バルセロナで大幅アップデートをしてくるフェラーリ。レッドブルのストレートスピードは異常だが、そこを押さえ込まないと勝機はないはず。さてフェラーリがどんなアップデートをしてくるのか、元F1メカニックの津川哲夫氏に聞いてみた。
文/津川哲夫
写真/Ferrari,Mercedes,Redbull,McLaren
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真の欧州ラウンドの開幕となるスペイングランプリ、バルセロナがその会場だ
カタロニア・サーキットは全グランプリサーキットの中で全F1チームに最も馴染み深いサーキットだ。
開幕前のテストは必ずここから始まる。特に老舗チームは過去に何万マイルものテスト走行をこのサーキットで行ってきた。したがって多少の変更があったとしても、このサーキットの基本特性は熟知しているのだ。
しかし今シーズンは若干状況が違う。もちろんサーキットシュミレーションは緻密に行われているはずだが、このスペイングランプリに至るまでの5戦で、各自のマシンの基礎能力を完全把握しているチームは、ほとんど無いといっても過言では無い状況だからだ。
もちろん理解度に大小の違いはあるが、今シーズンほどの手探り状態は近年稀なる事態だ。理由はもちろん今シーズンからのレギュレーションが大幅に変更され、これまでのF1とは全く違う、全く新しいマシンとして出発したからだ。
F1-75は僅かなモディファイだけで5戦を消化してきた
フェラーリはタイヤマネージメントの差でレッドブルに勝利を奪われている。ライバル・レッドブルと戦うために、何とか弱点を埋めるためのマシンセッティングが逆にあだとなり、タイヤに無理を強いてしまった。
カタロニアはタイヤに厳しいサーキットで有名だ。しかし過去5戦ではまだ今シーズンの18インチ新タイヤへのデータは不足していて、同じコンパウンドでも温度、天候、路面……等々で大きく変り、まだ各コンパウンドのベース・キャラクタリスティク、つまり基本性能の把握は完全とはほど遠い状況だ。
しかしフェラーリはカタロニアに大幅なアップデートを持ち込むと言う。過去5戦でイニシャル・パフォーマンスの高さを確認し、F1-75の基礎データを集積、その間、僅かなモディファイ(いわゆるサーキット毎のセッティング程度)だけで5戦を消化してきた。これは確実なデータ収集と綿密な解析が開幕5戦のエイム(目標)だったからではないだろうか。
この間ライバル・レッドブルは信頼性の確保に苦しみ、結果的にスペイングランプリはフェラーリにチャンピオンシップのリードを許したまま迎える事になった。しかし、これまで毎戦何かしらのアップデートを繰り返してきた。特に過去2戦の大幅なアップデートで、ついにフェラーリの上手を取り始めた。
フェラーリは真っ先にE10燃料のアップデートを行った
第5戦まで常にコンペティティブに戦い続けてきたF1-75の車体、これに大幅で緻密な開発がなされたアップデートが投入されれば、大きな進展があるはずだ。
フェラーリはこれまでトップスピードでレッドブルの後塵を拝してきた。フェラーリは、現在の22年型PUはホンダとメルセデスにまだ追いついてはいないが彼らと戦う戦闘力は充分にあると言う。今回のアップデートにはそのPUに関したものも含まれていて、大きくパフォーマンスを向上させていると言う。
現実にはPUのフィジカルなモディファイは禁止されているので、今回は今シーズンから採用されているE10(エタノール10%混入)燃料の開発だと言う。FIAへの登録燃料は規則内での変更は可能で、これを再登録すれば良い。E10燃料への対処は全PUサプライヤーにとっての難問で、その対処への開発はまだ始まったばかりだ。フェラーリは真っ先にこの燃料アップデートを行ったわけだ。
なんと燃料の開発で数十馬力(20〜30馬力と言われている)の向上があるそうだ。これだけあればレッドブルホンダパワーに対抗できるし、またパフォーマンスの向上分を、トップスピードよりもダウンフォースに向ければ、より安定した走行性能にも貢献できる。どちらもカタロニア・サーキットには重要な要素となる。特にタイヤに優しい走りができれば……だ。
またF1-75のアップデートは、ウィング類にもほどこされ、新たなリアウィングやフラップなどが投入されそうだ。アッパーボディワークエアロの効率の向上とポーポシングに対処したアンダーフロアエアロの安定化などが今回のメイン・エイムとなる。
これらのアップデートが功を奏すれば、スペインでのフェラーリは再びその威力を増してくることだろう。もちろんレッドブルは信頼性をさらに向上させてくるはずだ。またイモラに前倒しで投入してきたプログラム・アップデートもカタロニアでさらなる開発パーツがあるはずで、トップエンドバトルはいよいよ本格的な戦闘状態に入る事になりそうだ。
さてメルセデスはどうか? 真のパフォーマンスを見せられるか
残念ながらこの戦いの中にいるべきメルセデスはここまでブルーな日々を送ってきている。未だに解決の目処がつかず、カタロニアにはもちろんアップデートが投入されるはずだが、過去5戦の遅れを何処まで取り返せるかには大きな疑問符がつく。願わくばポーポシング問題を解決しラッセルの言うようにW13の持つ真のパフォーマンスを見せてもらいたいものだ。
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津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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