2022年にフルモデルチェンジしたノア/ヴォクシー、ステップワゴンは5ナンバーサイズから3ナンバーサイズになった。そして年末にフルモデルチェンジが予想される日産セレナも同様に3ナンバー化が予想される。
自動車評論家 渡辺陽一郎氏が、ノア/ヴォクシー・ステップワゴンなどによる「ボディ拡大傾向」のなかでの「5ナンバーボックスタイプミニバン」の存在意義について解説する。
文/渡辺陽一郎、写真/TOYOTA、HONDA、NISSAN
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■ノア/ヴォクシー、ステップワゴンは全モデル3ナンバー車に
2022年はノア/ヴォクシー、ステップワゴン、セレナの3車種がフルモデルチェンジする。ノア/ヴォクシーは1月13日に発売され、ステップワゴンも販売店では価格を明らかにして2月10日頃に予約受注を開始した。
5月26日には正式に発表され、27日には発売される予定だ。セレナも、2022年の末から2023年にかけてフルモデルチェンジを行う。ミドルサイズの売れ筋ミニバンが、そろって新型になる。
前述のミニバンのうち、セレナは新型の概要を明らかにしていないが、ノア/ヴォクシーとステップワゴンについてはわかっている。
注目されるのはボディサイズの変化だ。先代ノアに用意された標準ボディは、全長が4695mm、全幅は1695mmの5ナンバー車だった。エアロパーツ装着車は、全長4710mm、全幅1735mmの3ナンバー車であった。
これが新型では標準ボディ、エアロ仕様ともに、全長4695mm、全幅1730mmの3ナンバー車に統一されている。
ステップワゴンも同様だ。先代型の標準ボディは、全長が4690mm、全幅は1695mmの5ナンバー車だった。エアロパーツを装着したスパーダは、全長4760mm、全幅1695mmで、全長が4700mmを超えるために3ナンバー車になっていた。
これが新型ステップワゴンでは、全長が標準ボディに相当するエアでも全長4800mm、スパーダは4830mmまで伸びている。
ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の2890mmは、プラットフォームと併せて先代型と共通だが、全長は70~110mm長い。
また、新型ステップワゴンの全幅はエア、スパーダともに1750mmで統一され、先代型に比べて55mm拡幅された。
■3ナンバーサイズになることで消費者の声は……
次期セレナについての詳細は前述のとおり不明だが、現行型の標準ボディは、全長が4685mm、全幅は1695mmの5ナンバー車だ。エアロ仕様のハイウェイスターは全長4770mm、全幅1740mmの3ナンバー車になる。
標準ボディが5ナンバーサイズで、エアロ仕様は3ナンバーサイズという区分けは、先代型のノア/ヴォクシーやステップワゴンと同じだ。これが次期型では、全車が3ナンバーサイズに統一される可能性がある。
このようにボディが拡大して、ユーザーは不満を感じないのだろうか。トヨタの販売店に尋ねると、以下のように返答された。
「エアロ仕様は、以前から3ナンバー車だから、先代型から乗り替えるお客様にも違和感はない。最近は3ナンバー車の利用を断わる駐車場も減り、税額も変わらないから不都合は生じない。ただし、ノアの標準ボディを使うお客様で、自宅の駐車場が狭い場合は、気にされることもある」。
先代ノア/ヴォクシーのエアロ仕様は、全長が4710mm、全幅は1735mmだった。それが新型は各々4695mm、1730mmだから、エアロ仕様については新型になってボディが若干小さくなった。この場合はボディサイズの変化は気にならない。
■同じ3ナンバーサイズでも、運転すると新型はよりワイドに感じる
しかし、先代型が5ナンバー車だった標準ボディは、ユーザーの見方が変わる可能性もある。販売店が指摘したとおり、自宅の駐車場の幅が狭いと、全幅の拡大によって車庫入れや駐車場における乗降性が悪化することも考えられるからだ。
特にステップワゴンの場合、先代型の全幅はスパーダを含めて1695mmだったが、新型は1750mmだ。さすがに55mmも拡幅されると、運転感覚に違いが生じて、ボディがワイド化されたことを意識する。
また、ノア/ヴォクシーやステップワゴンでは、先代型もエアロ仕様は3ナンバー車だったが、この新旧モデルを比べると、ボディサイズが同程度でも運転感覚は異なる。
先代型のような5ナンバー車をベースに開発された3ナンバー車は、ドライバーの死角に入る部分で全幅が広がっている。一方、新型の標準ボディまで含めた3ナンバー車は、左右のピラー(柱)同士の間隔が広い。
そこで新旧ノア/ヴォクシーのエアロ仕様を乗り比べると、全幅の数値は同程度なのに、運転感覚としては、新型のほうがワイドに感じた。
新型はピラーの位置からワイド化されているため、ドライバーの視野に入る左側のピラーが遠く感じる。そこがワイドなクルマを運転している実感を強めていた。
そして5ナンバー車をベースにした3ナンバー車を用意する先代型と、すべてが3ナンバーサイズになる新型では、車種のイメージも変わる。
先代型のノア/ヴォクシーやステップワゴンは、5ナンバーサイズの標準ボディが用意されるから、車種全体の印象も身の丈に合った感覚があった。
■3ナンバーサイズ化にはそれぞれメーカーの思惑が
ところが、全車が3ナンバーサイズになり、ステップワゴンのように全長が4800mmに達すると、車種の印象はデリカD:5に近づく。ここまでのサイズアップは、売れゆきを保つうえで、マイナスの要素にもなり得る。
それでもボディを拡大した背景には、ふたつの理由がある。ひとつ目はプラットフォームと全幅の兼ね合いだ。
新型ノア/ヴォクシーは、走行安定性や乗り心地を向上させ、設計の新しいエンジン、ハイブリッドシステム、安全装備、運転支援機能を搭載するため、プラットフォームをGA-Cと呼ばれるプリウスやカローラ系と同じタイプに刷新した。
先代型のプラットフォームでは、もはや進化させることが困難だったからだ。
そしてGA-Cプラットフォームでは、全幅を1700mm以下に抑えると設計上の無理が生じるため、全幅を1730mmとしている。カローラセダン&ツーリングも、同じ理由で全幅を1745mmに拡幅した。
アクアやヤリスが使うGA-Bプラットフォームであれば、5ナンバーサイズに収まるが、ノア/ヴォクシーのボディは支えられない。つまり、ノア&ヴォクシーを進化させるには、3ナンバーサイズへの拡大は必須条件だった。
その点でステップワゴンは、プラットフォームを先代型と共通化したから、5ナンバーサイズに収めることも可能だった。それなのに全長は70~110mm、全幅も55mm拡大した。
ステップワゴンがボディを3ナンバーサイズに拡大した理由は、室内を広げるためだ。新型では快適な居住空間をセールスポイントに位置付け、ボディを拡大する必要があった。
先代型の室内幅は1500mmだが、新型は1545mmに広げている。つまり、全幅を55mm広げた分はほぼそのまま室内幅の拡大に費やした。
■ユーザーが抱く新型との距離感への懸念
このように新型になったノア/ヴォクシーとステップワゴンが全グレードを3ナンバー車にした背景には、各車種の戦略と理由がある。
それでも全車が3ナンバー車になると、ユーザーは、自分と車両の距離感が広がった印象を受けてしまう。運転感覚や乗降性が異なり、「3ナンバー車」という語感の違いも加わるからだ。
この新型ノア/ヴォクシーやステップワゴンが自分から離れていくような感覚には、価格も影響を与えている。新型ノアで売れ筋グレードになるS-Gは、ノーマルエンジンが304万円で、ハイブリッドは339万円だ。
安全装備や運転支援機能のオプションを加えると、ノーマルエンジンでも320万~350万円に達する。
新型ステップワゴンも1.5Lターボを搭載するエアの7人乗りは299万8600円で、e:HEV(ハイブリッド)を搭載するスパーダの7人乗りは364万1000円だ(ステップワゴンの価格はいずれも著者による販売店からの独自情報)。
このように売れ筋グレードの大半が300万円を上回り、ボディサイズも3ナンバー専用になると、売れゆきにも影響を与える。ノア/ヴォクシーは先代型の保有台数が膨大で、新型は安全装備と運転支援機能を進化させた。
当分の間は乗り替え需要に支えられて受注は好調に推移するが、時間が経過すると新規ユーザーの獲得が難しくなる可能性もある。
■5ナンバーサイズのシエンタ・フリードの今後は極めて重要
従って5ナンバーサイズを守るシエンタ、あるいはフリードの充実が大切だ。
トヨタの販売店では「次期シエンタの詳細は現時点ではわからないが、安全装備と運転支援機能の充実により、価格は20万円ほど高まると思う」とコメントした。
現行シエンタGの価格は約210万円、ハイブリッドGは約247万円だから、販売店のコメントどおりなら、新型はガソリンが約230万円、ハイブリッドが約267万円になるわけだ。これは以前のノア/ヴォクシーの価格に近い。
国内での所得が伸び悩んでいる現状も踏まえると、ノア/ヴォクシーからシエンタ、ステップワゴンからフリードへのダウンサイジングが進む可能性も高い。
ノア/ヴォクシーやステップワゴンは優れた商品だが、買い得感の強いシエンタとフリードのフルモデルチェンジにも期待したい。
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