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今夏に日産シーマ&フーガ生産終了へ 続々消えるセダン復活のカギは「価値観の排除」?

 2022年3月31日、また衝撃的な報道が飛び込んできた。日産のフラッグシップセダンであるシーマと高級セダンのフーガが、今夏に生産を終了するというのだ。2010年に一度幕を下ろしたシーマは、2012年に復活し、ほそぼそながらも日産ラインナップにおける高級セダンの地位を守り続けてきた。

 ここ数年で、国産高級セダンが次々と姿を消している。このままセダンカテゴリーは下火となり、消滅してしまうのだろうか。今後、日本のセダンが生きる道を考えていきたい。

文/佐々木亘、写真/NISSAN

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シーマ・フーガが終焉、日産に残るはスカイラインだけ

デビューから10年が経過した現行型シーマ。昨今のセダン離れもあり、2021年の販売台数はわずか75台と低迷している

 1988年に発売され、「シーマ現象」という言葉とともに、大ヒットを記録した日産のフラッグシップセダンがシーマだ。現行型の5代目は2012年に登場した。1度マイナーチェンジを受け、2022年でモデルライフは丸10年が経過する。

 バブル経済を足掛かりに、販売台数を伸ばしたシーマだが、景気の後退やユーザーのセダン離れもあり、2021年の販売台数は、わずか75台にとどまった。

 2022年4月現在、日産ラインナップのなかで、セダンカテゴリーには3台が登録されている。シーマ、フーガ、そしてスカイラインだ。

 シーマの生産は今夏にも終了する見通しであり、同時にフーガも生産終了となる。かつては、セドリック・グロリア・ローレル・プリメーラなど、名だたるセダンを送り出してきた日産だが、セダンとして残るのはスカイラインだけとなった。

 これから需要拡大が見込まれるBEV(電気自動車)に対して、経営資源を投入するため、シーマ・フーガの生産を終えるとしているが、日産の黄金時代を支えた名車が、また一つ消えていくのは悲しい。さらに日産のセダンカテゴリーにも、終焉の雰囲気が漂い始めてきている。

クラウンもSUVへ変わる! セダンはなぜ流行らなくなった?

 2021年にはホンダ・レジェンドが生産終了、2022年にはインサイトの生産終了も決まっている。これで、セダンカテゴリーを複数車種で展開するメーカーは、トヨタ(レクサス)、マツダ、スバルだけとなった。

 さらに現在オーダーストップされているトヨタ・クラウンが、次期型ではSUVとして生まれ変わる。セダンからのリフトアップが行われ、全車HEVのAWDとなる模様だ。

 輸入車では、まだまだ元気なセダンカテゴリーだが、国内メーカーはセダンに対して悲観し、「撤退」の雰囲気を醸し出す。しかし、ミニバンやSUVが主流へと切り替わり、セダンの支持率が低下する昨今の状況は、日本の道路環境を考えれば、必然的に起こったことだと筆者は考える。

 自動車文化が栄えている国のなかで比較すると、日本はクルマの走行速度が低い。一般道では30km/hから60km/h、高速道路でも平均速度は100km/hを切るだろう。諸外国を見ると、アメリカのフリーウェイは日本よりも1割程度走行速度が速く、欧州の高速道路はさらに高い速度域で走ることができる。

 日本での高速移動手段は、クルマではなく飛行機や新幹線が主流だ。そこで、クルマが速く移動できない手段なら機能性を重視しようと、1990年代の終わりからユーザーはミニバンを求めるようになった。ミニバンは、荷物を多く積み込めて車内が広い。日本の速度域なら、ミニバンにおける車両剛性の低さや空気抵抗の大きさは、さほど気にならないだろう。

 さらに、時代の変遷でモノの価値観が大きく変わった。令和の今、かつては大切にされていた、クルマに対するステータス性は鳴りを潜める。社会的ステータスが高いから、良いクルマに乗るという関係性が成立しなくなり、クルマの序列は不要となった。

 例えば、スカイライン・フーガ・シーマ、カローラ・カムリ・クラウン・LSという、セダンのヒエラルキーは意味を持たない。こうした格式に縛られないクルマの選び方が、SUV人気を高めていった。個性的に作られるSUVを保有し、クルマの序列ではなく個の才能を評価しているのだ。

 こうして、かつては自動車市場の中心にいたセダンに対する関心が薄れ、販売自体も振るわなくなってしまう。セダンに植え付けられたイメージが、社会変化についていけなくなってしまったということを、現在のセダン離れが証明している。

もう一度時代は巡るはず! セダン復権に向けた動きを見せよ

 日本国内でモータリゼーションが急速に進展してから、約70年が経過する。しかし、この歴史は、自動車文化の先陣を切る欧米諸国に比べれば、まだまだ浅い。

 この間、軽自動車やスポーツカー、セダンにワゴン、ミニバンやSUVといった様々なカテゴリーのクルマが、栄えては衰退している。まだ、日本のなかでは、クルマの流行り廃りが一周しきっていない。

 歴史の深いBMWやメルセデスが、今もなお3・5・7シリーズ、A・C・E・Sクラスで精力的にセダンを作り続けているところを見ると、今後、日本国内ではセダンの復権が今後必ず起きる。現在のミニバン・SUVブームが陰りを見せ始めたとき、セダンに対する見方が徐々に変わり始めるはずだ。

 そのときまでに、今日不要とされているセダンの格式(優劣や順位)の差をなくさなければならない。クルマは、現在のSUVのように、個の力と特徴をユーザーが単純に評価できるものでなければならないのだ。クラウンよりカローラが劣る、シーマよりフーガが劣るという順位付けは、セダン復権の足かせにしかならないし、こうした価値観の押し付けは時代遅れであろう。

 エンジンルーム、キャビン、トランクという3BOXが、クルマのデザインにも設計にも自由度を与えてきた。デザインに凝っても、3BOXは車両剛性を充分に確保でき、クルマの運動性能も高いレベルで確保できる。セダンという形は、クルマの基本形であり、最も理にかなったものなのだ。

 核家族化が進み、2~3人程度の少人数で移動することが多いこれからの日本社会。セダンが、クルマのなかで最良の選択肢となる日は、必ずもう一度来る。  

 これまでの格、順序という固定観念を排除するために、各社が一度セダンラインナップを解体し、新しく構築するのも対応策の一つだ。一過性の単純な人気にとらわれず、日本の自動車メーカーはセダンを作り続け、もう一度、日本国民の生活のなかに根付かせてもらいたい。

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