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夫婦間の対立や離婚に際し、片方の親の同意なしに子どもの連れ去りが相次いでいる問題は、捜査機関や司法の対応に変化が生まれ、政治レベルでも親権制度の見直しに向けた機運が着実に強まっている。

超党派の国会議員有志でつくる「共同養育支援議員連盟」は12日、親子交流の推進や共同親権の導入などを求める緊急提言をまとめた。近く政府に提出する。

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離婚後の単独親権見直し提言

親権制度のあり方を巡っては、法務省の諮問機関、法制審議会の家族法制部会が昨年3月から検討を進めており、中間取りまとめが近く行われる見通しだ。議連も同部会と並行し、これまでに月1回のペースで総会を開催。今回の緊急提言はこのスケジュールを見越したもので、法制審に対しては「離婚後の共同養育が当然であることの認識の下、養育費の支払いと親子交流のいずれを優先するのではなく、両者足並みを揃えて少しでも早く検討を進め、 答申すること」と要望した。

さらに、3月下旬には親権のある男性が、子どもを連れ去った元妻を訴えた裁判で「異例の判決」が出たことにも言及。この民事訴訟では、元妻とともに訴えられた代理人弁護士に対しても違法な連れ出しを教唆したとして東京地裁が損害賠償を命じる判決が出ている。

これを受け、提言では以下のように共同親権制導入に向けた検討も要請した。

代理人弁護士の不法行為責任が認められた地裁判決も出るに至っていることも踏まえるならば、海外の制度を調査し、日本の諸制度と比較検討した上で、離婚後に単独親権制度しか認められない現行制度を早急に見直し、DV などの例外的な事象を除き、離婚後においても共同親権が認められる制度の導入についての検討を進めること

このほか「親子交流支援の実態調査や現行の支援事業の抜本的拡充に加え、親子交流を支援する民間の団体を所管する官庁を明確に定め、民間の親子交流支援機関の展開・充実に早急に取り組むこと」も必要だと主張している。

議連の2月の総会では、警察庁の担当者が同意のない片親の連れ去りについて「正当な理由のない限り未成年者略取罪に当たる」と明言したことが注目され(関連記事)、その後、正式な通達が全国の警察本部に周知された。

幹事長を務める牧原秀樹衆院議員は12日夜のツイッターで「新たな流れができつつあります」と手応えを述べた。

維新の石井苗子参院議員は総会後、DVなどの「特別な配慮が必要な別離にも十二分な配慮を」という但し書きをしながらも、「悲しむ親子を減らすためにも、共同養育へと舵を切ることに躊躇してはいけません」と強調した。

議連会長の柴山昌彦元文科相は連れ去り被害者からの相談が続出し、心が痛むと綴った。ただ「政府への要請や立法が国会議員の仕事なので、この欄の記載などをご参考に是非弁護士に相談して下さい」と投稿し、当面の対策に役立ててもらう意向を示した。

圧力にビビる報道、当事者はネットで抗戦

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「面会交流調停をやっても、相手側が虚偽の主張であっても、子どもとは会えない」。数年前に2歳と5歳の子どもを元妻に連れ去られたという男性は現在の裁判所の対応や制度面の限界に憤る。他方、この問題が新聞やテレビ局などの記者クラブメディアでほとんど報道されず、世間の関心が高まらないために事態が進展しないことにも不信感を募らせている。

実際、昨年もある大手メディアの言論サイトで連れ去り被害者側のインタビュー記事が掲載直後に削除された「事件」があったが、事情通によれば編集部に対し、猛烈な圧力がかかったと言われる。

それでも当事者はゲリラ的にSNSで積極的に想いを伝え続けている。柴山氏や牧原氏らのツイッター投稿に対し、連れ去り被害者と見られるアカウントから取り組みへの謝意とともに「将来の日本を背負うこどもの為に1日でも早く助けて下さい」などの要望が相次いだ。彼らは時に共同親権反対派の左派系アカウントとの論戦も辞さない。

日本が「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」(ハーグ条約)に批准して10年近く。それでも単独親権制度を継続し、同意なき連れ去りが止まないことから、EU議会が日本に対し「子の連れ去りに関する国際的なルールを遵守していないように見受けられる」と決議するなど国際的な圧力もかかっている。反対派は、法制審の議論での巻き返しを図っているが、参院選に向けて当事者の尊厳をかけた政治闘争はさらに続きそうだ。