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 佐藤琢磨が参戦13年、200戦を超えるNTTインディカー・シリーズの中でも、ポール・トゥ・ウインを達成したのは、唯一2019年アラバマ、バーバー・モータースポーツパークのレースだけだ。

 それほど完璧なレースで鮮明に記憶に残っているし、琢磨本人もこのバーバーへの思い入れもあり、数えて12回目となる今年のバーバーのレースでは、きっと良いレースが見られるのではないかと期待していた。

 バーバー攻略の完成形のイメージを持っているなら、きっとそれが復活の後押しになってくれるだろうという期待があるからだ。

 だがレースウイーク初日の金曜日から、またしても琢磨は厳しい状況に置かれた。金曜午後のプラクティス1で22番手、土曜日午前のプラクティス2でも同じく22番手。前戦ロングビーチでは早くこの苦境から脱したいと、あの手この手を繰り出したものの、予選結果には繋がらなかった。

 しかも、今季初のロードコースということもあり、ファイアストンは22年仕様のロードコース向けのタイヤを投入。それに合わせ込む作業も必要になってくる。どのチームも同じ条件だとはいえ、今のデイル・コイン・レーシング・ウィズ。リック・ウエア・レーシングにとっては、やや荷が重いのか……。

 予選ではブラックタイヤでグループ中6番手のタイムだったものの、レッドタイヤでは9番手となりQ1突破はならなかった。

 同じ組ではチップ・ガナッシのスコット・ディクソンが7番手、ペンスキーのウィル・パワーも10番手といずれも通過できなかった。それほど今のインディカーは接戦で僅かな差も許されないのだ。

 今回のレースは予選後に決勝に向けたウォームアップセッションが30分設けてあり、決勝レース前の最後の走行を行う変則的なスケジュール。琢磨がかなり仕様を変えたというこのセッションで、51号車の彼のクルマは7番手のタイムをマークした。

「燃料を積むとクルマが重くなって、ちょっと不安定な感じもしていたんだけど、7番手のスピードが出てた。あれ?っという感じもあったんだけど、ライバル勢もタイヤに合わせた感じでは似たような状況なんだと思います」

「クルマが速くなって、エンジニアに『予選これからでしょ?』って言ったら、苦笑いしてました。全体ではトップ10くらいのスピードに入ってきたと思うから、明日のレースもこのペースを維持して追い上げていきたい」と琢磨の顔に笑顔が戻りつつあった。

 琢磨がもうひとつ頼りにしていたのは、天からの恵み、雨である。土曜、日曜とにわか雨の予報があったのだが、土曜は雨は降らなかった。しかし、日曜の降水確率は高く、ほぼウエットコンディションのレースになるとの予報だったのだ。

 その予報通り朝7時過ぎにはバーバーに雨が落ち始めたのだが、レース開始2時間前には雨も止んで、青空が見え始めるとみるみる路面が乾きだし、完全なドライな状態にコースは戻ってしまった。

 雨を得意とする琢磨なら、ウエットコンディションで追い上げる展開の方が期待が持てた。だがそうならなかった以上、堂々とドライの中、90周のレースを戦うしかない。

 17番手からスタートした琢磨は、スタート直後に16番手にポジションを上げた。ラップは安定しているものの、派手に追い上げ始める様子もない。ライバルの中で3ストップ戦略を取ったマシンは12周を過ぎた頃からピットインを始め、その度に琢磨のポジションは上がっていく。

 前を行くのはディクソン。琢磨はディクソンの背後につけたままポジションを上げ、最初のピットインをする29周目までには9番手まで浮上していた。

ディクソンを追いかける佐藤琢磨
ディクソンを追いかける佐藤琢磨

2ストップのストラテジー燃費が厳しくペースが上げられない佐藤琢磨
2ストップのストラテジー燃費が厳しくペースが上げられない佐藤琢磨

 琢磨はレッドからブラックに変えたものの、ペースが上がらない。その1周後にレッドからレッドタイヤに変えたディクソンがペースが良くポジションをどんどん上げていく。琢磨は15番手あたりで順位を維持していた。

 2度目のピットインは61周目。レッドタイヤに戻した琢磨はペースをやや取り戻し、16番手からポジションを上げ、残り5周でペンスキーのジョゼフ・ニューガーデンを抜くと13番手までポジションを上げた。しかし、追い上げはここまで……、13位でレースを終えた。

ブラックタイヤでペースが上がらない佐藤琢磨
ブラックタイヤでペースが上がらない佐藤琢磨

 チェッカー後に琢磨のマシンは燃料を底をつき、マーシャルに牽引されてピットに戻ってきた。

「今日は雨だと思ったんだけどなぁ(笑)。最後のプラクティスの後、また少しセッティングを変えましたが、ニュータイヤに対する合わせ込みももう一歩だったし、ブラックでのペースが今一歩で、レッドからレッドに変えたディクソンが逃げちゃったように、戦略もうまく働かなかったですね」

「それが今の現状だし、これからもプッシュし続けるしかないですね。次のインディのGPでは、ここのマシンが良かったから期待してるんだけど……」

 5月の天王山を迎えるインディカーシリーズ。その前哨戦のインディGPでどこまで復活できるだろうか。