6月11日〜12日に決勝レースが行われるル・マン24時間に向け、トヨタGR010ハイブリッドのエンジンやモーター、バッテリーなどのハイブリッドシステムを送り出す『出荷式』をトヨタ自動車東富士研究所(静岡県裾野市)で見学。その後、ハイブリッドシステムの開発に携わる2名の技術者から話を伺う機会を得た。
佐藤真之介氏(GRパワトレ開発部 主幹)は主にエンジンの開発を担当、立松和高氏(GRパワトレ開発部 主幹)はモーターやインバーター、電池などのいわゆる“電気もの”を担当する。
前編に続き、この後編では主に“電気”に関わる部分について、開発の裏側を聞いた。
■『190km/h』への引き上げが、空力にまで影響
ハイブリッドシステムを搭載することに変わりはないが、LMP1規定からル・マン・ハイパーカー(LMH)規定への変更により、GR010ではバッテリーの使い方も変わっている。
LMP1時代はエンジンの出力にモーターの出力を上乗せすることができたが、ハイパーカー規定ではシステム最高出力が500kWに規定されているため、モーターが200kWを発生させているときはエンジンの出力を絞り、エンジン+モーターの総合出力が500kWを超えないよう制御しなければならない。
「(エネルギーを)出せるところに足かせがあります」と立松氏は説明する。
減速時に回生することでバッテリーにエネルギーを蓄えることはできるのだが、ハイパーカー規定になってエネルギーを使うチャンスが激減した。前編で触れたように、120km/h以上だったアシスト可能速度が、190km/hからになった影響が大きい。
「190km/hに設定されると、ほとんどのサーキットで1カ所か2カ所しか使えるところがなくなってしまいます。そこに対してどう挑んでいくべきなのかを考えていかなければなりません」
「回生ブレーキによって電池が満タンになると、(摩擦)ブレーキがブローしてしまうので、どこかで使わなければならない。ラップタイムとして効果的に使えるところが減らされているのが、新しいカテゴリーの難しいところです」
モーターのアシストはコーナー立ち上がりの低速域で利かせるほど、効果が高い。逆に車速が高まって最高速に近づくほど、アシストの効果は薄くなる。アシスト可能な車速の設定が高くなるほど、効果は目減りしてしまうのだ。
しかし、バッテリーに溜まったエネルギーを使わないことには回生ブレーキを使うことはできない。回生ブレーキを使わず、摩擦ブレーキを多用したのでは、負荷に耐えかね、立松氏が指摘するように「ブロー」しかねない。
「そこはストラテジーを練っているところです。正直なところを言うと、(開幕戦)セブリングでは(190km/hへの引き上げに)だいぶ面くらいました。引き上げられることは想定していたので、何種類か試験はしていたのですが、その上を行ったのが実状です。この状態を受け入れ、上手に進化させていくのが課題です」
第2戦スパ・フランコルシャン6時間(5月7日決勝)はもちろんのこと、第3戦ル・マン24時間(6月11日〜12日)に向けた最適化が急務だ。
「シミュレーションと実車で、いま(※編注:取材は4月11日)まさにやっているところです」と、佐藤氏は説明する。
「バランスが崩れてしまうのが難しいところです。回生ブレーキを使わないようにすると、今度はメカブレーキ(摩擦ブレーキ)を使う。すると温度が上がってしまうので、クーリングしなければいけない。すると、空力が変わってしまう。ひとつ変えると全部が芋づる式に変わってしまうので、すべてを最適化しなければなりません」
LMP1の時代は全コーナーで高出力のモーターによるアシストのメリットがあった。ハイパーカーの時代は制限された状況で、「上手に、したたかに使わなければならない」(立松氏)。そこが大きな違い。エンジンのチューニングと合わせ、ドライバーからのフィードバックを参考に最適化を進めているところだ。