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RB18のポテンシャルを存分に発揮できたレッドブルとアドバンテージがありながらフェラーリが堕ちた理由とは

 信頼性の欠如と神経質な挙動に苦しめられていたレッドブルRB18。が、ここにきてイモラでは信頼性がアップして、フェラーリを凌駕する速さを発揮した。前レースまでは速いが脆い……というRB18を、レッドブルはどう立て直してきたのか。元F1メカニックの津川哲夫氏が解説する。

文/津川哲夫
写真/Ferrari,Mercedes,Redbull,McLaren

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レッドブル、実走テストなしでアップデート。フェラーリに勝つための賭け

 フライアウェイ3戦を経て2週間を置いたこのエミリア・ロマーニャ・グランプリ。レッドブルは開発パーツを持ち込み、このアップデートが功を奏して見事に本来のレッドブルらしさを蘇らせた。

 今回は今シーズン最初の変則レース。金曜日にフリープラクティス1を行い、午後はそのまま予選となる。そして土曜日にフリープラクティス2が行われ、午後には予選スプリントという、日曜日の決勝のスターティンググリッドを決めるレースが行われたのだ。

開幕3戦までで大きなアドバンテージを築いたフェラーリ ルクレール

 レッドブルは今回のイモラにアップデート仕様を持ち込んだが、「このアップデートは実走テストをせずに投入しているので、どんな結果が出るかはギャンブル。それでもフェラーリの優勢に対処するにはこのギャンブルが必要なのだ」とヘルムト・マルコは語っている。

トップスピードの速さはそのままで、中高速コーナーも安定して速いRB18

 実際アップデートは功を奏したのだからギャンブルに勝ったといって良いだろうが、おそらくその賭けはかなりレッドブル側に傾いている賭けだったに違いない、エアロ的にもメカニカルセッティング的にも、である。

 トップスピードの速さは相変わらずで、レースではレッドブル2台がレースを席巻していた。イモラは中速を主体とした高速サーキットで、低速ポイントはトサ・ヘアピンとアルタ・シケインの2つしかないので中高速コーナーの安定性と加減速の安定性、そしてトラクションが大きなセッティング要素なのだが、それをレッドブルはトップスピードを落とさずに効率の良いダウンフォースを生み出し、見事に熟成させてきた。

 また信頼性の問題は本来ならレッドブル・パワートレインズが対処するところを、これをサクラに持ち込み、検討・解決したのだという。つまりレッドブルとホンダは密なる関係がまだしっかりと続いているというわけで、実に頼もしいことである。

2週間の間も開発を止めなかったレッドブル、対するフェラーリはアップデートなしで乗り込んできた

確実に信頼性が増したRB18、スピードを活かしペレスがルクレールを抑える

 今回フェルスタッペンは予選でPPを取り、スプリントでトップを取り、レースではポールツーフィニッシュ。さらにレースの最速ラップも稼いで、まさに完全試合をして見せた。しかも開幕3戦までで大きなアドバンテージを築き、地元イモラでの凱旋レースを飾るはずだったフェラーリを下し、イモラを埋めたティフォシー(熱狂的なファン)を落胆させた。

 フェラーリはこのレースに開発部品を持ち込んではこなかった。フェラーリからすれば、舞台は知り尽くしたイモラ、シミュレーションも完璧で、現在のF1-75なら“鬼に金棒”と踏んでいたのだろう。もちろんこれはレッドブルもそう信じていたからこそ、ギャンブルをしてまでアップデートを持ち込んでいるのだ。しかしフェラーリのこの自信が裏目に出てしまった。

 フェラーリは久々の母国イタリアで確実な凱旋勝利をするために、これまで持っていたアドバンテージを信じて、保守に傾きテストデータの少ないアップデートのギャンブルを嫌ったのかも知れない。確かに金曜日のプラクティスは速かったものの、予選では天候の変化や頻発するレッドフラッグにカモフラージュされてレッドブルの真の速さを見抜けなかったようだ。

 結果、予選スプリントでは最終ラップでフェルスタッペンにかわされてしまった。結果的に金曜日の予選から既にレッドブルが上手を取っていたという事だ。また凱旋優勝に対する凄まじいプレッシャーが2人のフェラーリドライバーを襲い、サインツにもルクレールにもミスを犯させたといっても過言では無い。6位に沈んだルクレールのレース後に頭を抱える姿がそれを如実に語っていた。

速さを見せた角田。ガスリーを超えて上位陣と遜色ないタイムを出しての7位

堂々の7位でフィニッシュの角田。イモラでは常にガスリーの前にいた

 これでレッドブルの反撃が、ついにこのヨーロピアン・クラシックラウンド第1戦目のイモラから始まった。そしてそのレッドブル軍団の進撃にはアルファタウリ、それも我らが角田裕毅も加わっていた。

 角田は変則レースのこのイモラで初日から着実に走り、短時間でAT03のセッティングを煮詰め、P1では9番手、予選では16番ながら土曜日のP2では8番手、予選スプリントでは4台抜きで12位。そして決勝では、その12位からスタートして快調に順位を上げ7位入賞を果たしている。スムースなオーバーテイク、安定して速いラップタイムを刻んだ。最後にルクレールに抜かれたものの、これはタイヤの差。角田のミディアムタイヤは既に終っていて、ルクレールはタイムアタック用に履いた新品のソフトタイヤ。角田はその状況でルクレールと争う愚行をせずリスキーな6位を諦め堅実に7位を維持したのだ。

 昨年このサーキットでの大きなミスを、今年は繰り返さないという大人の判断が今シーズンの角田の大きな成長といえる。それもガスリーを超えてきっちりとタイムを出しての7位なのだから、今後の角田に注目することは彼のファンだけではなく、F1レースを知る者なら当然の事といって良いはずだ。

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津川哲夫
 1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
 1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
 F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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