2022年3月18日、ポルシェがドイツ本国で発表した電動化計画で、718シリーズを2025年までにEV化することが決定したと明かした。
日本でもEVスポーツカー「タイカン」を発売しているポルシェが、既存のモデルをEV化すると発表した最初の動きとなる。しかしEV化で、これまで内燃機関だったからこそ楽しかった走りや高揚感が、失われてしまう可能性はないのだろうか?
718シリーズのEV化をはじめ、タイカンやその他ポルシェの電動車を含めた、走りだけでなく会社的な面も含めたEV戦略は成功しているのか考察していきたい。
文/松田秀士、写真/PORSCHE
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■レースフィールドで磨かれた確かな技術をもつポルシェ
ポルシェはかねてから電動化を発表していた。それが2015年のフランクフルトショーで発表された「ミッションe」だ。
そのコンセプトモデルはその後「タイカン」となって2019年の同じくフランクフルトショーで初公開。
その年の11月、筆者自身もWCOTY(ワールドカーオブザイヤー)の選考試乗会(米国・ロサンゼルス)で試乗し圧倒的なパフォーマンスに驚いた。初めてリリースしたBEVがこれほどのパワーとコーナーリング性能を持っていること、ポルシェの持つ技術力に驚愕したものだった。
そして、ここにきてドイツ本国で2022年3月18日、718シリーズを2025年までにEV化することを発表。5月16日には「718ケイマンGT4」をEV化したコンセプトカー「718ケイマンGT4eパフォーマンス」を欧州で発表したのだ。
このスペックがスゴイ! 前後アクスルに高性能モーターの「PESM(永久励磁シンクロナスモーター)」を搭載し4WDのシステム出力は1088ps!
ちなみにタイカンのトップパフォマーであるTurboSはローンチコントロール使用時に761psで0~100km/h加速は2.8秒でその加速はすさまじい。いかにケイマンGT4eパフォーマンスが強烈かわかる。
ケイマンGT4eパフォーマンスでさらに驚くのは、レーシングモードでこの出力を30分間一定に保つことが可能だということ。
モーター&バッテリーを直接油冷しているとのことだ。水ではなく油を使う理由は、モーターを確実に冷却するためにはモーターそのものとシャフト内部も冷却する必要があり、そのためには油で冷却するのが適しているからだ。
そこで気になるのがリチウムイオンバッテリー。こちらも油冷とのことだが、バッテリー内部の温度が50℃を超えると性能が低下してパフォーマンスを保てない。30分間も維持できるということはモーターだけでなくバッテリーにも進化した技術が採用されているものと思われるのだ。
ちなみにケイマンGT4eパフォーマンスには900Vの急速充電テクノロジーが採用されているとのことだが、この点においてもタイカンでは800Vなので対応するインバーターも能力アップが図られていることになる。
日本国内の急速充電器は400V強ぐらいなので倍以上。電流(A-アンペア)を上げると電線が熱を持つため電圧(V-ボルト)を上げたほうが電線を細く軽くできるのだ。
また充電速度は急速充電器側の出力(kW)とクルマ側の入力(kW)によって変わる。タイカンのMax charging performanceはDC(直流)270kW。ポルシェディーラーなどでは150kWの出力を持つ急速充電器を設置している。
日本国内の急速充電器の一般的な出力は50kWで最近90kW級が設置され始めている。
欧州などでは350kWのものも出現していて、急速充電器の出力向上もBEVにとっては重要な課題なのであるが、日本国内では法規の規制もありやみくもに出力を上げることはできないのが現状。当たり前だが高電力にはリスクが付きまとう。
■タイカンとは違う考え方の718シリーズの電動化
さて、BEVのエネルギーである電気とはガソリンとは違ってさまざまな問題があり、安全基準がある。どこかの誰かがエンジンをモーターに置き換えれば簡単! のような発言も聞かれたが、実際はそれほど簡単ではない。しかも今ポルシェが遂行している高性能BEVともなればハードルは非常に高い。
ではこのケイマンGT4eパフォーマンスはどんな走りを見せるのだろう? 718ケイマンがベースモデルなのだからタイカンのように一からBEVとして開発したモデルではなく、あくまでコンバートEVのようにガソリンモデルをBEVに置き換えているわけだ。
これほどのパワーを絞り出すのだからバッテリー容量もそれなりに必要。おそらくガソリンタンクのあるフロントとリアラゲッジにもバッテリーを搭載し、もしかすると床下にも敷き詰められているかもしれない。
問題は車重でタイカン ターボSは2330kg。もしケイマンGT4eパフォーマンスが2000kg前後の車重なら胸躍る! その走りはすさまじいものになるだろう。BEVの魅力はアクセルレスポンス。ほぼデジタルでドライバーの右足と連動したコントルールが可能だ。
最近のガソリン車はほとんどが電子スロットルでコントロールされているから、いかに我々ジャーナリストがこのクルマはピックアップが素晴らしい! と言ったところでBEVの比ではない。
特にガソリン車も最近では環境面からマルチシリンダーを敬遠する傾向にあり、1爆発行程(4サイクル)に2回のクランクシャフトを回転させる内燃機関とは質も量も異なるのだ。
ただし、だからといって内燃機関はダメと言っているのではない。内燃機関のアクセルコントロールには予知、予測というインテリジェンスが必要ななのだから、人の想像力をたくましくしてくれる。さらに音や振動、そして匂いはBEVで体験することはない。
つまり、ハンドリングだけをとればケイマンGT4eパフォーマンスの走りは素晴らしいモノだろう。なんといってもポルシェが味付けするのだから。
デジタルなアクセルコントロールと前後協調のトルクベクタリングや自在なプログラミングによってスリップコントロールも可能になるはず。重量がもたらす慣性との闘いを、逆に楽しむ領域に昇華させている予感がするのだ。
■ポルシェもBEVメーカーになる!? ポルシェが狙うこれからの展望
さて、ではポルシェがBEVメーカーになっていくのだろうか? ボクはなっていかないと思う。
BEVオンリーにはならないがxEVメーカーにはなっていくものと思われる。BEVのBはバッテリーで純EVのこと。xEVのxはBEV以外にハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池車を含めたEVの意。そう電動化であり必ずしもBEVオンリーではない。
ポルシェは2030年に新車販売の80%を電動化するとしているが、これはxEVのことなのである。ポルシェの世界販売台数は約30万台で全世界シェアはわずか0.3%程度。非常に利益率の高いメーカーだ。
2025年には約50%がxEVとなりその大部分をBEVが占めるとされていて、残りはプラグインハイブリッド。今後マカンなどのSUVもBEV化されていくだろう。それでも2025年50%→2030年20%の内燃機関が元気に走り回っているはず。
30万台という生産規模だけに、電動化においてもこのような思い切ったストラテジーが立てられるわけで、ほかの大メーカーとは立ち位置が異なる。テスラからタイカンに乗り換えるセレブが増えていると聞く。ポルシェのEV戦略は軌道に乗ってきているのではないだろうか。
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