昨年の覇者レッドブルが予想外の苦戦を強いられている。速いが脆いというのが、今年のレッドブルRB18の印象だ。もちろん絶対的なパフォーマンスは宿敵メルセデスに勝ってはいるものの、今シーズンを快調に発進したフェラーリには、この3戦では明らかに突き放されてしまった。開幕戦では最速マシンと思われたRB18に一体なにが起こっているのか。元F1メカニックの津川哲夫氏に解説してもらった。
文/津川哲夫、写真/Ferrari,Mercedes,Redbull,McLaren,Haas,Williams
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昨年のメルセデスとの激闘が原因で、新車開発に遅れが出たのか?
これまでの開幕3戦、レッドブル軍団は多くのトラブルに見舞われ、完走率は極めて低い。各種のトラブル続きで、マシンの信頼性が確立できず、取れるはずのポイントを捨ててきた。燃料システム、タンクシステム、電子制御、油圧系等々、際限ないトラブルがRB18を襲っている。
これらの問題の根には、昨年チャンピオンシップを最終戦まで争い続け、最後の最後まで勝つための開発を続けてきたことで、今シーズンの新車開発へリソースを向ける事が遅れたのも大きな原因のひとつといわれている。これはライバルメルセデスにもいえることで、昨年死力を尽くして争った2チームが今シーズンでは一転して出遅れてしまったことを見ると、隠せない事実なのだろう。
多くのリタイアの原因として、燃料系の問題はポーポシングでの振動から、とレッドブルはいうが、もちろんそれだけではなく油圧系や制御のありとあらゆる部分の見直しが必須事項だ。これらが解決されればレッドブルのこと、次のステップに大きく進んで行くことだろう。
実は信頼性以外にも、レッドブルRB18は問題を抱えている
困ったことに、RB18の問題は信頼性だけではない。次の問題として既に現れているのがマシンバランスだ。マシンバランスを見つけ出す事が出来ず、フェラーリのスピードについて行けない、というレースが続いてしまった。高速・中速コーナーではフェラーリのほうにアドバンテージが大きく、これに勝るにはトップスピードで前に出たい、そのためにドラッグを減らしたい、つまりダウンフォースを削ることで何とかスピードを維持するのだが、その削ったダウンフォース分、今度は中速・高速コーナーでグリップが足らず、フェラーリに追いつけない。そればかりかグリップ不足はタイヤに無理を強いることになり、タイヤマネージメントでもフェラーリに劣ってしまう。
加えて素早い回頭性を欲し、シャープな姿勢変化でのドライブを信条とするフェルスタッペンは、現状のセッティングではなかなか思うようには走れていない。むしろペレスのスムース・ドライビングに向いてしまうのだ。
レッドブルRB18は全チームのマシンの中で一番重いのはなぜか?
さらにレッドブルはオーバーウエイト、つまり車体重量が重いことが指摘されている。ライバルたちよりも10kg以上も重い、なんて話も聞こえてくる。これが本当ならば、規則上可能な7kg程度のバラスト(前後の重量配分を変化させられる重し)も搭載出来ない事になってしまう。これは重配(重量配分のこと)をセッティングに活かせないということになるのだ。したがって軽量化は急務なのである。7kgの重配変化は加減速時の挙動に大きく影響するので、フェルスタッペンのドライブスタイルには欠かせないセッティングツールなのだ。
軽量化への問題はおそらくサスペンションの構成が影響していそうだ。フロントをプルロッド化し、サスペンション構成パーツ(ロッカーやその他の内部構成パーツ)をモノコックの先端下部にまとめて搭載しているのだが、モノコック自体は昨年同様ハイライズモノコック。したがって全構成パーツはモノコック下端に集中しており、サスペンション剛性とモノコックの剛性を確保するには大幅に強化したトップバルクヘッドとセカンドバルクヘッドが要求され、そのためにバルクヘッド部は相当に重量が増したはずなのだ。
レッドブル首脳が頭を抱えているのは、そのモノコックの軽量化自体が極めて難しく時間の掛かる仕事であることだ。バルクヘッドの改造はモノコックを再びクラッシュテストに掛けなければならず、簡単な作業ではない。さらにサスペンションジオメトリーもダイブとスクォートの動きが理想通りでない。この見直しが必要ならばモノコックからの改修が必要だ。
ホンダパワー頼りの速さを取り戻す事はできない
今シーズンフェラーリが快調な出だしを見せているのは、一昨年、そして昨年を捨てて、開発のほぼ全てを今シーズンのマシン開発にあてたこと、そしてハスをも巻き込んで、総力戦での開発が功を奏したといえるはずだ。事実、開幕前テストからフェラーリF1-75はほぼでき上がっており、開幕戦から実にスムースにトップコンテンダーの位置を確保してしまったのだ。
もちろんフェラーリは車体だけではなくPUも全力で開発を行い、今シーズン用のPUは30馬力近いパワーアップがあったはず、とは他メーカーのアナリスト達の言葉だ。
しかしレッドブルのPUは昨年のホンダ、現在ではレッドブル・パワートレーンズの名前でこのPUを扱っている。もちろん現実には未だHRCの名のもとにホンダ・サクラでのトラブルシュート・メンテナンス、あるいは制限内での開発などが行われているのだが、昨年までのワークス体制は解除され、現実にはその規模は間違いなく縮小されているはずだ。
現行でもまだHRC管轄としてホンダ体制は生きていて、現場スタッフもある程度係わっているはずだが、こうした規模縮小はレッドブルにとっては厳しい。しかも既にシーズンはスタートしてしまい、PUは全チームともホモロゲーション下に置かれ、もはやパフォーマンス開発は殆ど出来ないのが現実となってしまった。つまりフェラーリからのパフォーマンの遅れはPU単体ではもはや取り戻す事は出来なくなってしまったのだ。
2021年のチャンピオン争いは、競い合った2チームに今シーズン大きな試練を与えたようである。
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津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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投稿 F1 開幕3戦で見えたレッドブルRB18の問題点。このマシンになにが起こっているのかを検証した は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。