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【編集部より】河野太郎衆院議員(前沖縄担当大臣)と、本サイト沖縄連載の篠原章さん(批評ドットコム主宰)の対談。前編では、半世紀に渡る沖縄振興の政策アプローチの見直すべき方向性について議論しましたが、後編では、これからの沖縄のポテンシャルについて論じます。(収録は3月中旬、司会は新田哲史編集長)

河野太郎前沖縄担当大臣と篠原章さん(※撮影時のみマスクを外しました=撮影:武藤裕也)

沖縄のIT、可能性と課題

――後半はこれからの沖縄を議論したいと思います。沖縄のポテンシャルという部分で、河野さんが目を付けているところはありますか。

河野太郎(こうのたろう)1963年生、米ジョージタウン大学卒業後、富士ゼロックスなどで勤務。1996年衆院選に初当選(9期)。2015年に初入閣。以後、外相、防衛相などの要職を歴任。菅政権でワクチン相とともに沖縄担当相を務めた。著書に「日本を前に進める」(PHP新書)など。

【河野】コロナでテレワークが、ものすごく進んでいます。東京では転入より転出のほうが多くなりました。国が5Gのネットワークをどんどん拡充していこうとしています。沖縄にいて霞が関の仕事もできるし、東京の企業の仕事をすることもできます。

沖縄の環境の中で暮らして仕事が続けられるのだったら、沖縄に移住してみたいという人は増えるでしょう。沖縄は、このテレワークの波をしっかりとつかんでいく必要もありますし、国のほうも規制改革などを通じて、バックアップをしていかねばなりません。

【篠原】直近でどのあたりから手をつけていけそうですか。

【河野】ポストコロナの日本社会でテレワークをさらに広げるためには、まず霞が関がテレワークをやらなきゃ駄目ですよね。掛け声だけではダメで、まず自分たちから率先する。すでにデジタル庁は65%ほどがテレワークですから、沖縄にいてデジ庁の仕事をやるというのは、非常に親和性が高いと思います。ITの分野は距離を飛び越えられますし、沖縄にデジ庁の人が技術者としてたくさん来てくれれば、沖縄の若者にも刺激になりますね。

沖縄で理想のテレワークも課題が…(Shoko Shimabukuro /iStock)

【篠原】沖縄のIT人材の育成は新しい課題に直面しています。本土から沖縄に持ってくる雇用といえば、かつてはコールセンター業務がほとんど。その後ITにシフトしてウェブ作成などを受注するようになりました。

ところが近年、ウェブ作成はもうコモディティになってしまい、時給も1,200円程度。まともなIT技術者なら2800円くらいにしないと集まらない。そもそも沖縄でそれだけの時給をもらう人も、支払う事業者も多くはありません。

篠原章(しのはら・あきら)1956年山梨県生まれの東京育ち。大東文化大学教授・駒澤大学客員教授を経て現職。おもに社会経済(とくに沖縄問題)、音楽などポップカルチャーを題材に執筆活動を展開する。主著に『沖縄の不都合な真実』(新潮新書)など

河野さんが仰るように、リモートワークが非常に盛んになりましたから、東京の仕事を沖縄で受ける高度な技術者がいるに越したことはありません。東京の企業からお金を引っ張ってくるのがベストですが、そこまでの力技ができる人は少ない。現状のままでは沖縄のIT人材も技術水準が向上しません。この辺りの構造をどうするかという課題はあります。

――そうなると、官庁だけではなくて本土の企業にも問題がありますね。一部には「沖縄を安く使い倒す」ような、失礼な姿勢のところもありそう。ウィンウィンになるよう、パートナーとしてリスペクトし、投資も求められるところですね。

【河野】沖縄を中長期で考えると、いまOIST(沖縄科学技術大学院大学)のレベルが非常に高いのは明るい話です。せっかく国のお金を投入してきたので、OISTから沖縄の子どもたちに、自分たちの研究の内容や、科学の世界にはこういう未来が広がっているのだということを分かりやすく伝えることで、科学技術に対する興味を拡げていくことができていくと思います。

【篠原】河野さんのおっしゃることが一番大事です。OISTと子どもたちの教育機関との連携がもっと欲しいですね。あとは沖縄に欲しいのは科学博物館、それもエンターテイメントの要素もある施設。立派な水族館はあるのですが、本格的な科学系の博物館がないのがもったいないと思います。ITで生きるなら、情報科学系の高等教育機関も必要ですね。

コロナ後の沖縄振興はエコで?

――コロナ直前、沖縄の観光客数がハワイを超えたことが話題になりました。コロナ収束後のインバウンド復活にも期待したいところですが、アジアへの玄関口としての沖縄についてはどうでしょうか。

【河野】先ほど英語教育の話で申し上げたように、大人のイデオロギーにとらわれずに、米軍基地のリソースを、子どもたちの未来のためには使ったほうがいいですよね。これからのアジアの成長の可能性を考えると、そこに一番近い沖縄のポテンシャルは非常に大きいはずです。

ただ、その反面、軍事力を拡大する中国と、最先端で向き合わなきゃいけない現実を考えると、やっぱり我が国が直面している安全保障のこと、有事に沖縄をいかに守っていくかということをもっと現実的に、具体的に考えていかなければいけないと思います。

【篠原】僕は沖縄が今後何で食べていけばいいのか、それこそ河野さん肝煎りの脱原発にヒントがあると思っています。僕自身の原発に対する考えは、厳密にコストを計算した上で論じるべきというものですが、沖縄には原発が1基もありません。いっそのこと沖縄まるごと原発と火力抜きのエコに徹したらどうかと思っています。

たとえば、水素発電は初期コストはかかるでしょうけど、沖縄はマーケットが大きくないので、むしろそこに補助金を使うことは悪くありません。普及すればいずれ安くなりますし。沖縄電力も一応「エコをやってます」というけど、実際は石炭をものすごく使っているから相殺されているのが現状です。

風力発電施設が少なくない沖縄県(Misaaah1210/PhotoAC)

【河野】ハワイは再エネの導入を今一生懸命やっています。だから沖縄でもできるし、むしろ離島それぞれで電気の地産地消ができれば、万が一の災害にも強くなります。再生可能エネルギーは太陽光も風力も、今格段にコストが安くなっていますから、競争力という意味では、これから多分強くなってくると思うんです。そういう意味で沖縄こそ再エネをやっていく、島一つずつでやっていくことだってできると思います。

【篠原】エネルギー政策と言ったのは、そういうまさに「エコの島」であることを、観光的にも売り物にしたらどうかと思うからです。あるいはエコな経済モデルを作ってそれを海外に売るようなことも、できるんじゃないかなと勝手に思ってるんですが、それができるのは原発がない沖縄だけですからね。

【河野】沖縄はカーボンニュートラルのモデルになれるはずです。沖縄で、どんどんいろんな技術を試してほしいと思います。

――ITとエコ。まさに沖縄がDXとGX(グリーントランスフォーメーション)のモデルになる可能性を感じさせる面白い話が最後に出てきました。お話は尽きませんが、本日はお二人ともありがとうございました。(終わり)

右から篠原章氏、河野太郎氏、司会の新田編集長(撮影;武藤裕也)