NTTインディーカー・シリーズに2024年から投入される新型2.4リッターV6ツインターボ・エンジンのテストが、3月28日から30日の3日間に渡ってインディアナポリス・モータースピードウェイ(IMS)のロードコースで開催された。
このコースでは5月にレギュラーシーズンのレースがあるため、走り込みを行うテスト参加者が有利にならないよう、通常のインディーカー用ではなく“F1レイアウト”と呼ばれるコースが使われた。
また、テストということもあり、各マシン、ドライバーの走行周回数やラップタイムの発表はなかった。なお、このテスト日にIMSのインフィールドは一部解放され、誰でも新エンジンのサウンドを楽しむことができるというファンにフレンドリーなインディーカーらしい配慮がなされていた。
インディーカー・シリーズは2023年から新エンジンとエネルギー回生システム(ERS)を組み合わせたハイブリッドパワーユニットを採用することとなっていた。ところが、世界的なパンデミックが長く続いたために開発に必要な部品の安定供給がままならなくなり、新しいパワーユニットへの移行を1年遅らせることになった。
今回のテストも元々は新エンジンとERSを組み合わせた新パワーユニット搭載で行われる予定だったが、実戦デビューを1年先送りにしたこともあり、まずはエンジンだけでのテスト走行が行われた。
インディーカー・シリーズが採用するERSは、1社による単独供給。エンジンマニュファクチャラーが技術を競い合うものではない。出場全車が同じものを搭載するルールだ。
ERSのサプライヤーに選ばれたのはドイツのマーレー。ピストンの製造で名を馳せた会社だが、近年はエレクトロニクス関連など多方面に業務を拡大している。チームやエンジンマニュファクチャラーは供給されたERSを改良したり、変更を施すことができない。
世界のグリーン志向に合わせてハイブリッド化はするが、そこでの競争を許すと参戦費用の高騰に繋がるため、それは避けられた。
現在、2024年のインディーカーシリーズに参戦することの決まっているのはホンダとシボレーの2社。両メーカーはハイブリッド化というインディカーの決定を歓迎した。
そのホンダとシボレーが参加した今回のテストは、残念ながら非常に気温の低いコンディションに見舞われた。それでも両社のマシンは用意されていた3日間の日程をフルに利用して周回を重ね、トラブルフリーで貴重なデータを収集した。
シボレーはチーム・ペンスキー、ホンダはチップ・ガナッシ・レーシングがテストを担当し、ドライバーはホンダがスコット・ディクソン、シボレーは1日目がジョセフ・ニューガーデン、2、3日目はウィル・パワーというラインアップだ。
現在のインディーカー・シリーズで使われているエンジンは2.2リッターV6ツインターボで、ハイブースト時でのパワーは750馬力程度とされているが、新エンジンは0.2リッター大きい2.4リッター。V6ツインターボである点は変わらない。
新エンジンは現行モデルより大きな800馬力ほどを発生させ、ERSとの組み合わせによって最大出力は900馬力以上へと跳ね上がる。もちろんブースト圧の調整により、さらなるパワーアップも可能だ。
インディーカーが大パワーへとシフトするのは、ドライバー間の競争をさらに激しく、高度にすることを目指してのことだ。マシンをじゃじゃ馬化すればドライバーたちのコントロールスキルが勝敗を分ける大きなファクターとなり、これまで以上にエキサイティングなバトルが実現すると考えているからだ。
ホンダ・パフォーマンス・デべロップメント(HPD)で社長兼テクニカル・ディレクターを務めるデイビッド・ソルターズは、「ホンダのインディーカー用エンジンの設計、シミュレーション、製造、組み立て、ダイノでのテストを行ってきたカリフォルニアのHPDのスタッフたちに大きな拍手を送りたい」
「チップ・ガナッシ・レーシングとスコット・ディクソンのおかげもあって3日間を通じて我々のエンジンは順調に回り続け、予定していたテスト項目のすべてをこなすことができた」とテストを評価していた。
そしてシボレーのインディーカー・プログラム・マネージャーであるロブ・バックナーも、「とても生産的な3日間で、インディーカー用の新エンジンのテストは大成功だった。ダイノでのテストを重ねたエンジンを実車に搭載し、インディアナポリスのロードコースで初めての周回を行った。大きな節目となるテストだった」とコメントしている。シボレーは3日間で600マイル以上、ホンダも500マイル以上を走ったようだ。
ニューガーデンは、「チーム・シェヴィーのエンジニアリング部門と2024年用エンジン・パッケージをテストするという素晴らしい体験ができた。パワーも耐久性もあり、多くの周回数を重ねることができた」
「これはシボレーの開発チームが見事に協力したことによって実現された。これだけ早い時期に実走テストを行えたことにより、近い将来にレースを戦うときに必要とされる耐久性、パワー、高燃費という目標に到達ができると思う」と語った。
そしてパワーは、「今日、新型2.4リッター・エンジンの2024年シーズンからの使用に向けて大きな一歩が踏み出された。シボレーがこのエンジンにどれだけの力を注ぎ込んできたか、乗ってすぐに理解することができた」
「このエンジンがどんどん良くなって行くのは間違いない。私だけで150ラップは走った。そして、このエンジンのパワーに感銘を受けた。パワー増がなされることにエキサイトしている。今後も開発に携わっていくことを楽しみにしている」と情熱的だった。
“エンジンをハイ・パワー化してマシン・コントロールを難しくすることがインディーカーのレースをよりエキサイティングなものにする”との持論を訴え続けてきたのがパワーだからだ。
初のテスト走行を順調に終えたインディカーの新エンジン。ERSを組み合わせた走行など今後の動向にも注目だ。