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厚生労働省は11日、「解雇無効時の金銭救済制度」の検討会を開催。働く人が解雇され、裁判所に無効であると認められた場合に企業が金銭を支払うことで解決する制度について、申し立てをできるのは「労働者に限定する」などとする報告書を取りまとめた。

SakuraIkkyo/iStock

労組反発「不当解雇を免罪、導入へ毒饅頭」

企業が従業員を解雇することには、厳しい規制が設けられており、使用者(会社)が労働者を解雇するには必要な要件を満たす必要がある。しかし、裁判で解雇が無効と判断されても、労働者が望む職場復帰ができないというケースも少なくないという。厚生労働省は解雇された労働者の選択肢を増やす目的で、金銭による解決策のあり方を議論していた。

この日に取りまとめられた報告書をもとに今後、労使の代表などでつくる審議会でさらなる協議が行われるという。

しかし、このニュースがNHKで報じられると、ツイッターでは案の定、労組から反発する声が目立った。

全大阪労働組合総連合(大阪労連)の公式ツイッターアカウントは「絶対反対」とツイート。

この制度に反対です。労働者の申立に限定でも、実際には企業が「辞めさせたい労働者」を解雇して無効となっても、「いくら払えば辞めさせられる」計算が出来、退職強要・勧奨は止まりません。絶対反対‼️

広島県医療労働組合連合会(広島県医労連)も同様の見解だった。

許してはいけない。本質は変わらず「解雇自由化」。特に不当解雇を免罪し、雇用を一層不安定化させる効果。「申請は労働者のみ」も導入しやすくするための毒饅頭でしょう。

日本で労働市場改革が進まない理由

解雇の金銭解決ルールは、欧米で普及しているが、日本ではこれまで政策課題に一時的に浮上しても棚ざらしにされ続けた。同ルールに限らず、労働市場改革の遅れは続いており、日本の労働者の賃金が上がらないことの理由として経済学者や経済団体などが労働市場の硬直性を指摘し続けて久しい。

経済学者で東京大学名誉教授の伊藤元重氏は、金融情報サイト「キャリタスFINANCE」への寄稿文の中で、「国民の賃金上昇のためには労働市場改革が必要」と指摘したうえで、日本で労働市場改革が進まない理由を、次のように解説していた。

労働市場改革は、どの国でも経済を活性化させるためには避けて通れない道である。ただ、残念ながらそれは政治的には非常に難しいことだ。解雇規制を緩和することは労働を流動化させることを通じて経済全体を底上げする効果がある。しかし、政府が「解雇規制を緩和する法案」を準備しようとすると、野党はそれを「首切り法案である」と反対する。

今年2月、日立と富士通が雇用形態を、従来の日本企業に多かった「メンバーシップ型」雇用から「ジョブ型」雇用に切り替えると報道があった(関連記事)。ジョブ型雇用とは、あらかじめ職務内容を明確に決めた形での雇用形態で、学歴や年齢より、仕事内容に必要なスキルや実績が評価される。

企業には、事業展開や業態の変化に合わせて労働市場から機能的に能力の高い人材を採用できるというメリットがある。また、従業員には職務以外の業務負担が軽くなる、能力次第では勤続年数が短くても高給がもらえるなどのメリットがあり、欧米企業では一般的な雇用形態だ。

労働市場が流動化した欧米では荷物をまとめて去る元従業員の姿は日常的(katleho Seisa /iStock)

「ジョブ型雇用」現状なら骨抜きか

この報道が出た時、ネットでは「優秀な人は引く手あまたになる」「能力が高い人には朗報」「ようやく日本の労働市場が変革するか」といった歓迎の声が寄せられた。しかし、一部専門家からは、解雇規制の緩和がされていない日本の現状では骨抜きになるのではといった危惧も聞かれた。

「転職とキャリア」がテーマのブロガーで『私にも転職って、できますか?』の著書がある安斎響市氏はツイッターで、次のように指摘していた。

結局、『年功序列で昇格しちゃった現役管理職』に対して『あなたジョブ型の要件満たしてないから降格ね。あ、あなたはクビね』ってやらないと改革にならない気がする

米国株投資情報を発信し、8.8万人のフォロワーを誇る人気ツイッターアカウントTomo氏も、日本でジョブ型雇用が根付くには、解雇ができるかどうかが重要と綴っていた。

全社員をジョブ型にするのは良いけど、必要とされるスキルを満たせない社員が出た時に、昇格させなかったり、あるいは降格させたり、最終的には解雇とかちゃんとできるのかが重要。まぁ無理だろうけど。

企業の働き方は多様化するも…

今回の「無効解雇の金銭解決制度」は、解雇規制の緩和ではない。あくまで企業に解雇され、無効と認められた場合に労働者側の選択肢を増やす制度だ。裁判所から雇用契約が続いていると認められても職場に復帰できないケースに、「労働者に限定して」金銭解決の申し立てをできるとしている。不当解雇にあった労働者の権利を保護する目的の制度だ。

それでも、企業が従業員の解雇をし放題にできるかのような反発が巻き起こる。この程度の制度改革にも、そうした反発が起きるようでは、政府はとてもではないが「解雇規制の緩和」などとは言い出せないだろう。

日立や富士通だけではなく、週休3日制を採用したヤフーやファーストリテイリング、1日6時間労働のZOZOなど企業の働き方は、コロナ禍もあって、ここ数年で一気に多様化している感がある。しかし、労働市場改革はまだまだ難しいのかもしれない。

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