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 2022年のERCヨーロッパ・ラリー選手権第3戦として、スペイン領カナリア諸島を中心に繰り広げられるターマック戦、ラリー・イソラス・カナリアスが5月13~14日に開催され、開幕戦を制した29歳のニル・ソランス(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)が今季2勝目を獲得。資金難で第2戦をスキップした苦労人は、これで今季参戦ラリー勝率“100%”を維持した。

 その一方、初日からラリーを支配した地元スペシャリストのルイス・モンゾン(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)は勝利目前のパンクに沈み、ヨアン・ボナート(シトロエンC3ラリー2)との熾烈なバトルを制したチームMRFタイヤ、前戦ウイナーのエフレン・ヤレーナ(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)が逆転同タイムの2位に滑り込み、新たな選手権リーダーの座についている。

 イベント開催都市であるラス・パルマス出身のモンゾンは、木曜プラクティスから“地の利”を存分に発揮し、予選ステージでライバルを0.5秒以上突き放す最速タイムを奪取。夜のスーパーSS(SSS)に向けたスタートオーダー選択で、まずは主導権を握る展開となった。

「このステージ沿いには自宅とバイクコースを所有していて、ルートの隅々まで熟知していた。楽しい時間を過ごすことができたし、私にとっては良いことだね」と笑顔を浮かべた56歳のスペシャリスト。「ただし、本当のラリーは明日からだ。すべてのドライバーは非常に速く、例えば5秒を失った場合、時間を取り戻すのはとても難しい。頭痛の種だよ(笑)」

 その晩、サービスパーク至近のエスタディオ・グランカナリア周辺で開催されたSSSは、前戦でERC初表彰台を獲得して勢いに乗る“ターマック・タレント”サイモン・ワグナー(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)がトップタイム。オーストリア出身ドライバーが早い段階でのアドバンテージを得るも「最善を尽くすし、プレッシャーはない。明日以降はトップ5が目標」と控えめな言葉を残した。

 しかし、そのコメントが引き金となったか、明けた金曜SS3まで宵越しのラリーリーダーを維持したワグナーだったが、ここでステージ中盤の岩壁にヒットし早々のリタイアに。同ステージはのちにキャンセルの判断が下される。

 代わってラリーリーダーの座についたのがベテランのモンゾンで、灼熱の路面温度に対しタイヤを労るドライビングも披露し、後続に8.4秒のマージンを築いて初日パルクフェルメに帰還した。

「プレッシャーを感じるが、ホームステージに集結したファンと一緒に楽しんでいて、それが助けになる。ドライブにはとても満足しているし、明日もこの調子がもっと続くことを願っている」

地元スペシャリストのルイス・モンゾン(シュコダ・ファビアRally2 EVO)が予選ステージから初日を支配
木曜夜のSSSで最速を記録したサイモン・ワグナー(シュコダ・ファビアRally2 EVO)だったが……
前戦ウイナーのエフレン・ヤレーナ(シュコダ・ファビアRally2 EVO)も終始、好位置につける

■タイヤのパンクで首位モンゾンがリタイアに

 そのモンゾンとは対照的に、2番手につけながら苦しい1日を過ごしたのがソランスで、ひさびさの実戦と今季初のターマックで充分なセットアップ機会を持たぬまま過ごした午前は、フロントタイヤのオーバーヒートに悩まされ15.1秒のビハインドを背負う。しかし、午後のステージに向け「根本的な変更」が施されたポロGTI R5はスピードを取り戻し、ボナートのシトロエンやMRFのヤレーナも捉えて2番手で初日の本格ステージ群を終えた。

 迎えた最終土曜もオープニングステージとなったSS8で首位モンゾンが3秒のマージンを稼ぐが、続くステージで彼のファビアが装着するタイヤに釘が刺さっていることが発覚。まさかの事態が発生するも、ステージ間で交換作業に割く時間は取れず、スタート後4.3km地点で限界を迎えたタイヤは敢えなくパンク。モンゾンはそのままリタイアを強いられることに。

 これでラリーリーダーを引き継いだソランスは、2番手ボナートに対し10.4秒差で午後の最終ループに挑むと、リスクを避けたクルージング……ではなく「地獄のプッシュ」で最後のタイムコントロールに到達。結果的に11.2秒差にギャップを拡大して今季2勝目を手にした。

「ここで勝てるなんて本当に素晴らしいことだ! すべてのファンやスポンサー、そしてチームにも感謝しなければならないね。この勝利は絶対的に彼らのものであり、彼らなしではこれを達成することは出来なかった」と、勝利の喜びと同時に周囲への謝意を述べたソランス。

「イベント前のテストを行う時間もお金もなかったし、僕らはラリーの間、物事を変えて改善し続けてきた。もちろん、それでも100%ではなかったし、本当に長いコーナーがたくさんあって、そこでスピードを維持するのが難しかった。おそらくそれはディファレンシャルやダンパーなどが要因だったと思う」と振り返ったソランス。

「この勝利は、チャンピオンシップのために戦っているときに、予算をまとめるのに役立つ良いガイドのようなもので、大いに後押しになると思う。次戦のポーランドでも競争したいし、そのためのサポートを見つけることができるかどうか。今後も努力を続けていくよ」

 そのウイナーの背後では、最終パワーステージでボナートを捕らえたMRFのヤレーナが11.2秒差の同タイムでフィニッシュ。初日ステージウインを獲得していたことからヤレーナが大逆転の2位に入り、これにより新たなチャンピオンシップリーダーに浮上。

 4位にはフォード・フィエスタ・ラリー2をドライブした地元民のエンリケ・クルスが続き、初日にアームコバリアへのヒットで9番手まで後退していたチームMRFタイヤのシモーネ・カンペデッリ(シュコダ・ファビア・ラリー2エボ)が、5位までカムバックを果たしている。

 続くERC第4戦はソランスの言葉どおり、6月10~12日の会期でラリー・ポーランドが予定され、同国北部ミコワイキを中心としたグラベルステージが待ち受ける。

最後の最後で3位となったヨアン・ボナート(シトロエン・C3 Rally2)だが「正直、このターマックステージは世界最高の部類だと思う」
「ルイス(・モンゾン)にとっては非常に残念だったが、これも運。最後までリラックスできず、プッシュした」と勝者ニル・ソランス(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)
資金難で第2戦をスキップした29歳の苦労人は、これで今季参戦ラリー勝率”100%”を維持した