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住宅需要が高止まりしていたアメリカで、新規の住宅ローンの申し込みが急速に減少していることがわかった。アメリカの抵当銀行協会(MBA)が8日発表した「MBA住宅ローン申請指数」は、季節調整済み指数で前週から、6.5%減少。季節未調整指数だと前週と比較して17%減少した。

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要因はアメリカの利上げ政策

「MBA住宅ローン申請指数」とは、アメリカの個人住宅ローンの申請件数を指数化したもので、ローン申請件数に加え、借り換え、新規購入が調査対象。1990年3月16日を100として、MBAが毎週水曜日に発表している。

MBAで経済・産業予測を担当するジョエル・カン氏は、「市場指数は過去22年間で最低レベルだ」としたうえで、「新規購入と借り換えの申し込みが特に減少している。先週は政府系金融機関の借り換え申し込みだけがわずかに増加した」と分析した。

住宅需要の急減の最大の要因は、アメリカの利上げ政策にある。アメリカの中央銀行にあたる連邦準備理事会(FRB)は今年5月、0.5%もの大幅利上げを決定。0.5%もの利上げは2000年5月以来22年ぶりのことだが、FRBのパウエル議長は6月、7月と連続して0.5%の利上げをすると示唆している。さらに、ブレイナード副議長は今月2日、米CNBCのインタビューで9月のさらなる利上げを示唆していた。

FRBの利上げ政策を受けて、民間金融機関も相次いで利上げしている。連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)によると、昨年6月時点では2.99%だった30年固定の住宅ローン金利(週平均)は、今年5月11日には5.3%まで上昇。6月2日時点では5.09%に落ち着いたものの、FRBの利上げ政策の継続姿勢もあって、先行きは不透明だ。

こうした状況を、前出のMBAのカン氏は「値ごろ感の悪化は、特に初回購入希望者にとって厳しいものとなっている」と述べている。

米住宅価格は24カ月連続で過去最高

コロナ禍に関わらず、アメリカの住宅市場は今年前半まで絶好調だった。世界最大規模の指数算出企業「S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス」の住宅価格指数は、今年1月まで24カ月連続で過去最高を更新していた。

要因としては、アメリカで最も人口の多いミレニアル世代(1981年から1996年生まれの世代)が住宅を購入する適齢期に差し掛かっている点がある。さらに、コロナ禍の在宅勤務を契機に、都市部の人口密集エリアのマンションに住むことに対するメリットが薄れ、郊外の一戸建ての需要が高まった。それらに加えて、将来の値上がりを見越しての投資目的の住宅購入が拍車をかけた格好だ。

ミレニアル世代の旺盛な消費が景気を支えていたが…(FatCamera /iStock)

いずれにしても、コロナ禍の中でのアメリカ経済の回復を下支えしたのは住宅需要だと言われている。そんな住宅需要が急減しているとなると、心配されるのがアメリカの景気後退局面、いわゆるリセッションだ。米証券会社チャールズ・シュワブのリズ・アン・ソンダースCIO(最高投資責任者)は今月2日、自身のツイッターに、「(アメリカの)リセッションの確率は、2007年2月以来最高に上昇している」と投稿していた。

日本では首都圏マンション価格がバブル期超え

日本でもコロナ禍の中、住宅需要は堅調で特に首都圏のマンション価格は歴史的な高値水準にある。不動産経済研究所によれば、2021年の首都圏の新築マンションの平均価格は、6260万円(前年比2.9%上昇)で、バブル期を超えた。

住宅金融支援機構の国際・調査部長の小林正宏氏は昨年12月に発表した論文「首都圏マンション市場の動向について」の中で、首都圏マンション市場のリスクを次のように指摘していた。

海外ではコロナ後の金融緩和による資産価格上昇やインフレへの懸念も強まっている。金融政策がいずれ出口に向かうことになる局面において、雇用や所得環境も改善して日本経済が金利上昇に耐えうるような状況となっているか、注視される。

論文の中で、小林氏は首都圏のマンション需要の高まりの主因を低金利と指摘。そうした中、日銀がアメリカなどに追随する形で利上げに踏み切った時が、首都圏マンション需要の大きなリスクと分析している。低金利が需要増の理由なのだから、日銀が利上げ政策を取れば、需要は急減する可能性が高い。

日本でも首都圏マンション需要が景気を下支えしている側面があり、円安傾向も相まって海外投資家からの投資も活発だ。日銀がこの先どのような金融政策を取るのかは、日本はもちろん、海外からも高い注目を集めそうだ。