もっと詳しく

 5月10日、富士スピードウェイで行われたENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankookの公式テスト。6月3〜5日に開催される富士SUPER TEC 24時間レースを見据えたテストだったが、大きな注目を集めたのが、NISMO、Max Racingから登場した2台の新型ニッサンZだ。現段階でどんな車両なのか、そして今後どんな将来を見据えた車両なのだろうか。

 この新型Zは、4月28日にニッサン/ニスモから発表された内容によれば、「新型『ニッサンZ』のさまざまなモータースポーツカテゴリーでの活用の可能性を探り、実戦データを得るため」のもので、「24時間というタフなレースを通じてクルマを鍛え、Zにふさわしい、ワクワクするレースカーの開発を目指します」とされている。

 富士スピードウェイで行われた5月10日のテストに2台が登場したニッサンZは、4月28日に公開された車両の画像からはフロントにニッサンのエンブレムがないこと、またゼッケン、フロントウインドウに貼られたシリーズ冠スポンサーのENEOS、ニッサン/ニスモのロゴ、ワンメイクタイヤサプライヤーのハンコックのステッカーが貼られているという違いがみられた。

 また、現場で車両を見てみると、いくつか気づくこともあった。レーシングカーに必要な牽引フックやロールケージはもちろんだが、フロントのグリルはレースカーらしいメッシュに。ボンネットは左右にアウトレットが設けられているが、GT500のような派手な形状ではなく、前面がわずかに膨らんでいる程度。リヤウイングもかなり小振りで、ST-3に参戦するZ34型フェアレディZの方が高い位置にある。また、非常に小さいがオーバーフェンダーも追加されている。リヤのエキゾーストは、市販車では左右二本出しだが、この車両は右側のみにエキゾーストがある。

 コクピットは左側。現段階では日本仕様のフェアレディZではなく『Z』だからなのか、それとも今後のグローバルな展開を検討しているからなのかは不明だが、外から見るとコクピットには市販車でも特徴的な三連メーターの膨らみも残されている。ただ、ステアリングは当然レース用のものに変更されている。

 テストでは既報のとおり1分50秒台のラップを重ねており、ストレートスピードも速い。一見すると限りなく市販車に近い外観だが、ST-1車両やST-Z車両に迫るタイムをマークしてみせた。

NISMOの230号車ニッサンZ
NISMOの230号車ニッサンZ
Max RacingのニッサンZ
Max RacingのニッサンZ

■今後の可能性を探るための参戦

 そんな新型Zについて、日産モータースポーツ&カスタマイズ副社長で、モータースポーツ戦略を担当、スーパーGTではニッサン系チーム総監督を務める松村基宏氏に聞くと、「“レースカー”として出てくるというより、あくまでテストとして、開発を含めてさまざまなことを見たいということから(富士SUPER TEC 24時間の)ST-Qクラスに出場するということです。そこから先はまだ何も決まっていません」という。

 あくまでニッサンZの開発テストとしての一環ということだが、分かりやすい例えとして「NISSAN LEAF NISMO RCと同じような感じ」だという。2018年に二代目が製作されたNISSAN LEAF NISMO RCは具体的な参戦カテゴリーがあるわけではなく、電気レーシングカーとしての可能性を探る一台だった。

「“コンセプトの検証”をするということです。将来に可能性があるのか、どの程度をやらなければならないのかを調べなければなりません」と松村氏。そのために「ハードウェアにしろ制御系にしろ、開発車なのでさまざまなものが入っています」という。

 この日の富士スピードウェイでのテストでは細かいマイナートラブルがあったほか、やはり他のレーシングカーやチーム同様、新型コロナウイルス禍や、ロシアのウクライナ侵攻による物流の遅れや輸送費用高騰などの影響があり、すべてのものが投入されているわけではないよう。

 今後、テストで得られたものを盛り込み、富士SUPER TEC 24時間レースでの参戦を経て、さらに得られたものから次なる可能性が議論されていくという。「本番では良いことも悪いこともあると思いますが、その結果として、織り込んだものを次に繋げていく議論が出てくると思います」と松村氏は語った。

 一方、今回の参戦にあたっては230号車NISMOが吉田昌信監督のもと、平手晃平/松田次生/ロニー・クインタレッリ/星野一樹/佐々木大樹というラインアップ、244号車Max Racingは田中哲也/田中徹/三宅淳詞/高星明誠/安田裕信というラインアップで挑む。これについては、「開発として出るためにドライバーを探したときに、我々はGT500のドライバーを抱えていますから(松村氏)」いうことから、GT500ドライバーが多く起用された。

 この日は高星は参加しなかったが、中心になって230号車をドライブした平手晃平は「市販車ベースですが開発途中のクルマで、伸びしろはあります。いろいろな可能性を探りながらドライブしていきました」とニッサンZについて語った。

「ニッサンZ GT500とは大きく外観も異なりますが、市販ベースのZが観られるのは富士24時間だけですからね。ぜひカッコいいZの走りを楽しみにして欲しいと思います」

 また、同じく230号車をドライブした星野一樹は「いまはマイナートラブルはありますが、ポテンシャルはありますし、先が楽しみなクルマです」とこのニッサンZを評している。

 富士SUPER TEC 24時間で何を得て、どんな可能性が見出されるのか。注目度が高い一台だけに、楽しみにしたいところだろう。

富士スピードウェイのピットレーンを走るMax Racingの244号車ニッサンZとNISMOの230号車ニッサンZ
富士スピードウェイのピットレーンを走るMax Racingの244号車ニッサンZとNISMOの230号車ニッサンZ
NISMOの230号車ニッサンZ
NISMOの230号車ニッサンZ
NISMOの230号車ニッサンZ
NISMOの230号車ニッサンZ