そう。初めてなんだ。トラックは素晴らしいし、景色も最高だね。セクター3はすごくラインが難しくてテクニカルだ。でもすごく楽しいし、もう速く走れるよ」と飄々とした笑顔で語ってくれた。
「今日はトラックについてはもちろんタイヤ、セットアップについても学んだんだ。岡山とは異なるタイヤだったので、それについての理解を進めていった。その結果、岡山とは違うことが分かった。岡山では予選は良かったけれど、決勝では良くなかったからね。今回は反対になると思う」とファーフス。
そしていったいなぜシミュレーターをやってこなかったのか? と聞くと、「時間がなかったんだよ!」とファーフス。「岡山から戻って、一日家にいて、それからニュルブルクリンクでレースがあった。その後はBMWモータースポーツに行ってシミュレーターをやらなければならなかった。それからまた来日だ。だから時間なんてなかったんだ(笑)」
そんなファーフスがコース習熟に使ったのが、チームから送られてきた荒のオンボード映像だ。「たくさんのビデオがあったからね。それが助けになった。もう準備はできてるよ!」とそれだけで覚えてしまったというのだから、世界のあらゆるコースを走り、すぐに派遣されたチームの力にならなければならないワークスドライバーの力を痛感せずにはいられない。
■「机が割れるのでは」というくらいの悔しがりよう
このファーフスの習熟の早さについては、荒も賛辞を惜しまなかった。「アドバイスはしています。でも、以前鈴鹿1000kmで手伝ってもらったときもそうでしたが、シミュレーターで練習しながら『ここはこう走るといいよ』というと、すぐできちゃうんです」と荒は評する。
「すごく起用だし、上手。速いだけではなくて、本当に“運転が上手”なんです。スムーズだけど、ちゃんとポイントを抑えている。走る前も質問をしてくるんですが、あとはずっと僕のオンボードを観ているんです。それで『イメージはつかめた』みたいな感じですぐ乗れちゃう。タイムが上がるのも早い」
ただ、この日の公式予選ではファーフスは初めて体験するスーパーGTの特殊な環境に驚き、かつ自らを責めたのだと荒と鈴木監督が教えてくれた。「スーパーGTではQ1の後、路面コンディションがすごく上がるんですが、グリップレベルの高さ、コンディションの上がり幅については驚いていたみたいです」と荒。
「コントロールタイヤで行われている他の国のレースとは異なり、タイヤコンペティションがあるレースならではのことだと思いますね。『慣れてきたらもっといけるのに……』と悔しがっていました」
荒によれば、ファーフスはQ2のアタック後、12番手という結果に「机が割れるくらいなんじゃないかってくらい叩いて悔しがってました」という。そんなファーフスを「1分35秒台が出たんだから(1分35秒974)良かったじゃん!」と鈴木監督が慰めたところ、「『何がいいんだよ』って真顔で怒られました(苦笑)」のだとか。
初体験のコース、そしていきなりの予選Q2で12番手は激戦のGT300ならば申し分ない結果だ。しかし、ファーフスにとっては到底納得ができないものだったよう。「そういう強い気持ちと高いビジョンをもって日本に来てくれているので、頼もしいですし、良い刺激を受けますね」と荒はファーフスについて語った。