トヨタの人気ミニバンノア&ヴォクシーが新型へと生まれ変わった。その新型において大きな変更があった。それは全車が全幅1700mm以上の3ナンバーモデルになったことだ!
先代までは5ナンバーサイズの標準ボディと3ナンバーサイズのエアロモデルの設定があったのだが、新型では思い切って標準ボディを廃止したのだ。
この大変革の背景を渡辺陽一郎氏に分析してもらった。
文/渡辺陽一郎、写真/ベストカー編集部
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■新型ノア&ヴォクシーから5ナンバーサイズが消滅!
2022年に発売された新型車の中で、特に注目されるのが1月に登場した現行ノア&ヴォクシーだ。売れ筋のミニバンで、新型はエンジン、ハイブリッドシステム、プラットフォームなどをすべて刷新させた。衝突被害軽減ブレーキを始めとする安全装備、運転支援機能も大幅に進化している。
そのためにノア&ヴォクシーは、各種の機能がミニバンの中で最も先進的だ。特にハイブリッドシステムのTHS IIは、ほかの車種に先駆けて第5世代に進化したから、膨大なトヨタ車の中でも設計が一番新しい。
ノア&ヴォクシーで、もうひとつ注目されるのがボディサイズだ。ノアは標準ボディとエアロ仕様、ヴォクシーはエアロ仕様のみを用意するが、先代型ではノアの標準ボディは全幅が1695mmに収まり、5ナンバー車になっていた。エアロ仕様は、先代型から3ナンバー車であった。
それが新型では、標準ボディ、エアロ仕様ともに全幅を1730mmで統一され、全車を3ナンバー車にした。5ナンバーサイズの標準ボディは選べない。
なぜ新型ノア&ヴォクシーは、3ナンバー専用車になったのか。
■ノア&ヴォクから5ナンバーサイズが消えた理由
一番の理由は、プラットフォームの刷新だ。先代ノア&ヴォクシーのプラットフォームは設計が古かった。そのために現行ハリアーに搭載される設計の新しい直列4気筒2Lエンジン、第5世代のハイブリッドシステム、さらに各種の先進安全装備などは、プラットフォームを刷新しないと採用できなかった。
新しいプラットフォームは、プリウスから採用を開始したGA-Cと呼ばれるタイプだ。このプラットフォームを使って、全幅が1700mm以下の5ナンバー車を開発すると無理が生じるため、すべて全幅が1730mmの3ナンバー車になった。
全車を3ナンバー車にした背景には、ユーザーの全幅に対する認識の変化もある。以前のノア&ヴォクシー、セレナ、ステップワゴンは5ナンバーサイズにも魅力があったが、最近のエアロパーツを装着したグレードは、すべて3ナンバー車だ。
しかも3ナンバーサイズでエアロ仕様の先代ノアSi&ヴォクシーZS、セレナハイウェイスター、ステップワゴンスパーダは、販売比率が5ナンバーサイズの標準ボディよりも高い。そこでノア&ヴォクシーは、全車を3ナンバーサイズに拡大して、プラットフォームを始めとするクルマ造りを刷新した。
ノア&ヴォクシーのボディサイズについて、販売店に尋ねると以下のように返答された。
「ノアやヴォクシーのお客様は、全幅などボディサイズを気にされるが、5ナンバー車というカテゴリーにはこだわらない。先代型の時点で、ノアの標準ボディは5ナンバー車だったが、多く売られていたのは、ノア、ヴォクシーともに3ナンバーサイズのエアロ仕様だった」。
それなら5ナンバーサイズにこだわるミニバンのユーザーは、今ではいなくなったのか。この点も尋ねた。
「ミニバンを購入するお客様にも、5ナンバーサイズにこだわる方はおられる。最も多いのは、自宅の駐車場所が狭く、なるべく全幅を抑えたい場合だ。運転が苦手で3ナンバー車はダメ、というお客様もいる。そのような方は、シエンタを選ばれることが多い」。
ノア&ヴォクシーが3ナンバー専用車になり、トヨタで唯一の5ナンバーミニバンとなるシエンタの役割が、従来以上に大切になった。
■ノア&ヴォクシーのイメージが変わっていく
それでもノア&ヴォクシーの3ナンバー化には、ひとつ心配なことがある。それは売れ筋は従来型から3ナンバーサイズのエアロ仕様になっていたが、5ナンバーサイズの標準ボディも併せて用意されていたことだ。
登録台数は別にして、先代型のノア&ヴォクシーやステップワゴン、現行セレナには5ナンバー車があり、3ナンバーサイズのエアロ仕様は、その発展型に位置付けられた。これは5ナンバーサイズのミニバンというイメージをもたらす。
それなのに現行型のノア&ヴォクシーとステップワゴンは、5ナンバー車を廃止した。2022年の後半から2023年に登場する次期セレナも、現行型の売れ筋がハイウェイスターだから、3ナンバー専用車になる可能性が高い。ミドルサイズミニバン全車に通じる印象として、以前の馴染みやすさが薄れるかも知れない。
今の商品開発は「3ナンバーサイズのエアロ仕様が圧倒的な人気を得て、5ナンバーサイズの標準ボディは不人気だから、もはや5ナンバー車は用意する必要がない」というものだ。
この判断が正しいか否かは、5ナンバー車を廃止した直後の現時点では分からない。売れ行きの乏しい5ナンバーサイズの標準ボディが、一種の求心力として、エアロ仕様の陰で人気を支えていた可能性もある。
そして実際に、今でもミニバンに限らず5ナンバー車の人気は高い。2021年に国内で販売された乗用車の内、約35%を軽自動車が占めた。軽自動車も5ナンバー車に分類される。また5ナンバー車を中心としたコンパクトカー&5ドアハッチバックも、約25%のシェアを持つ。
軽自動車とコンパクトカー&5ドアハッチバックだけで、乗用車シェアの60%に達するから、シエンタとフリードのような売れ筋の5ナンバーミニバン、ライズなど5ナンバーサイズのSUVも加えれば、日本で売られる乗用車の70%以上が5ナンバー車で占められる。
この販売比率が定着している中で、ノア&ヴォクシー、ステップワゴン、セレナが3ナンバー専用車になると、売れ行きに悪い影響が生じる可能性もある。これらのミニバンの売れ行きは「日本の5ナンバー車の価値」まで明らかにするわけだ。「税金が同じだから、3ナンバー車でも構わない」という単純な話ではない。
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