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 ファンのために熱いレースを展開してくれるスーパーGTドライバーたち。SNS等でも散見されますが、所属するチームやメーカーによって差はあれど、多くのドライバーが“繋がり”をもっています。そんなGTドライバーたちの横の繋がりから、お悩みを聞くことでドライバーの知られざる“素の表情”を探りだす企画をお届けしております。今回はmuta Racing INGINGの加藤寛規選手から、NISMOのロニー・クインタレッリ選手に繋がりました。

 しばしばSNS等でも見られる、気になる2ショット。「へえ、あのドライバーたち、仲良いんだ」とファンの皆さんも驚くこともあるのでは。そんなGTドライバーの繋がりをたどりつつ、ドライバーたちの“素”を探るリレートークがこの企画です。これまでの連載は、まとめページを作りましたのでぜひご参照ください。

スーパーGTドライバー勝手にお悩み相談ショッキングの連載まとめページです。
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 今回は、ロニー選手が来日した直後から親交がある加藤選手からのレーシングカートのお悩みを、四度のGT500チャンピオンにぶつけてみました。ご存知の方も多いと思いますが、ロニー選手と言えばレーシングカート界では世界的に著名な存在でした。もちろん本人のカートへの思いも強いので、話は止まらなくなります。ただとても興味深いので、ぜひご一読を。

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■加藤さんは日本で最初にお世話になった人

──さてロニーさん、よろしくお願いします。いまオートスポーツwebで『スーパーGTドライバー勝手にお悩み相談ショッキング』という企画を掲載中でして、『笑っていいとも!』というテレビ番組を参考にしているんだけど、ロニーさんは観たことあります?
ロニー・クインタレッリさん(以下ロニーさん):う〜ん……観たら分かるかもしれないな。誰が出てました?

──タモリさん。
ロニーさん:タモリ?

──サングラスかけた人。説明が難しいな(笑)。。
ロニーさん:あ〜はいはい! オジさんでしょ?

──うん。まあそうね(笑)。で、その番組のなかに、ゲストを呼んで次の人に電話をして、ゲストの友だちを紹介してもらうというコーナーがあったんですよ。さすがにロニーさんは観たことなかったかな(番組は2013年までやっていたので、観た可能性はあるはず)。
ロニーさん:どうかな? (明石家)さんまさんは分かるけど。

──日本人はお昼休みと言えばけっこう観てた番組なんだよ。
ロニーさん:そうなんですか。その流れで、悩みがあったら次の人に相談するということ?

──そうそう。
ロニーさん:それで今回はなんでボクのところに(笑)?

──今回はね。加藤さんからロニーさんへのお悩みを預かってきましたよ。
ロニーさん:加藤さん? スゴい。ボクが日本のモータースポーツ界でいちばん最初にすごくお世話になった人。

──そのようだねぇ。加藤さんと知り合ったのは、ロニーさんが日本に来たばかりのころ?
ロニーさん:そう。2002年の11月だったかな。セントラルパークMINEで、INGINGのF3のオーディションテストがあり、その当時に加藤さんがテストドライバーだった。オーディションのベンチマークとして加藤さんが来て、まず同じクルマで加藤さんが走って、その後にボクが走りましたね。ふたりのタイムの比較と、加藤さんからドライビングだけではない、ポテンシャルを含めてのボクの評価をしてもらいました。当時はサーキットからホテルまでの移動も加藤さんのクルマでしたね。

──当時ロニーさんは日本語話せなかったよね?
ロニーさん:もちろん話せなかった。たしか英語で話していたかな。

──なるほど。そこから月日が経ち、今も家も比較的近いしね。
ロニーさん:そう。でもそれは狙いどおりではなくたまたま。『アレ〜?』みたいな(笑)。

──加藤さんも言っていましたが、家族ぐるみでお付き合いしていると?
ロニーさん:そうですね。加藤さんがいたから今の日本にボクがいるという意味でも、すごく大事な存在です。

2003年の全日本F3第2戦富士の表彰台。優勝はジェームス・コートニー、2位は片岡龍也、3位はロニー・クインタレッリ
2003年の全日本F3第2戦富士の表彰台。優勝はジェームス・コートニー、2位は片岡龍也、3位はロニー・クインタレッリ
2022スーパーGT第1戦でのロニー・クインタレッリ
2022スーパーGT第1戦でのロニー・クインタレッリ

■ロニーさんに聞く現代のカート用タイヤの世界

──そんな加藤さんにも悩みがあって、ロニーさんよく一緒にカート乗りにいくでしょ? 加藤さんはカートのハイグリップタイヤの使い方が分からないと悩んでいるらしい。
ロニーさん:(ハイグリップタイヤの)使い方に慣れない? そうなんだ。

──最近のカートのハイグリップタイヤはそんなにすごいタイヤなの?
ロニーさん:いやいや、加藤さんが履いてるのは大したものじゃないですね(笑)。カートのすごいタイヤは全日本選手権用のスペシャルタイヤで、GT500レベルで各タイヤメーカーがすべての技術を投入しているとんでないタイヤね。今のハイグリップタイヤは、加藤さんにとってはひさびさのカートで、まだあまりカートに乗っていないからすごくグリップしているように思うけど、じつは全然大したモノじゃないね。ボクも仕事として全日本選手権のタイヤ開発をしているけど、それは全然違くて、タイムも2秒くらい違う。

──そんなに!?
ロニーさん:最近のハイグリップタイヤはレギュレーションが変わって200km保たないといけないので、かなりコンパウンドが硬いです。レースの週末はそこまで走らなくてもいいけれど、今のハイグリップタイヤでのレースはヨーロッパとか海外はそうだけど、ワンメイクでコンペティションがない。あるのは日本だけで、カートの全日本選手権ではGT500と同じくヨコハマ、ダンロップ、ブリヂストンが競争をしています。そこではとんでもなくすごいタイヤ開発をしています。でも、ハイグリップタイヤは基本的に市販するタイヤなので、全日本選手権のいちばん上のクラス以外は全世界ハイグリップタイヤで争われます。

 ヨーロッパではどんなタイヤが使われているかというと、適当に作るのではなくFIA-CIK(国際カート委員会)の公認が必要になります。3年に一度タイヤ公認時期がありますが、その公認を取るために日本からはヨコハマ、ダンロップ、ブリヂストンがヨーロッパに行き、あとはイタリアにも2〜3のタイヤメーカーがあって、同時に複数のドライバーでテストを行います。

 昔はハイグリップの市販タイヤでもソフト、ミディアム、ハードというコンパウンドがあったけど、今のいちばんの基準はタイヤが200km保つかどうかなので、正直今のハイグリップタイヤは全然グリップしてないね。

 だから、加藤さんはもうちょっとたくさんカートで走りましょう(笑)。やっぱりカートは四輪と同じように使う筋肉もあるし、カートだけで使う筋肉もあります。あとはサスペンションがないから肋骨にすごくキツい。カートはシートベルトがないから8割は肋骨で抑える。あとはもちろん首もそうですし、腕にも振動があるから、まずは走って体を慣らすしかないですね。

2017年にCIK-FIAワールドチャンピオンシップ・KZファイナルに参戦したロニー・クインタレッリ

■乗る回数と時間を増やしましょう

──カートも今はすごい世界だよねぇ……。
ロニーさん:昔のカートもそうだけど、今の子どもたちは5〜6歳でみんなカートを始めていて、毎週お父さんと走りに来ますね。全日本選手権でいちばん上のドライバーも13〜14歳で長い経験があるから、レースの組み立て方やセッティングなど、もうプロですよ。全日本で速い子たちは2年目くらいからタイヤメーカーと契約してタイヤの開発を行ったりしています。そういった意味では、5歳からスポーツジムに行って鍛えるほどではないけれど、毎週のようにカートで走り込むとカートに必要な筋肉がどんどんと鍛えられます。

 今はすべてにプロフェッショナルさが求められるので、ヨーロッパの世界選手権に参戦する15〜16歳のドライバーは四輪と同じようにメンタルトレーナーと契約しているし、13〜14歳で育成ドライバーになって、予算があればその年齢ですでにトレーナーと契約しています。そこでフィジカル面も鍛えつつ、例えばタイヤのゴムの質感など、その年齢ですでに四輪に乗る前の準備をしているから、加藤さんも2カ月に1回ではなく、もう少し走りましょうと(笑)。カートはとにかく体がついていかないと辛いです。

 もちろんグリップしないタイヤで練習したりもするので、そのタイヤで走ると体に掛かる負担も少ないから、加藤さんはそこからハイグリップタイヤにステップアップすればいいと思います。ハイグリップタイヤは慣れていない人にとってそれなりの負荷が掛かるので、グリップしないタイヤで首や手首、腕などの筋肉痛を出して体を慣れさせ、まずは周回を重ねましょう。ドライビングのことは……ボクから加藤さんには何も言えないです(苦笑)。

 基本的にGTマシンよりカートの方が軽いので振り回しやすい部分もありますが、基本的に加藤さんには四輪を再現してもらいたいので、ミッションカートに乗ってほしいですね。ミッションカートはシフトも付いていて、ブレーキもフロントとリヤにあるので、本当に四輪と同じように縦で突っ込んでシフトダウンします。でもミッションが付いていないカートと比べると15〜20kg重く、ハンドルも重いからフィジカルもかなり辛くなるけれど、ほぼ四輪マシンと同じだから加藤さんならすぐに慣れるはずです(笑)。

──これで加藤さんのお悩みは解決だね。
ロニーさん:加藤さんはF3のころにマカオGPに参戦したりしていて、ボクが日本に来た当時フォーミュラ・ニッポンやGT500にも乗っていました。その当時のINGINGでも、テストドライバーとしてセッティングに対する能力をすごく持っていました。特に当時のF3はオリジナルサスペンションを作れたり、ダンパーもなんでも良くて、当時はチームのエンジニアリングにしっかりした人がいて、あとは予算があればなんでもできるくらいキリがなかった。

 加藤さんはすごく経験があってコメントもしっかりと分かっていました。ボクも『こういったテストドライバーがいる』ということはチームから聞いていましたし、当時のオーディションで2日間一緒にやらせてもらい、コメントもていねいで分かりやすかったです。方向性も『これは良い』『これはダメ』ということをはっきりと言ってもらいましたね。

 だからドライビング面で加藤さんに言うことは何もなくて、フィジカル面のことだけです。カートに乗るのも1カ月に1回からまずは2回、あとは午後に『疲れたから早く帰ろう』ではなく、ちゃんとセッションの最後まで踏ん張って下さいと言いたいですね(笑)。

MOTUL AUTECH Z
MOTUL AUTECH Z

■シェフなみの料理術を教えてください

──じゃあお悩み解決ということで。そんなこんなでですね、ロニーさんの次の人に繋げたいんだけど、ロニーさん最近悩みとかありますか?
ロニーさん:次に繋げるのをジュリアーノ(アレジ)にするか、谷口(信輝)さんにするかで悩んでるんですよね。

──ちなみに谷口さんは最近登場しちゃったのよ。
ロニーさん:もう出ちゃいましたか。じゃあジュリアーノにしよう。谷口さんだったらゴルフかドリフトを相談しようかと思っていたけどな。

 ジュリアーノはイタリアが大好きだからイタリア語もペラペラだし、今は御殿場で一人暮らしをしていて、シェフレベルの料理を作っていて写真を送ってくれます。パスタとか写真を見るだけでレベルが高いことが分かります。でも、まだ彼のところには行ったことがなくて。『来てください』とか『料理教えますよ』と言ってくれるんだけど、まずはアマトリチャーナパスタの美味しい作り方を教えて欲しいな。ぜんぜんレースと関係ないけど大丈夫かな(笑)。

──まったく問題ないよ。ちなみに、アマトリチャーナパスタって聞いたことはあるけど、具体的にはどんなパスタ?
ロニーさん:アマトリチャーナは、2016年にイタリアで大きな地震があったとき、その地震がちょうどアマトリーチェ地方に発生して、日本のニュースでもアマトリーチェが震源地として報道されましたが覚えていますか? スーパーGTでもボクとアンドレア・カルダレッリが支援の呼びかけをしたとき。

2016年スーパーGT第6戦鈴鹿 『PRAY FOR ITALY』のプレートを掲げるロニー・クインタレッリとアンドレア・カルダレッリ

──覚えてる覚えてる。
ロニーさん:アマトリチャーナはその地域のソースを使用したパスタです。僕は食べたことないけど、ジュリアーノがこの前アマトリチャーナパスタの写真を送ってきました。

(※ロニーさんのスマホでジュリアーノから来た料理の写真をチェック)

 これはアマトリチャーナパスタではないけど、自分で作っているのはスゴい。

──御殿場で材料が揃うのか心配ではある(笑)。
ロニーさん:普通にショッピングしているみたいですよ。

──ジュリアーノこそ、材料が揃うもう少し都心近くに住むべきじゃない?
ロニーさん:ジュリアーノが日本に来るときに相談されたんだけど、トムスは御殿場だし、僕も日本の最初のころはインギングの近くの山口県に住んでいました。なので、日本ではじめから結果を出すのではなく、チャンスを活かしてほしいなと。あとジュリアーノは落ち着かないから東京都内があまり好きじゃないみたいですね(笑)。

 それを相談されて、御殿場でも問題ないし、まず最初の1〜2年は御殿場に住んで日本チームの文化を学んだり、コミュニケーションを取ったりした方が良いとアドバイスをしました。まわりのみんなも同じことを言っているみたい。ジュリアーノにはまだ料理をする時間もできますからね。

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 というわけで、次回はau TOM’S GR Supraのジュリアーノ・アレジ選手に繋がりました。取材のために、筆者も近所でアマトリチャーナパスタを食べてから取材に行きました。

 そして明かされる(?)ジュリアーノ選手の料理の腕前の理由とは(ちょっと大げさ)。次回乞うご期待!

筆者がいただいたアマトリチャーナパスタ。普通のトマトソースとはちょっと違う感じでした。
筆者が横浜市内のイタリアンでいただいたアマトリチャーナパスタ。普通のトマトソースとはちょっと違う感じでした。