今シーズンのF1、第3戦のメルボルンまでを終えて、フェラーリの速さはフェイクなどではなく、安定して速い事が証明された。一方でレッドブルはどうかというと、速さはあるが同時に脆さも露呈した。また、第3戦を見る限りでは最速のフェラーリほどの余裕がみられず、マックスはRB18に手を焼いている印象だ。フェラーリ VS レッドブルそしてメルセデス。オーストラリアGPのレースウイークを通して何が見えたのかを、元F1メカニックの津川哲夫氏が解説する。
文/津川哲夫、写真/Ferrari,Mercedes,Redbull
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最速フェラーリのレースペースについていけなかったマックス
フェラーリのルクレールは、またもや予選PP、レースでもスタートツーフィニッシュを果たし、最速ラップ賞まで勝ち取った完全試合を再現してみせた。今回は過去の2戦以上にアンタッチャブルな速さを誇ったのだ。
その余裕の証拠は、レース終盤でのルクレールの無線会話に滲み出ている。「最速ラップをもう一度トライしていいか?」と彼はエンジニアに尋ねている。既に最速ラップを出しているにもかかわらずだ。しかしピットからは「駄目、現行の最速ラップを破れる奴はいないから、リスクは負うな!」と返してきた。ルクレールは不満げではあったがピットの言う事を聞いてそのままゴールした。正に余裕の会話であった。
それでも今回はサインツとのワンツーフィニッシュとは行かず、まだF1-75を御しかねているサインツはスターティングラップでコースアウト、グラベルにはまってレースを終えてしまった。
このフェラーリに唯一対抗出来るのは、現在レッドブルだけだ。そのレッドブルだが、ルクレールの後ろ2位でフィニッシュしたのはフェルスタッペンではなく、今シーズンRB18を上手く乗りこなしサウジでポールポジションを獲得しているセルジオ・ペレスであった。その安定した走りは危なげなく、RB18を無事ゴールまで運んでみせた。昨年までと打って変わって、レッドブルのトップエンドでの戦いに入り込んできた。
2位走行中の突然のストップ。レッドブル軍団の4車が代わる代わるのトラブル
レッドブルのエース、本命のマックス・フェルスタッペンはというと、何とメカニカルトラブルでストップ。
発表ではフューエルリーク(燃料漏れ)等と説明されていて、車体後方で発火してフェルスタッペンが消火器を持ち消化に当たるなどしたがリタイア。炎は燃料の燃える炎とは違い、油圧系のオイル燃焼のように感じられたのだが、まだ理由は定かではない。これで3戦中2度もメカニカルトラブルでマシンを降りている。
問題はレッドブル軍団の4車が代わる代わる、時には同時にトラブルに見舞われ続けている事だ。これは現在のレッドブルのマシンにはまだ信頼性が大幅に欠如していることを示している。
トラブルはギアボックス等の油圧系のトラブルと燃料系のトラブルが続き、今回の火災はアルファタウリのガスリーの初戦での火災に似ている。そう、アルファタウリとレッドブルは同じギアボックスを共有し、その油圧システムも同じだ。そう考えるとこの二つのインシデントに共通性が見えてくる。これを解決しなければRB軍団全滅もありうるかも知れない。レッドブルの回復力を信じてはいるが、まだフェラーリには及ばないのが歯がゆいところだ。
メルセデスのポーポシングはかなり重症。W13-Bの登場が無いとはいえない
レッドブルだけではなく、メルセデスもまた今シーズンのW13のトラブルで大いに苦戦を強いられている。3戦目でも持病のポーポシングは治らず、高速サーキットゆえに数カ所で激しいポーポシングを発生させていた。オンボードカメラに写るハミルトンのヘルメットが、これでもかと上下に激しく揺れる映像はドライバーに同情さえしたくなるほどであった。
それでもラッセルは激しいレースを展開、負けず嫌いの性格をむき出しに頑張り、幸運が味方したとはいえ3位の表彰台は正に予想外の好成績だった。そして4位にハミルトンだが、不運にもピットストップのタイミングが悪く、3位の表彰台をラッセルに持って行かれてしまった。
メルセデス不調の根は深く、下手をすればコンセプトから大幅変更されたW13-Bの登場が無いとはいえないほど深刻な状況に陥ってしまった。
それでも結果オーライで、ラッセルは何とチャンピオンシップではルクレールに次ぐ2位の位置にいる。流石メルセデスが見込んだだけあってクールな走りであった。この結果にハミルトンは自分では納得できず、不満げな様子を見せ始めている。実際無線ではチームに嫌みをいったほど。今ハミルトンは経験したことのないジレンマの中にいるようだ。
アルファタウリ角田の謎の失速。高速コースで蘇ったマクラーレン
レッドブル同様、今回のメルボルン戦はアルファタウリにも試練を与えている。過去2戦は結構良いペースだったものの、メルボルンには合わず、ガスリーも角田も結果に繋がらず、ガスリーが9位完走に辿り着くのがやっとの状況であった。また角田も出だしはよかったものの、後半で失速、順位を大きく落としてしまった。
そしてメルセデスの漁夫の利とは違い、マクラーレンがいよいよ快復の兆しを見せていることにも注目したい。ノリスが5位を獲得したが、マクラーレンにとってハッピーなのはその直後にリカルドが6位に入って、ダブルポイントを獲得したことだ。いよいよリカルドのスランプが終る日が近づいてきているのかもしれない。ブレーキのオーバヒートとダウンフォース不足を何とか向上させてきているし、これにリカルドの復活が重なりそうな気配で、こう考えるとマクラーレンの未来は明るく見えてくる。
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津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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