新時代のラリー1マシンが深刻な熱問題を抱えているということが、WRC世界ラリー選手権第4戦『ラリー・ポルトガル』で明らかになった。
ポルトガルは気温が30度に届くか届かないかで、まだそれほどは暑くなかったが、それでもマシンによっては車内温度が70度に達し、選手が熱中症になったり、ドライビングシューズが溶けたりといった問題が多く発生。2週間後に開催される第5戦『ラリー・イタリア・サルディニア』に向けて、早急な改善が求められた。
■エアインテークの形状を変更したトヨタ
FIA国際自動車連盟もその緊急性を理解し、車内温度を下げるためならばレギュレーション変更に関しても柔軟に対応すると譲歩したようだ。
クルマを外から見て、形状が変わったと分かるのはトヨタGRヤリス・ラリー1。車内に外気を取り込むためのルーフベンチレーターの形が変わり、開口部が横方向に広くなっている。前戦ポルトガルで、勝田貴元はダストでルーフベンチレーターの開口部が目詰まりし、車内温度が上がって集中力を失いかけたと語っていた。
2週間の短いインターバルで、それを改善したのはさすがといえるが、ボディ形状の変更についてはFIAから特例を認められ、ホモロゲーション適用外となったようだ。
■ヒョンデの策は効果なし?
一方、ヒョンデi20 Nラリー1は、ルーフベンチレーターの形状は変わらず。ルーフ全体にゴールドのサーモシートを貼ることで対処しようとした。
ルーフベンチレーターを大型化すると空力的にはマイナスとなるため、エンジニアとしてはできればやりたくない。そこで、ゴールドのフィルムを貼ることで車内温度を下げようとしたようだが、ドライバーからは「全然涼しくならない、暑いままだ」と不満の声が挙がっている。
サルディニアはポルトガルの時より気温は5度以上高く、週末は40度以上になるという予報もある。ヒョンデのドライバーたちは、戦々恐々としているに違いない。
かつて、WRCでは元世界王者のリチャード・バーンズがとくに暑さに弱く、何度か熱中症になった。そこで、プジョー時代は小型のエアコンを特別に装着し、車内温度を下げていた。
「重量が増えたりパワーが僅かに減ったとしても、ドライバーが本来の力を発揮できる環境を整えるほうが結果的にプラスだ」と、当時バーンズは語っていたが、それは間違いないだろう。車内温度に関する規定を設けているWEC世界耐久選手権のように、WRCでも同様のレギュレーションを設定すべきではないかと思う。