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 2018年11月にマイナーチェンジが行われた三菱 デリカD:5は、ギラギラしたド派手なフロントマスクが話題となった。それから3年余り。2021年の月間登録台数は平均1233台と、現在も安定した数字を残している。発売から15年を経過したにもかかわらず国産唯一のディーゼルミニバンとして生き残っているデリカD:5。自動車ジャーナリスト、渡辺陽一郎氏がその真の魅力について解説する。

文/渡辺陽一郎、写真/MITSUBISHI、TOYOTA

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■ノア/ヴォクシーの対極に位置する三菱 デリカD:5

2022年1月、フルモデルチェンジによって大幅な刷新を行ったトヨタ ヴォクシー&ノア。その対極に位置しているのが、発売から15年を経過しながらいまだ現役の三菱 デリカD:5だ

 少子高齢化の影響もあり、「これからは3列シートミニバンが危うい」という見方もあるが、売れゆきは意外に下がっていない。今でも国内で売られる小型/普通乗用車の30%前後を占めている。

 そこでヴォクシー&ノアは2022年1月に、エンジン、ハイブリッドシステム、プラットフォーム、安全装備、運転支援機能などを大幅に刷新するフルモデルチェンジを行った。

 開発者は「先代ヴォクシー&ノアはプラットフォームの設計が古く、新しいエンジンの搭載なども含めて、進化させるのが困難だった。そこですべてを作り直した」という。

 機能の大半を刷新したから大幅に進化したが、開発費用も膨大に使った。

 失敗は許されず、最新の安全/快適装備を採用して、従来型のユーザーが「これなら乗り替えたい!」と思えるクルマに仕上げた。

 そしてノアのフロントマスクはミニバンの典型的なデザインで、ヴォクシーは先進的に仕上げ、後者は従来のミニバンに満足できなかった新しいユーザーの獲得を狙う。

 このすべてを刷新させたヴォクシー&ノアの対極に位置するミニバンがデリカD:5だ。

 現行型は2007年1月の登場だから、すでに15年を経過するが、今でも現役だ。2021年には1カ月平均で1233台を登録した。CX-8やC-HRに近い売れゆきだ。

■販売台数で三菱を支えるデリカD:5

 この販売実績は、一般的には好調とはいえないが、今の国内で展開される三菱の店舗数は約550カ所と少ない。トヨタの4600カ所に比べると12%、ホンダの2200カ所と比べても25%に留まる。

 そのためにデリカD:5の1店舗当たりの取り扱い台数は、1カ月に2.2台だ。トヨタの販売店が2.2台を売れば1万台を超える。

 しかもデリカD:5の売れ筋価格帯は、420万~450万円と高い。

 2021年に国内で新車として売られた三菱車の56%が軽自動車だったから、1カ月に1233台が販売される価格の高いデリカD:5は、大切な稼ぎ頭だ。

 三菱の直近ではアウトランダーが新型になって好調に販売されているが、2022年2月の登録台数はアウトランダーが1350台、デリカD:5は1684台であった。

 デリカD:5は発売から15年を経過しながら、新型アウトランダーに負けない根強い需要に支えられている。

■ほかのミニバンにはない特徴を多数もったデリカD:5

派手なフロントマスクに高い最低地上高、4WDシステムを備えミニバンでは悪路走破性が最も高いデリカD:5。エンジンは2.2Lクリーンディーゼルターボで3.5Lガソリンエンジン並みのトルクを発生する

 デリカD:5の人気について販売店に尋ねると、以下のように返答された。

「デリカD:5には、悪路走破力や野性的な外観など、独特の魅力がある。また、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)に余裕があるから、駐車場から出る時の段差を気にする必要もない。

着座位置と目線が高いから、遠方の様子もわかりやすく、運転しやすい。そして高値で売却できるから、デリカD:5を何台も乗り継ぐお客様が増えた」。

 販売店のコメントにあるとおり、デリカD:5には、ほかのミニバンとは異なる複数の特徴がある。

 まずは独特の外観だ。ダイナミックシールドのフロントマスクを含めて、SUVの野性的な雰囲気を濃厚に感じさせる。

 最低地上高にも185mmの余裕があり、ロックモードを備えた4WDシステムと相まって、ミニバンでは悪路走破力が最も優れている。

 エンジンは直列4気筒2.2Lクリーンディーゼルターボを搭載する。ミニバンではハイブリッドが多く、ディーゼルを搭載するのはデリカD:5とグランエースだけだ。しかもデリカD:5の車両重量は、耐久性の優れたシャシーや4WDの採用で1900kgを超える。

 この重いボディには、3.5Lガソリンエンジン並みの駆動力を低回転域で発生させるディーゼルが適する。最大トルクは38.7kgm(2000回転)だから、2000~3000回転を維持しながら、力強く加速していく。

 そしてディーゼルだからWLTCモード燃費が12.6km/Lと優れ、軽油価格はレギュラーガソリンに比べて1L当たり約20円安い。そのために燃料代は、2Lガソリンエンジンを搭載するヴォクシー&ノアの4WDと同等だ。

 また、クリーンディーゼルは、購入時に徴収される環境性能割と自動車重量税も非課税になる。このため、購入時の予算も抑えられる。

■ライバル車よりも広い室内空間を確保

 実用面では居住性も優れている。デリカD:5の3列目シートは、全長が4800mm以下のミニバンでは最も快適だ。

 身長170cmの大人6名が乗車した時、2列目の膝先空間を握りコブシふたつ分に調節すると、3列目に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つ分に拡大する。

 新型ステップワゴンAIRの全長はデリカD:5と同じ4800mmだが、同様の測り方をすると、3列目の膝先空間は握りコブシふたつ分に留まる。

 つまりデリカD:5の3列目は、ステップワゴンに比べて握りコブシがひとつ分多い。

 全長が4695mmのヴォクシー&ノアは、3列目に座る乗員の膝先空間が握りコブシひとつ半と少ない。

 従って全長が4800mmで、3列目の膝先に握りコブシが3つ収まるデリカD:5は、足元空間が圧倒的に広い。

 しかも、ヴォクシー&ノアやステップワゴンの3列目は座面の奥ゆき寸法が短いが、デリカD:5はこの2車種に比べて約40mm長い。

 座り心地も優れ、大人が多人数で長距離を移動する用途にも対応できる。

 加えてデリカD:5では、サスペンションが柔軟に伸縮するから、乗り心地もSUV風で快適だ。

 ディーゼルエンジンの特性と相まって、ゆったりした運転感覚を味わえる。

■ミニバンに近い実用性、中古車需要に裏打ちされた残価の高さも人気を後押し

デリカD:5のSUVに近い世界観は三菱のブランドイメージにも合致。ボディサイズのわりに車内も広く、ミニバンとしての実用性も高い。売却時の残価も魅力だ

 以上のようにデリカD:5は、ディーゼルエンジンを搭載して悪路走破力も高いから、ミニバンながらSUVに近い世界観を備える。

 それは三菱のブランドイメージにも合致する。ボディサイズのわりに車内が広く、ミニバンの実用性も高いから人気車になった。

 販売店のコメントにあったとおり、購入の数年後に高値で売却できることもデリカD:5の特徴だ。

 売れ筋価格帯が420万~450万円の高価格車で、独自の個性も備えるため、中古車を希望するユーザーも多い。

 その結果、中古車需要がデリカD:5の中古車流通台数を上回り、売却額も連動して高くなった。

 そのために残価設計ローンの残価(残存価値)も高い。3年後なら新車価格の55%に達する。一般的な3年後の残価は42~48%だから、デリカD:5では売却時の金額も高まる可能性が高い。

 有利な条件で売却できるから、デリカD:5を何台も乗り継ぐユーザーがいるわけだ。

 高い残価率は、残価設定ローンを利用する時も有利になり、車両価格のわりに月々の返済額を抑えられる。この資産価値の高さも、デリカD:5の販売が好調な理由だ。

■三菱にしか作れない個性的かつ魅力的なミニバン

 冒頭で触れたヴォクシー&ノアは、ハイブリッドなどのメカニズムを刷新すると同時に、スマートフォンを使って車外から車庫入れを遠隔操作できる機能などの先進装備を満載した。

 この背景には、ミニバンのデザインや機能がどの車種も似ていて違いがわかりにくく、先進性で差を付ける狙いもある。

 ところが、デリカD:5はヴォクシー&ノア、ステップワゴン、セレナなどに比べると、車両の本質となるデザインや機能を個性的かつ魅力的に仕上げた。

 ほかのメーカーには真似のできないミニバンだから、発売から15年を経過しながら、今でも人気が衰えないというワケだ。

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