創設2年目となる2022年から、当初の計画どおり“グローバル・シリーズ”へと変貌を遂げる北米発の『Nitro Rallycross(ナイトロ・ラリークロス/NitroRX)』に向け、フル参戦を表明している元F1王者ジェンソン・バトンだが、新規導入が予定されるフルエレクトリックSUVによる『グループEクラス』出場に際し「事前の契約上の約束」を基準に3戦の欠場を表明。そこには地元イギリスでの開幕戦リデンヒルも含まれており、代役にはWRC世界ラリー選手権5勝を記録するクリス・ミークの起用がアナウンスされた。
北米での初年度を終え、今季2年目を迎えるシリーズは、この6月のイギリス・リデンヒルからスウェーデン、フィンランド、カナダ、サウジアラビアなど3大陸を経て、2023年3月に地元北米でフィナーレを迎える全10戦のカレンダーを公開。改めて、創設当初から掲げてきた「世界進出の野望」を具現化させることとなった。
その世界戦に向け、同じくイギリス出身でWorldRX世界ラリークロス選手権や、電動オフロード選手権のエクストリームEに参戦するオリバー・ベネットとタッグを組み、彼が率いるエキサイトエナジー・レーシングからのエントリーを計画していたバトンだが、リデンヒルを筆頭にスウェーデンでの第2戦と12月のサウジアラビア戦を欠場することとなり、代わってWRC時代にはシトロエンやトヨタで活躍したミークが合流することになった。
「こうしてエキサイトエナジー・レーシングに合流できることにとても興奮しているよ。オリーが僕に連絡してくれたとき、僕もチーム、マシン、そしてチャンピオンシップなど、あらゆる側面に本当に興味を持っていたからね」と語った42歳のミーク。
そのミークがドライブする予定の『FC1-X』は、モーター出力約800kW(約1070PS)、最大トルク1100Nmという途方もないスペックを持ち、0-100km/h加速はわずか1.4秒。最高速は180マイル(約290km/h)をマークするなど、現行の内燃機関スーパーカーと比較しても圧巻のパフォーマンスを誇る。
「周知のとおり、ラリークロスは電動化に完全に適したモータースポーツ・カテゴリーだ。短くて鋭いレースで、信じられないほどのパワーを瞬時に利用できる。それがうまく管理されていれば、これは確かに明るい未来になる可能性があり、オリーやエキサイトエナジー・レーシングと一緒にその一部になることは、本当に素晴らしいことだ」
■2度のテストで1000馬力超えのEVドライブを経験済み
ミークはすでにスペイン・バルセロナのNitroRX主催の合同テストに参加し、2度の『FC1-X』ドライブを経験。最初のセッションこそ雨で妨げられたものの、その経験に「感銘を受けた」という。
「僕がこのクルマをドライブしたときはコンディションが万全でなく、路面は非常に濡れてぬかるんでいた。それでも、クルマだけでなくトラビス・パストラーナが生み出しているシリーズ全体に、大きな可能性をすぐに感じたよ」と続けたミーク。
自身の兄が所有するテスラを引き合いに、そのロードカーを除いて「EVの経験はほとんどない」というミークだが、もちろん競技経験もなく「これが僕の最初の冒険で、学ぶべきことがたくさんある」と続ける。
「モータースポーツでは、キャリアを通じて燃焼する内燃機関をドライブしてきたし、エンジンの弾力性や、それがどのように機能するかという本質的な感覚を得てきた。でも、これはまったく異なるものだ」とミーク。
「このクルマは一瞬でピークトルクを発揮し、1000PSの出力を解放できる。それは確かにラリークロスの未来になるだろうね。最短期間でそれに適応するのはちょっとしたハードルだが、それが僕たちがここで学ぶことであり、リデンヒルでの最初のイベント(6月18~19日)まで、残された時間はさほど多くない」
一方、バトンとともに新規プロジェクトを立ち上げたベネットは、2009年のF1チャンピオン不在の間にも「注目を集めるモータースポーツ・スターの異なる一歩を踏み出す機会が作れて、本当にうれしく思う」と述べた。
「世界のモータースポーツで、別の伝説と実績を持つスターを招き入れることができて、本当に光栄に思うよ。クリスはWRCでの優勝経験はもとより、WRカーという世界最速のラリーカーの開発で豊富なノウハウを持っている。その知見がチームに注入されるんだからね」と続けたベネット。
「その経験は、とくに最初のいくつかのイベントで非常に貴重だ。彼はジェンソンと僕に、第2戦、第3戦とシーズン序盤以降に、良いマシンのベースを与えるのを本当に助けてくれるだろう。今季は素晴らしいものになりそうだ!」