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ディーゼルは死なず!? マツダ、VWグループが続々国内投入! 電動化時代に問われるクリーンディーゼルの勝算

 アウディが日本市場に、2Lディーゼルターボを搭載したQ2を投入することを発表した。同じグループのVWもそれに先んじて新開発のTDIエンジンを搭載したゴルフを投入している。

 国内市場ではマツダが直6ディーゼルを新開発してCX-60に搭載するなど力を入れているが、こと乗用車に関しては、クリーンディーゼルは今後生き残ることができるのだろうか?

 マツダはマイルドHVは組み合わせているが、ストロングHVは持っていない。また、マツダは現在尿素SCRを搭載しないシステムを採用しているが、今後排ガス規制が厳しくなれば採用する可能性があることも示唆している。否が応でも迫られる電動化にどこまで対応できるのだろうか?

 まだインフラが整っていないので普及が遅れるEVも、そのうち勢力を伸ばすことになるであろうし、世界的に見ても法規制がどんどん厳しくなると考えられる。そんな未来でのクリーンディーゼルの勝算はあるのか!? 考察いただければと思います。

文/桃田健史
写真/Audi、MAZDA

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■欧州の新車登録台数でハイブリッドに逆転されたクリーンディーゼル

 クリーンディーゼルは今後、どうなっていくのか? いまいま、そんな疑問を持っている人が少なくないかもしれない。なぜならば、少し前まではディーゼル王国だった欧州が近年、完全EVシフトに向かって突き進んでいるからだ。

 ところが、日本での事情は欧州とは異なる。直近ではフォルクスワーゲンの8代目「ゴルフ」や、アウディ「Q2」でTDIが新たに日本導入された。

2Lディーゼルターボを搭載したアウディ Q2が新たに日本導入された

 また、日系メーカーの中で最もクリーンディーゼルに熱心なマツダは、FRプラットフォームを採用した新モデル「CX-60」にクリーンディーゼル搭載モデルをラインアップした。こうしたEVシフトとクリーンディーゼルとの関係は、一体どうなっているのだろうか?

 まずは、欧州での市場状況から見ていこう。欧州自動車工業会は2022年2月に、2021年新車登録台数に関するデータを公開している。

 それによると、乗用車の燃料タイプ別では、ガソリン車が40.0%、ディーゼル車が19.6%、ハイブリッド車も同じく19.6%、EVが9.1%、そしてプラグインハイブリッド車が8.9%だった。

 ディーゼル車とハイブリッド車の販売実数を詳しく見ると、それぞれ190万1191台と190万1239台となり、ハイブリッド車のほうが極差でディーゼル車を上回る結果となった。

 ディーゼル車の販売台数は、前年比で31.5%減と大きく落ち込んだため、ハイブリッド車に対して史上初めて販売数でディーゼル車が負けてしまったのだ。

新開発の3.3L 直6クリーンディーゼル搭載モデルをラインアップするマツダ CX-60。欧州市場を意識していることから、e-SKYACTIV-Dは48Vマイルドハイブリッドを組み合わせている

 こうしたディーゼル車の劣勢の背景には、欧州でのCO2規制の影響が色濃い。そもそも、2000年代からメーカー各社は「将来的に欧州のCO2規制(実質的な燃費規制)が世界で最も厳しくなることは確実で、エンジン開発では欧州を最優先にせざるを得ない」という姿勢を示してきた。

 そのため、トヨタをはじめとして欧州でのハイブリッド車拡大の動きが広がり、またドイツ勢ではプラグインハイブリッド車の新規開発が強化してきた。

 そうした流れが、前述のようなハイブリッド車とディーゼル車の販売台数の逆転劇を生んだといえるだろう。今後はさらに、欧州でのディーゼル車販売台数が減少することが確実視されている。

 なぜかといえば、欧州委員会(EC)が掲げている「2035年までに、欧州域内では新車は(事実上)EVまたはFCV(燃料電池車)のみ」という世界で最も早く完全EVシフトを実現しようという方針があるからだ。

 では、欧州はなぜいま、ここまで思い切ったEV政策を打つのか? その裏には、欧州全体でESG投資を経済に取り込もうという政治的な思惑がある。

 ESGとは、E(エンバイロンメント:環境)、S(ソーシャル:社会性)、G(ガバナンス:企業統治)を意味する。これまでのような財務情報だけではなく、ESGという要素を重要視する企業経営や投資のスタイルが必要となってきたのだ。

 日本でも最近よく耳にするSDGs(国連・持続可能な達成目標)とESG投資は密接に連携する関係にある。

 2010年代半ば過ぎになり、ESG投資がグローバルで猛威を振るい始め、欧州では政治主導での経済施策として、CO2規制に対するハードルがさらに引き上げるという議論に進んでいった。

 その結果として、2035年での欧州域内EVシフトでは、ガソリン車やディーゼル車のみならず、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車も含めないという、文字どおりの完全EVシフトを掲げるに至ったといえる。

■多角的な戦略の日本 バイオディーゼル燃料の量産開発も推進

 欧州での政治的な動きを受けて、欧州メーカーの中では英国のジャガーや、スウェーデンのボルボなど完全EVブランドへの転身を決断するメーカーも出てきた。

 その一方で、フォルクスワーゲンやアウディは、I.D.シリーズやe-TronなどEVブランドを展開するのと並行して、日本市場向けには最新TDIを導入するなど、これまでどおり多様なパワートレインを導入する戦略をとっている。その理由は、販売する国や地域の社会実情には大きな違いがあるためだ。

 これは、マツダも同様だ。マツダの丸本明社長は常々「社会インフラに応じて、導入するモデルやエンジンラインアップが異なるのは当然のこと」という経営方針を示してきた。

 その上で、サスティナブルZoom-Zoom宣言を基に、2012年のCX-5を筆頭に始めたマツダ第六商品群、CX-30を皮切りとしたスモール商品群、そしてこのたびCX-60から導入を進めるラージ商品群のそれぞれで、クリーンディーゼルSKYACTIV-Dの熟成を進めてきた。

 そもそも、SKYACTIV-Dは、ディーゼルエンジンのクリーン化で大きな課題であるNox(窒素酸化物)に対する高い対応力により、その名を世界に轟かせた。ドイツメーカー各社はSKYACTIV-Dに対して「排ガスの後処理でのコストが極めて低いことに驚く」とコメントしてきた。

 最新型の縦置き3.3Lクリーンディーゼルについても「トルクアップと燃費、さらにエミッションの低減を実現している」(マツダエンジン開発幹部)という発想が欧州メーカーの度肝を抜いた。従来の2.2Lに比べて、全トルク領域で燃費が向上し、また高トルク領域でNoxを低減しているからだ。

最新型の縦置き3.3Lクリーンディーゼル「SKYACTIV-D 3.3」。尿素SCRなしで現状の排気規制をクリアしている

 マツダはSKYACTIV開発当初から「理想の燃料に向けたロードマップ」として、燃焼にかかわるさまざまなパラメーターに対する研究開発を愚直に進めてきた。その中で、クリーンディーゼルについてもマツダ独自の量産技術を確立してきたという自負がある。

 その技術は、日本を含めてさまざまな国や地域のユーザーから大きな支持を得ている。そのうえでマツダは、これからもクリーンディーゼルを、EV量産と並行しながら、量産を続けている構えである。

 さらに、日本のスーパー耐久レースを舞台に、バイオディーゼル燃料の量産化に向けて、ユーグリナや大学などと共同開発する社内プロジェクトを積極的に推進している。

 また、日本自動車工業会としても、「敵は酸素」「頂点に向けた山の登り方はさまざまある」といった表現で、欧米でのCO2規制とは一線を介するかたちでの、EV、水素、クリーンディーゼルなど多角的な戦略でカーボンニュートラル実現を目指しているところだ。

 このように、クリーンディーゼルは、これからもまだまだ進化するポテンシャルを秘めている。

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