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 5月29日、スーパーGT第3戦『たかのこのホテル SUZUKA GT 300km RACE』が開催されている三重県の鈴鹿サーキットで、スーパーGTをプロモートするGTアソシエイションの坂東正明代表、服部尚貴レースディレクターが定例記者会見に出席し、5月4日に富士スピードウェイで開催された第2戦『FAV HOTEL FUJI GT 450km RACE』の決勝レース59周目のメインストレートで発生したアクシデントについての状況説明を行った。

 このアクシデントは、スーパーGT第2戦富士の決勝59周目に発生したもの。レースは44周目に発生したGT300クラスのアールキューズ AMG GT3のクラッシュにより一時赤旗中断、セーフティカーランを経ての再開後のトップ争いのなかで起きた。

 中断前のピットイン、再開後のTGRコーナーでポジションを上げトップに立ったDENSO KOBELCO SARD GR Supraの背後からCRAFTSPORTS MOTUL Z、KeePer TOM’S GR Supraがテール・トゥ・ノーズで迫る戦いのまま59周目に突入したが、ストレート上でミッショントラブルを抱えスローダウンしていたArnage MC86の背後につけたDENSO KOBELCO SARD GR Supraは直前で進路を変えたものの、ブラインドにいたCRAFTSPORTS MOTUL Zは姿勢を乱しガードレールに激しくクラッシュした。

 車体とガードレールがうまく衝撃を吸収したこと、CRAFTSPORTS MOTUL Zをドライブしていた高星明誠がブレーキを踏み続けていたこと、迅速な救出作業などから火災も発生せず、高星は精密検査を受けた後、大きな怪我もなく無事に退院。スーパーGT第3戦鈴鹿にも出場している。ただ、飛散したパーツによりグランドスタンドのファンが軽傷を負うなど、大きな影響を残した。また、ギリギリでArnage MC86を回避したKeePer TOM’S GR Supraも回避時にわずかに接触しダメージを負ったほか、後続車も飛散したパーツや避けようとした際の接触で、多くのダメージを受けている。

 このアクシデントについてはさまざまな議論が起きたほか、スーパーGT第3戦鈴鹿の走行前日にあたる5月27日(金)には、新型コロナウイルス禍以降開催されていなかった対面でのドライバーブリーフィングが行われ、全ドライバーが参加。アクシデントの車載映像などを交えて説明され、さまざまな議論があったという。

 これを踏まえ、5月29日(日)に行われたGTA定例記者会見のなかで、坂東代表、服部レースディレクターが出席し、DENSO KOBELCO SARD GR Supraの関口雄飛、CRAFTSPORTS MOTUL Zの高星明誠のもの、KeePer TOM’S GR Supraの宮田莉朋の車載映像、コースの監視カメラの映像が公開された。

■トラブル車両の動きについて

 この映像公開に続き、服部レースディレクターから状況が説明された。まず、このアクシデントが“レースアクシデント”なのか“インシデント”なのかというジャッジがレース当日に行われ、レースアクシデントだと判定がされた。その上で、「今後再発しないため」に決勝直後からレースディレクター、DSO(ドライビング・スタンダード・オブザーバー)、GTAで監視カメラ、映像、マーシャリングシステムによる車速、車間距離の検証に着手した。

 服部レースディレクターによれば、メインストレートで走行していた50号車Arnage MC86は、「最終コーナーを立ち上がったところでトラブルが起き、170km/h台からスピードが上げられない状況で、その後130km/hくらいに落ちました。ただ残念ながらピットに戻るタイミングではなかった」という状況で、ストレート上をスタンド側からウォール側に移動しているのが監視映像で分かる。

 この50号車Arnage MC86のスロー走行については、ストレート右側のポスト(17番ポスト)でスロー車両が存在する白旗が振られているが、続くメインフラッグタワーについては白旗が提示されておらず、トップ争いをしていた3台については「通過するまでに白旗が用意できていなかったので、3台が見られる状況ではありませんでした」とした。

 また服部レースディレクターは、こういった大きなアクシデントは「いろいろなことが重ならないと起きない」としつつ、まず50号車Arnage MC86は「グリッド枠に半分かかるような位置を走ってしまった、うしろに報せるためのハザードやウインカーは点けていなかった」ことがまずひとつの要因となったのではないかとしている。

「スロー車両の位置は、本来であればホワイトラインををまたぐか、踏むくらいの位置でも良いので、もっと内側を走ってくれたら結果はいろいろ変わったかもしれない」としている。服部レースディレクターからは、鈴鹿でチーム、ドライバーに説明がされたという。

■車載映像から分かる3台の動き

 また39号車(DENSO KOBELCO SARD GR Supra)の走行については、「うしろの3号車(CRAFTSPORTS MOTUL Z)が速かったのでインを抑えていますが、39号車がどこで50号車がスロー走行だったのに気づいたかということです」と説明する。

「本人(関口)に聞く前に自分でいろいろ分析したのですが、(直前にスリップに入っていた)31号車(apr GR SPORT PRIUS GT)のスリップから抜けた後、遠くに50号車がいるのを認識している。ただそのクルマのスピードがレーススピードなのか、トラブルなのかを39号車のドライバーが感知したのは、スタートラインの上のブリッジがかかっていますが、そのあたりではないかと認識しています」という。そこから進路を変えるまでは非常にわずかな時間しかない。

 また、CRAFTSPORTS MOTUL Zの映像を観ると、スリップストリームに入りながら、グングンと近づいている様子が分かる。この勢いで後続から接近されると、DENSO KOBELCO SARD GR Supraのドライバーの感覚、視点としては「前2、うしろ8くらいの感覚で見ていると思います」と服部レースディレクターは自身の経験も交え説明した。

 さらに、外側からの映像では分からない事故の要因として「3号車はスリップが効いていて、50号車がいる、いないに関わらず、ステアリングを右側に切って39号車を抜きに行こうとしている」と説明した。実際に3号車の車載映像では、高星が富士でのTGRコーナーへ向けた定石でもあるイン側を移動するためか、わずかに右側にステアリングを切っている様子が映っている。ただGT500は左ハンドルで、右にステアリングを切った段階では、50号車をまだ認識できていない。直後、50号車が目前に現れるかたちとなった。

 そこで高星はブレーキを踏み、左にステアリングを切りスピン状態となったが、右にステアリングを切った直後に左に切り、ブレーキを踏み荷重をかけたことによって姿勢を乱したのではないかと分析した。

 今回のアクシデントについては、「皆さんが観たオフィシャル映像ですと、どうしても振っているもので、実際の映像とは違うように見えるところがあります」という。たしかに、外側から観たものとはかなり印象が異なっている。またKeePer TOM’S GR Supraについては、わずかにCRAFTSPORTS MOTUL Zに離される状態だったこと、直前でDENSO KOBELCO SARD GR Supraがわずかに左に動いたのと同時にCRAFTSPORTS MOTUL Zのブレーキランプが点いたことから反射的に回避したこと、Arnage MC86とわずかに接触している様子が映像で分かった。宮田の回避について、服部レースディレクターは「3号車がスピンしていったこともあり、宮田選手は本当にラッキーだっただけで、3号車も50号車も含め、もっと大きな事故になっていた可能性もある」と解説している。

■再発防止に向けさまざまな対策を講じる

 このアクシデントについては、5月11日に、JAF日本自動車連盟と1回目の事故検証会議を開催し、レース部会、安全部会、技術部会の各部会長が出席。GTA、富士スピードウェイに対し事故状況の聴取が行われた。さらに、5月16日にGTアソシエイションでスポーツ部会が臨時開催され、事故調査報告書がスポーツ部会に提出された。

 また、5月19日にあはGTA取締役会が行われ、事故報告書と再発防止策を提出。また事故に関連したチームとGTAで個別面談が行われることも決定した。5月20日には事故調査報告書がJAFに提出、5月25日にはJAFに2回目の事故調査会議が行われた。さらに5月27日には、先述のように鈴鹿で対面でのドライバーブリーフィング、監督ミーティングが行われている。

 今回のアクシデントの再発防止策については別項でも触れるが、「今後こういったアクシデントがどうしたら起きないかがいちばん大事だと思っていて、運営側としては、ドライバーにできるだけ早くにスロー車両がいることが報せることが必要だと思っています。またそのためには、白旗、ポストからのレースコントロールへの早めの連絡が必要で、連絡網については強化していきたい」と服部レースディレクター。

「まずトラブルが発生した車両は、できるだけ早くまわりにトラブルが起きたことを伝えることが必要で、ハザード、ウインカーなどで、自分がトラブルを抱えていることを伝えるのが防止策のひとつ。また、今回のように3台が連なってきたときは、いちばん前の車両はドライバーとしての危機察知能力を活かして欲しい。プロのドライバーですから、常にアンテナを張って、何かおかしいことをいかに早く察知してもらえるかも大事なところ」

「見つけた後は、こういう状態ですと後続は見えないと思います。やはり前のクルマが、争っているライバルではありますが、仲間を守るように切り替えて欲しい。仲間を守るということは、お客さま、スタッフを守るということです。レース自体を自分がプロとして走っている以上、切り替えが大事になる場所だと思っています」