長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。
2022年F1第4戦エミリア・ロマーニャGPは今年初のスプリントフォーマットの週末だった。レッドブルのマックス・フェルスタッペンが予選1番手、スプリント1番手、決勝では全ラップをリードしてファステストを記録した上で優勝と、完璧な週末を過ごし、最大ポイントを獲得した。エミリア・ロマーニャGPでのそれぞれのドライバーたちの戦いぶりを、バスコンセロス氏が振り返る。
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■メルセデス
ルイス・ハミルトン:評価 4/10
予選13番手/スプリント14番手/決勝13位
ハミルトンは、マシンのパフォーマンス不足により状況を好転させることが最後までできず、最悪の週末を過ごした。4戦中、これが2回目だ。予選の不安定なコンディションは普段ならハミルトンが得意としている天候だったが、ジョージ・ラッセルに0.4秒の大差をつけられた。スプリントレースではスタートでランス・ストロールに抜かれ、日曜決勝では、スタート直後、スピンしているマシンを皆が避けて走るなかで、タンブレロ出口で行き場をなくしてしまった。
少しでも巻き返そうとしていたハミルトンだが、全車がスリックタイヤに交換した際に、ピットレーンでエステバン・オコンにブロックされ、アレクサンダー・アルボンとピエール・ガスリーの後ろに落ちてしまい、最後まで彼らの後ろを走り続けた。ガスリーもアルボンのDRSを得ており、そのマシンを追い抜くだけの直線スピードがメルセデスにはなかったためだ。
ジョージ・ラッセル(メルセデス):評価 8/10
予選11番手/スプリント11番手/決勝4位
非力なW13で素晴らしいパフォーマンスを発揮、ハミルトンより優れた結果を出した。日曜決勝では見事なスタートを決め、タンブレロでダニエル・リカルドがカルロス・サインツに仕掛けた無謀な動きが引き起こした混乱を避け、11番グリッドから6番手に上がった。
予選から大差でハミルトンに勝ち、スプリントレースでポジションを維持し、日曜決勝では、序盤にケビン・マグヌッセンを追い抜いたが、スリックタイヤに交換する際に、チームがフロントウイングの調整ができなかったことで、その後の目標変更を強いられた。
40周以上、フロントタイヤを守って走り、終盤後方から追いついてきたバルテリ・ボッタスを抑えきり、終盤、シャルル・ルクレールのミスで4番手に上がった。メルセデスのマシンには5番手の速さしかなかったため、本来なら最高でも9位どまりだったはずだが、それを大きく上回る結果だった。
■レッドブル
マックス・フェルスタッペン:評価 10/10
予選1番手/スプリント1番手/決勝1位
イモラでの週末は完璧だった。ポールポジションを獲得、スプリントレースではスタートでいったんシャルル・ルクレールに首位を奪われながら優勝、日曜決勝を最初から最後までリードし、ファステストラップも記録、最大ポイント34点をつかんだ。
土曜のスプリントでルクレールの後ろに下がった時も、冷静さを保ち、タイヤをうまく持たせて、正しいタイミングでチャレンジし、ティフォシの前で、フェラーリから勝利を奪い返した。
今回のフェルスタッペンは、チャンピオンらしい走りをした。フルポイントに値するパフォーマンスだった。
セルジオ・ペレス(レッドブル):評価 8/10
予選7番手/スプリント3番手/決勝2位
不安定なコンディションにペレスのアプローチが合わず、フェルスタッペンと約1.8秒以上の差で予選7番手に沈んだ。しかし彼らのマシンはレースペースで最速だったため、スプリントレースで4つポジションを上げ、日曜決勝に向けてドライ側のグリッドを得た。それによりスタートでルクレールの前に出ることに成功、チームリーダーを完璧な形でバックアップした。
ナンバー2に期待される仕事をしっかりやってのけたが、週末を通してフェルスタッペンの速さには全くおよばなかった。
■フェラーリ
シャルル・ルクレール(フェラーリ):評価 5/10
予選2番手/スプリント2番手/決勝6位
自分でも認めていたように、彼は欲張りすぎた。ティフォシの前で走るプレッシャーに耐えつつ、限界を越えないように走るには、もっと成熟する必要がある。予選ではいい仕事をしたが、フェルスタッペンには及ばなかった。スプリントのスタートでトップに躍り出たのはよかった。しかしその後、最初のミスを犯した。序盤にギャップを広げようとしてソフトタイヤで攻めすぎてしまい、終盤にデグラデーションに見舞われ、フェルスタッペンを抑えきることができなかったのだ。
日曜決勝のスタートは失敗し、ペレスの後ろに後退。ペレスがミスをしない限り2番手に上がれる望みはほぼない状況で、ルクレールの方がミスをしてしまった。幸いマシンが無事だったため、レースに残ることができ、貴重な8点をつかんだ。
カルロス・サインツ:評価 5/10
予選10番手/スプリント4番手/決勝リタイア
日曜決勝スタート直後の1コーナーでリカルドがミスを犯し、サインツはその犠牲になった。だが予選Q2での出来事は完全に自分のミスだ。バンカーラップでQ3進出が確実だったにもかかわらず、トップに立とうとして最終コーナーでクラッシュした。
スプリントレースでは素晴らしい仕事をして、10番グリッドから4番手に上がった。だが、メインレースのスタートを失敗、2台のマクラーレンからアタックされ、ノリスに抜かれ、リカルドと接触した。
冷静に戦っていれば、金曜予選で2番手か3番手を獲得できていたはずであり、その後の週末もずっと楽なものになっていただろう。
■マクラーレン
ランド・ノリス:評価 9/10
予選3番手/スプリント5番手/決勝3位
ノリスが勝つ力のあるマシンで走るところを見たいものだ。マクラーレンの用意するマシンにそれなりのレベルの競争力しかなくても、ノリスは常に速さと一貫性を発揮してみせる。イモラもそうだった。
予選リカルドを0.6秒以上引き離して3番手を獲得。スプリントレースではペレスやサインツを抑え込んでタイヤを壊すようなことはせず、メインレースの5番グリッドを確保した。見事なスタートで3番手に上がった後、自分のメインライバルではないルクレールにはさほど抵抗せず、終盤ルクレールがスピンしたことで、再び3番手に上がって、表彰台を獲得した。予想外だが、彼にふさわしい結果だった。
ダニエル・リカルド:評価 5/10
予選6番手/スプリント6番手/決勝18位
第3戦までは良い兆候が見えていたが、イモラでのパフォーマンスは期待外れだった。予選でQ3に進出したものの、滑りやすい路面コンディションにおいて、ノリスに歴然としたペース差をつけられた。スプリントを6番グリッドからスタートし、サインツに抜かれたがケビン・マグヌッセンを抜いて、6番手でフィニッシュした。
決勝グリッド位置はまずまずだったが、スタート直後、タンブレロに向けてミスを犯し、サインツをリタイアに追い込み、自分は最後尾に落ちた。早々にタイヤ交換を行って、他の全員に路面コンディションに関するデータを提供する形になり、ポジションは上げることはできず、最後尾のままフィニッシュした。
■アルピーヌ
フェルナンド・アロンソ:評価 6/10
予選5番手/スプリント9番手/決勝リタイア
今シーズンのアロンソはとてつもなく不運だ。イモラでも好結果を逃したが、彼には何の落ち度もなかった。ニューパーツを搭載されたアドバンテージもあり、エステバン・オコンより明らかに速く、ウエットからドライに変化するコンディションの予選で5番手を獲得。しかしスプリントレースではソフトタイヤのデグラデーションが早く、サインツ、ペレス、リカルド、ボッタスに抜かれてポイント圏外に落ちた。
願いがかなって日曜に雨が降ったものの、ファーストシケインでシューマッハーにヒットされて、A522にダメージを負い、リタイアしなければならなかった。
エステバン・オコン:評価 4/10
予選19番手/スプリント16番手/決勝14位
試練の週末となった。すべてのアップグレードはアロンソのマシンに入れられ、予選ではテクニカルトラブルが発生したため19番手に沈んだ。スプリントではピエール・ガスリーと周冠宇のクラッシュにより順位を上げ、アルボンを抜いたが、それでも16番手どまりだった。
メインレースではずっとポイント圏外を走り続け、11番手でフィニッシュ。しかしスリックタイヤに交換した後のピットレーンでハミルトンのブロックをしたことで5秒加算のペナルティを受け、14位に降格された。
■アルファタウリ
ピエール・ガスリー:評価 4/10
予選17番手/スプリント17番手/決勝12位
チームのホームで、多くの仲間たちが見守るレースで、ガスリーは全く輝きを見せず、若きチームメイトに匹敵する競争力を発揮することができなかった。
予選Q1ではチームの戦略が悪かったせいで、2台揃って敗退となったが、ガスリーは角田裕毅より0.25秒も遅かった。スプリントレースでは、ピラテッラでアウトから追い越しをかけてきた周冠宇との間に接触が起き、最後尾に落ち、17番手フィニッシュ。メインレースでは、スタートで順位をいくつか上げたものの、スリックタイヤに交換した後はアルボンに引っかかり、抜くことができないまま、ノーポイントに終わった。アルファタウリの方がトップスピードが優れていたため、ハミルトンを45周にわたって抑え続けたことはよかったが、角田のパフォーマンスには及ばなかった。
角田裕毅:評価 8/10
予選16番手/スプリント12番手/決勝7位
予選Q1でチームが戦略的なミスを犯した影響で、スプリントレースを16番グリッドからスタートすることになった。しかし今回の角田は、F1にデビューしてから最も一貫性のある週末を過ごした。
すべてのセッションでガスリーより速く、スプリントではスタートをうまく決め、ミスもなく12番手でフィニッシュ。日曜決勝でも1周目をうまく走って序盤に9番手に上がり、スリックタイヤに交換した後もポジションをキープ、マグヌッセンとベッテルを抜いて、7位をつかんだ。
レッドブルジュニアのユーリ・ビップスが、F2レースで痛いミスをした同じ日に、角田は大量にポイントを稼いでみせた。2023年シート争いにおいても良い戦いをしたといえる。
■アストンマーティン
セバスチャン・ベッテル:評価 9/10
予選9番手/スプリント13番手/決勝8位
メルボルンでの今季初グランプリはひどい週末になったが、イモラでベッテルは、4度の世界チャンピオンとして真の才能を発揮した。難しいコンディションでQ3に進出、スプリントレースのスタートで9番手を維持したものの、後方の数台は彼より速く、タイヤにも優しいマシンだったため、13番手に落ちた。
日曜決勝での1周目は素晴らしく、序盤に8番手までポジションを上げ、その位置でフィニッシュした。アロンソのリタイアで繰り上がり、ピットストップの後、マグヌッセンの前に出た。しかし早めにタイヤ交換をしたため、角田を抑えきることはできなかった。
ランス・ストロール:評価 6/10
予選15番手/スプリント15番手/決勝10位
シーズン初ポイントを獲得、これまでのグランプリよりは良い週末だったが、予選でも決勝でもベッテルにかなわなかった。Q1ではそれなりのペースを見せたものの、Q2ではうまくラップをまとめることができず、スプリントを15番手からスタートすることになった。スタートでハミルトンの前に出たが、彼を抑えきることはできず、日曜決勝では結局15番グリッドについた。
ターン1でインシデントが起きたことで10番手まで上がり、レースを通してその位置を走ったが、前のグループにはついていくことができず。しかしストロールが最後までオコンを抑えきったことで、アストンマーティンにとっては今年ベストの週末となった。
■ウイリアムズ
アレクサンダー・アルボン:評価 7/10
予選ノータイム/スプリント18番手/決勝11位
今回もアルボンは、全チーム中最も競争力の低いマシンで、最大限の戦いをしてみせた。予選ではセッティングが適切でなかったため、右リヤブレーキがオーバーヒートして爆発、走ることができなかった。スプリントレースは最後尾から出走、チームメイトのニコラス・ラティフィを抜くことしかできず、日曜決勝は18番グリッドからのスタートに。1周目に3つポジションを上げ、ピットストップでもさらに上昇。オコンを抜くことはできなかったが、後ろのガスリーとハミルトンを抑えきり、オコンがペナルティで降格されたことで、11位となった。ポイント獲得まであと一歩だった。
ニコラス・ラティフィ:評価 4/10
予選18番手/スプリント19番手/決勝16位
人柄の良いラティフィが苦しんでいるのを残念に思う。彼はドライビングの仕方について真剣に見直す必要があるだろう。昨年のラッセルとの差よりも、今年のアルボンとの方がスピード差が大きい。アルボンが非常に才能あるドライバーであることは間違いないが、ラティフィの側も明らかに去年よりうまく走れていない。
予選Q1ではトラブルなく走ったドライバーのなかで最下位の18番手。スプリントレースではオコンとアルボンに抜かれ、最下位となった。日曜決勝はスタートをうまく決めていくつか順位を上げ、その後はウイリアムズの優れたトップスピードを使ってしばらくは周冠宇を抑えこんだ。リカルドとシューマッハーがそれぞれ複数回ピットストップをしたおかげで、ラティフィは16位という結果になった。
■アルファロメオ
バルテリ・ボッタス:評価 8/10
予選8番手/スプリント7番手/決勝5位
セッション1回を丸々失ったのはシーズン2回目のことだ。今回はFP2で走れなかったが、それはパフォーマンスに影響せず、アルファロメオのチームリーダーらしい働きをした。
Q3でテクニカルトラブルが発生したため、予選では8番手どまり。それがなければトップ5に入れたと彼は考えている。スプリントレースではスタートでベッテルとサインツに抜かれたが、後にベッテル、アロンソ、マグヌッセンを抜いて7番手となった。
日曜決勝ではリカルドとサインツのインシデントに巻き込まれ、ラッセルの後ろになり、レース前半は7番手を走り、リバッツァで路面の濡れた部分を利用してマグヌッセンを追い抜いた。タイヤの状態が良かったために、終盤ラッセルに追いついたが、最終コーナーでのトラクションが足りず、追い抜くことはできなかった。
周冠宇:評価 5/10
予選14番手/スプリントリタイア/決勝15位
ほとんどが彼のせいではないが、F1にデビューして以来最も厳しい週末を過ごした。予選ではウエットコンディションでの走行経験が足りず、ボッタスよりQ2で1.2秒遅い14番手に。スプリントレースではガスリーをピラテッラのアウト側から追い越そうとして接触が起きた。後から思えばもう少しイン側にスペースを残しておいてもよかったかもしれないが、それはガスリーにも言えることだ。
メインレースをピットレーンからスタート、40周目にラティフィを抜いて15番手に上がった。ストロールが先頭のDRSトレインに追いつくことはできずにその位置でレースを終えた。全体的にボッタスのラップタイムには全く近づくことができなかった。
■ハース
ケビン・マグヌッセン:評価 8/10
予選4番手/スプリント8番手/決勝9位
予選で輝いたひとりで、スプリントレースの4番グリッドを獲得した。だがスプリントでミディアムタイヤを選んだのはベストの選択ではないことがすぐに判明した。スプリントで8番手を獲得し、日曜決勝序盤は、望みどおりウエットコンディションとなった。タンブレロのインシデントを避けて5番手に上がったが、後方のグループの方がペースもタイヤの持ちもよく、良いディフェンスを見せた場面もあったものの、9位2ポイントで週末を締めくくった。
ミック・シューマッハー:評価 4/10
予選12番手/スプリント10番手/決勝17位
シューマッハーは今のところチームメイトに全く太刀打ちできずにいる。Q2では約1秒遅い12番手に。スプリントレースでは、チームがタイヤ選択を誤ったにもかかわらず、スタートでラッセルを追い抜いたのはよかった。ベッテルの後退で、シューマッハーは決勝10番グリッドを確保した。日曜決勝では、スタートでアロンソを追いかけるが、スピンを喫し、ポイント獲得のチャンスを投げ捨てた。後方に落ちた後、挽回することができず、残り10周というところで、2回目のピットストップも行って、17位でフィニッシュ。終盤に新しいソフトタイヤで走ったため、レース中のファステストラップでは4番手のタイムを刻んだが、またもポイント獲得には届かなかった。