SS(スペシャルステージ)と呼ばれるコースを間隔をあけて1台ずつ走行するラリーでは、スタート順がタイムに大きな影響を及ぼす。とくにグラベル(未舗装路)ラリーの場合、スタート順が早い選手は1kmあたり1秒前後の遅れをとることもあるが、それはなぜか?
グラベルラリーでは、路面が乾いていると道の表面にある土や小さな砂利が浮き、それが“ルーズグラベル=滑りやすいグラベル”となる。とくにヨーロッパの道は、硬い岩盤や締まった土の表面がルーズグラベルに覆われていることが多く、タイヤがグリップしにくい。そのため、ステージを最初に走るドライバーは、ルーズグラベルに足をとられ、それを掃き飛ばしながら走らなければならない。だから、大きくタイムロスをしてしまうのだ。
やがて、何台かのマシンが通過するとルーズグラベルは徐々に掃けていき、下からグリップが効く路面が現れる。つまり、出走順が早いドライバーは、後方スタートの選手たちのために、路面を掃除しながら走っているようなものだ。WRCではそれを“ロードクリーニング”と呼び、クリーニング効果が大きい、小さいなどと、その度合いを表現する。
とくに不利なのは、出走順が1番手のドライバーだ。ラリーカーが1台も走っていないと、ルーズグラベルが多くあるだけでなく、路面に走行ラインが刻まれていないため、ブレーキングポイントも掴みにくい。ルーズグラベル路面では横方向のグリップも低くなるが、それ以上にブレーキングや加速時の縦方向のグリップ不足が不利に働くという。
では、WRCのステージ出走順はどのように決まるのか? 初日に関してはドライバー選手権のランキング順で、上位の選手から順にスタートする。
今季のWRC世界ラリー選手権は第3戦クロアチアが終了した時点で、2勝を挙げているトヨタのカッレ・ロバンペラ(GRヤリス・ラリー1)がランキング1位。つまり、彼は次戦の第4戦ポルトガルを1番手でスタートすることになるが、ポルトガルはグラベルラリーだ。ドライコンディションの場合は地獄を見ることになるが、それは速く、強い選手の宿命。世界チャンピオンとなった多くの選手は、こうした出走順の試練を克服してタイトルを勝ちとってきたのだ。
WRCの2022年シーズンは、第4戦ポルトガルから第8戦フィンランドまで5戦連続でグラベルラリーが続き、もしロバンペラが選手権首位を守り続けた場合、毎回、ステージの“掃除役”を担当しなければならず、相当不利な状況が続く。
ただし、選手権トップのドライバーが1番手でスタートするのは“初日”のみ。翌日以降は、前日のリザルトがクラス上位の選手に関してはリバースオーダー、つまり総合順位が低い選手からスタートすることになる。ポルトガルで、ロバンペラが頑張って初日を総合5番手くらいで終えることができれば、翌日は早い出走順から開放されるが、そう簡単なことではない。グラベルラリーでの初日の遅れは、挽回が非常に難しいのだ。
■基本的に、ラリーの初日は金曜日
ひとつ述べておかなければならないのは、出走順における“初日”の概念だ。ラリーによっては、1日を通してステージを走行する金曜日の前日、木曜日の夕方などに市街地やショートサーキットでSSS(スーパーSS)が実施されることもあるが、これは主催者が任意に出走順を決めることができる。
つまり、選手権ランキングトップの選手が出走順1番手で走行するのは、基本的には本格的なステージを走る“フルデイ”の金曜日からとなるのだ。ドライバーが「初日は出走順が1番手だから不利だ」など展望を述べることがあるが、これは通常金曜日のフルデイのことを指している。
以上のように、グラベルラリーでは通常出走順が1番手のドライバーが大きなハンデを負うことになるが、これがウエットコンディションだったり、土煙で視界が悪かったり、ターマックラリーだったりすると話が大きく変わってくる。それについては次回、説明したいと思う。