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 ついに北米で新型アキュラインテグラが6月に発売される。マニュアルトランスミッションのモデルも用意され、意外と6MTモデルの人気が高い。

 アメリカはオートマ文化圏のように感じるが、コンパクトカーを中心としたMTも人気があるようだ。スバルのWRXのように日本には導入されていないMTモデルがラインナップされるのもうなずける。

 そんなアメリカでのMT車事情と、これから3ペダルMTはどうなっていくのかを自称MTフェチの安東弘樹氏がレポートする。

文/安東弘樹写真/ホンダ、トヨタ

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■新型のアキュラインテグラでMT車が売れている?

北米で発売されるアキュラインテグラ(写真はプロトタイプ)。2023年型インテグラは6月初旬に発売が決定、インテグラA-Spec 6MTの価格は3万5800ドルから

 ベストカーWebでは、これまでMTの楽しさについて散々書いてきましたので、今さら何を書こうかと思いましたが、今回は新型インテグラのMT車がアメリカで売れている背景からMT車ならではの楽しさを紐解いてみようと思います。

 まず、アメリカでアキュラインテグラのMTが売れている、という事実について、アメリカはAT文化でMTのクルマは少ないと思っている方が多いと思いますが、実は日本製を中心としたコンパクトカーのMTは結構、街で見かけます。

 もちろん、古いクルマが中心ですが、アメリカでは日本より古い日本車が現役で走っていることが多く、そのなかにMTのクルマは多いのです。特に若い人が免許を取って初めて買う自分のクルマに日本のコンパクトカーを選ぶ場合が多く、そのうち、少なくない数がMT車だったりします。

■アメリカでMT車が売れている背景

 2000年代の話ですが、坂の多いサンフランシスコで若い人が日本製のコンパクトカーのMT車をみごとに乗りこなしている光景を数多く目撃? しました。

 当時でさえ日本ではほとんどMT車を見かけることはなかったので新鮮だったのを覚えています。あれ? アメリカと言えばAT車、というイメージがあったのでいい意味で裏切られたという印象でした。

 確かにアメリカの自動車メーカーのクルマはAT車がほとんどでしたが、ヨーロッパや日本のコンパクトカーのベースグレードはMT車も多く、さらに若い人が「ガレージセール」などで購入する当時の10年落ちくらいの中古車は、その多くがMTであったのは容易に想像できます。

 そういった背景から日本のドライバーよりもアメリカのドライバーのほうがMTに親和性があるのは間違いありません。ですので、アキュラという高級ブランドでもスポーツ色の強いモデルには、以前からMTの設定が存在し続けているのも納得です。

 さらに日本ではMTのクルマに乗っていると、若干、「変わり者」扱いを受け、「MTなんて疲れるだけなのに何で乗っているの? 」などと怪訝な顔をされることさえあります。

■アメリカではMTのことを「STICK SHIFT」と呼ぶ

 しかし、アメリカではMTのことを「STICK SHIFT」(スティックシフト)と呼び、それを運転できるドライバーに敬意を持つ人が多く、私自身、アメリカ人の知人に「スティックを運転してるの!? 」などと、アメリカ人らしい大きなリアクションとともに尊敬? されたことがあります(笑)。

 また、コロナ以前は毎年40万人がインディ500レースを観戦するようなモータースポーツ好きであるアメリカ人はやはりスポーツカーに乗り、スティックシフトを駆使して速く走らせることに憧れがあるようです。ですから、MTを運転することはポジティブに捉えられることが多く、「変わり者」と扱われることは、ほぼないのです。

 また、若い頃に古くて壊れるクルマに乗ることが多いのも幸いして? 自分でクルマを触ることも多く、クルマの基本構造や走る原理などを自然と覚える人が多いのも確かです。

 これが、インテグラのMTが売れている直接の原因かどうかはわかりませんが、スティックシフトのカッコイイクルマに乗る、というのが、この時代にあって、クールに思えるのではないでしょうか?

新型アキュラインテグラA-Spec 6MTのコックピット。200hpのVTECターボエンジンと6MTの組合せはスリリングなスポーツドライブを体験できる

 しかも一度慣れてしまえば、ダイレクトに加減速をコントロールできて、まさに自分の手足のようにクルマを操れることをアメリカの多くの人が知っているのが私としては羨ましいかぎりです。

■多くの日本人にとってはクルマは単なる移動のための道具

 日本では「渋滞が多いから」という理由でMT車から離れる人が多い、と言われますが、アメリカでもヨーロッパでも都市部はかなり渋滞はしますし、要は日本の多くの人にとって「クルマ」が単なる移動のための道具になってしまったからだと思います。

 日本メーカーも、欧米では設定を残しているMTを「国内では売れないから」という理由で日本では絶滅させていきましたが、MTの運転の楽しさを訴求することもなく、コストの面からなくしていったという背景もあると思います。

 結果、「楽しいから」という理由でクルマを購入することがなくなり、「無理をしてまでクルマを買う」というユーザーがいなくなり、日本メーカーが自らの首を絞めてしまったのではないかと私は思っています。

■MTはすぐには絶滅しない

 「クラッチを踏んでシフトレバーを適切なギヤポジションにエンゲージしてクラッチを繋ぐ、その際、ブリッピングして回転を合わせる場合もありますが、それでスムーズに加速した時の快感を知らないなんて!」なんて叫んでも日本では「??? 」という反応しか返ってきませんが、実は欧米では「わかる!」という反応が返ってくることが多いんです(実際に経験ずみ)。

 さて、そんなMTですが、今回のインテグラの例にもあるように、まだ内燃機関と同様に、今すぐ絶滅する、という訳ではなさそうです。

2022年夏頃から予約開始予定の待望のMTを搭載するA90型スープラ。マニュアルミッションが搭載されるのはRZグレードのみ
新規設定されるスープラRZグレードMT車のコックピット。握りやすい球体形状のGRロゴを配したシフトノブに、自動ブリッピング機能のiMTを備える

 カタログ燃費はともかく、上手いドライバーが運転すれば燃費もよくなりますし、何と言っても「運転を楽しむ人」が絶滅しないかぎりは、存在し続けるのではないでしょうか?

 実際に運転を楽しむ人が多いヨーロッパではいまだに半分はMTのクルマが走っていますし(それでも近年、減りましたが)、アメリカでも存在感を示しています。

■トヨタがEV用のMTを開発中!?

 日本ではMTの運転を楽しむ人、というのが一部のマニアだけになってしまったがゆえに絶滅危惧種になってしまいましたが、完全には絶滅していません。

 そして、奇跡的なニュースが今年に入って飛び込んできました。あのトヨタがEV用のMTを開発している、というのです!

 当然、EVにはトランスミッションというものが基本的には必要ないのですが、Hパターンのシフトノブを操作すると電気信号によって疑似変速を行うというもので、何とクラッチもちゃんと付いているとのこと。しかも変速時には意図的にトルクフリーの状態を作り出すという本格派! もしかしたら疑似エンスト(電スト?)もするかもしれません。

 実は私が数年前に、そんな妄想を、某コラムに書いたことがあるのですが、まさか、当時はMTとは対極にあった? トヨタから、今年になって、そんな話が聞こえてくるとは、これは嬉しい誤算です。

 実用化されるかどうかはわかりませんが、やはりMTの変速感が好き、という変態!? が存在するかぎり、それに応えようとするメーカーも存在するのかもしれません。

 先日、MTの小さなスポーツカーで千葉~京都を往復してAT車よりも疲労感が少なかったことで、「やはりMTは心身にいい!」と実感した安東がお伝えしました!

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