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 アルピーヌは、スパで適用されるハイパーカーBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)で最大パワーが抑制されることを「予測」し、今週末のWEC世界耐久選手権第2戦スパ・フランコルシャンの6時間レースに向けて彼らのLMP1マシンを最適化するために、パワーと燃料マネジメントに関して多くの作業を行ったという。

 アルピーヌ・エルフ・チームを運営するシグナテック社のチーム代表であるフィリップ・シノーは、開幕戦セブリングで優勝した後、第2戦スパを前にBoPが変更されることをある程度予測することができたと述べた。

 彼は、アルピーヌの焦点がセブリングのようにペースを追求するのではなく、スパの4.35マイル(7.004km)のコースでパワーと燃料をマネジメントし、燃料タンクが小さいために必要なピットストップ回数を減らすことに移されたことを認めている。

 スパ6時間用に調整されたBoPによって、アルピーヌのマシンは最大出力が20kW(約27PS)削減された。これはふたつの高速セクターと長いストレートを持つベルギーのサーキットにおいて、大きな痛手となる。

「エアロダイナミクスとメカニカルなセッティングに関しては、このクルマで提供できる最大限のものがある」とシノーは述べた。

「我々にとって最善の改善策は、出力とエネルギーをマネージメントすることだ。この点については、BoPを受け取ったときにすでに多くの取り組みを行ってきた。このようなBoPをある程度予想していたんだ」

「セブリングはまったく違う哲学だった。我々はF3のようにマシンをより効率的にし、バンピーなサーキットで本当にうまくレースを進めるために働いた。それが私たちのクルマが効率的だった理由だ」

 シノーはセブリングを“エキゾチック”なレースと評し、ニコラ・ラピエール、アンドレ・ネグラオ、マシュー・バクシビエールのアルピーヌ勢は、車重の重いトヨタGR010ハイブリッドがバンピーなフロリダのサーキットで苦労していたため、それを生かさなければならなかったと語った。

「セブリングは過去のものだと言っているのは、そのためだ。スパは新しいカテゴリーで行う新しい大会のようなもので、(セブリング1000マイルとは)まったく異なる」

「我々は1年前にここでレースを始めたので、このトラックについては少し理解しているつもりだ。チームとクルマのレベルも上がっているので、昨年よりも自信はあるがどうなるかな」

 アルピーヌはスパでのパワーダウンに不満はなく、BoPによる調整についてシノーはWECのハイパーカー・カテゴリーにおける「ゲームの一部」と表現している。彼はBoPの変更について意見を求められると次のように答えた。

「我々はスパに到着する以前から、このような計画を立てていた」

「細かいところでは見解の相違があるが、マネジメントしていかなければならない。それがBoPの運営の一部なんだ」

TOYOTA GAZOO Racingの7号車トヨタGR010ハイブリッド 2022年WEC第2戦スパ・フランコルシャン
TOYOTA GAZOO Racingの7号車トヨタGR010ハイブリッド 2022年WEC第2戦スパ・フランコルシャン

■トヨタのテクニカル・ディレクターがBoP調整の難しさを説明

 対するTOYOTA GAZOO Racingのテクニカル・ディレクターを務めるパスカル・バセロンは、今回のBoPの変更によってスパでの競争がより公平になると考えている。

「レースがより近くなるように修正があったのは確かだ」とバセロンは述べた。彼は続いて、LMHル・マン・ハイパーカーとアルピーヌが走らせるノンハイブリッドLMP1カーには“パフォーマンス・プロファイルの違い”があることを強調した。

 オレカ製のアルピーヌA480は、グリッケンハウス007 LMH(グリッケンハウス・レーシング)やトヨタGR010ハイブリッドよりもパワーで劣るが、より多くのダウンフォースを生み出すことができる。また、現在の952kgとい車重は、競合するLMH車の最低重量である1030kg(トヨタは1070kg)を下回っている。

 これらの特性は、LMHプロトタイプがこれまでレースをしたことのないセブリングで、アルピーヌが最高のパフォーマンスを発揮するのに役立ったようだ。

「パフォーマンス・プロファイルは非常に異なるため、BoPを変更しなくても、トラックごとに異なる結果が得られるだろう。だから(調整は)難しいんだ」とバセロン。

「同じパフォーマンス・プロファイルのクルマを走らせると、コースレイアウトの違いによって、すべてのクルマに同じような影響が出る」。

「アルピーヌ、グリッケンハウス、そして我々の間では、そうではない。あるコースで完璧なバランスを保っていても、別のコースに行けば、パフォーマンス・プロファイルが大きく異なるため、以前のレースとは異なる結果が生まれることになるんだ」

「これが、(セブリングで)あれほどの差が出た主な理由だと思う」。

 アルピーヌは、セブリングでこの“不一致”をフルに活用し、レース全体でプッシュし続けた。なぜなら、純粋なスピード差によって生まれるマージンによって、燃料補給のためにライバルよりも多いピットタイムを克服できると考えたからだ。

 燃料のマネジメントを優先した昨シーズンと状況は似ているが、アルピーヌはタイトル争いを維持するために、この状況を打開することができると確信している。

 シノ―は、「私たち毎日この差を縮め、(LMHの)レベルになるように努力している」と語り、「いくつかの改善策が見つかった」と付け加えた。