WEC世界耐久選手権の第2戦に出場しているドライバーたちは、スパ・フランコルシャン・サーキットのオー・ルージュ周辺の改修、トラックサイドのグラベル、部分的に行われた再舗装など、オフシーズンに行われたサーキットの変更について意見を寄せている。
安全性の向上とコース運営の多様化を図るため、2500万ユーロを投じた大規模な施設改修が冬の間に行われた。ハイレベルなモーターサイクルレースの開催地として、FIMグレードCに認定されたこともその一環だ。WECはこの改修後のスパで行われる、最初のビッグイベントとなる。
特筆すべき変更点としては、ラディヨンのターマック・ランオフエリアの拡大、オー・ルージュ進入のバリアの位置の変更、そしてこの象徴的な登り坂を見下ろす4600席のグランドスタンドなどが挙げられる。
さらにオー・ルージュからラディヨンへの複合エリアと、ブリュッセルからプーオンまでのセクター2序盤においては、コースの再舗装も行われている。
また、いくつかの舗装されたランオフエリアにはグラベルが敷かれ、ターン9とスタブローなどでは、トラックリミットの境界線に近い場所まで、グラベルとなっている箇所がある。
サーキットのコース長やレイアウトは変わらないものの、これらの変更によってマシンのステアリングを握った時のドライバーの感覚は変化しているようだ。
ユナイテッド・オートスポーツUSAのLMP2ドライバーであるフィル・ハンソンは、「オー・ルージュは再舗装によって、あのバンプはもうなくなったんだ」と語っている。
「(性能調整による)ダウンフォースとパワーの削減で遅くなっている分、そこでどれほどグリップが上がっているのか把握するのは難しい。去年より8km/hくらい、遅くなっているからね」
「だからもう、コーナーというものではない。アウトラップは全開なんだ」
「コースの残りの部分は、ターン8(ブリュッセル)とターン9にいくまでは、以前とよく似ている。そこでは再舗装がなされていて、よりグリップを感じられる」
「ターン8はリヤのトラクションという面で非常に難しいコーナーだった。エイペックスに右フロントタイヤを載せないと、アンダーステアでコースアウトしてしまうものだった。いまはボトムスピードが高くなったため、以前より早くブレーキペダルから足を離す必要がある」
「縁石があり、再舗装区間がまだ続く9コーナーでは、高いスピードを出せるから、鋭角ではなく丸みを帯びたライン取りが必要だ。したがって、ボトムスピードはさらに速くなっている」
これまでのセッションはすべてドライコンディションで行われたため、再舗装された高速セクションがウエットコンディションにおいてどのような影響を与えるのかは、まだ分かっていない。
ハンソンは、LMP2車両が今季さらなる性能削減を受けていなければ、ラップタイムは昨年よりもコンマ3〜4秒ほど速くなっていただろうと推測している。
またハンソンは、ランオフエリアにグラベルが追加されたことにより、コースの一部が窮屈になったと考えている。ラ・ソースとファーニュの出口、そしてレ・コンブを抜ける右側には、特に注意すべきグラベルトラップが存在している。
■グラベル追加という“リスク”を喜ぶドライバーたち
トヨタGAZOO Racingのブレンドン・ハートレーは、新たなグラベルエリアの導入によって、リスクが高まっていると感じている。
「レイアウトはそれほど変わっていないが、いたるところにグラベルがあり、ミスをしてグラベルに突っ込んでしまうリスクが高くなった」とハートレー。
「ある意味、僕はこういったハイリスクな場所が好きなんだ。前のラップよりも20mブレーキを遅らせる前に、もう少し考えるようになるからだ」
「実際、僕らプロのドライバーはこういうのが好きだ。赤旗やセーフティカー、フルコースイエローが増えるかどうかは分からない。そうでないことを願うよ」
「もしかしたら、より高いリスクがあることを知っているドライバーたちを、一歩後退させることになるかもしれない。ふたつにひとつだ」
ポルシェGTチームのケビン・エストーレも、いくつかのランオフエリアにグラベルが導入されたことを喜んでいるが、オー・ルージュもそれに含まれるべきだったと考えている。エストーレはオフの改修により、このコーナーの難易度が下がったと考えているという。
「全体的に、僕にとってはどこもポジティブだ」とエストーレ。
「グラベルを追加したのは、いい判断だった。オー・ルージュは新しいアスファルトによって以前よりも少しグリップが良くなっている。同時に、過酷なプレッシャーが少なくなっている」
「この点だけはまったく同じにして欲しかったが、そうはならなかった。僕としては、オー・ルージュの左側にグラベルがあった方が良かった。なぜなら(進入左側の)ウォールを取り除き、上部のバリアもより左側へと移されたことで、とてもオープンでイージーなイメージがもたらされているからだ。以前よりも、ずっと簡単になっている」
「正直なところ、グラベルがあった方がいい。ドライバーとしてはミスをしたらグラベルに行くことが分かっている方がいいし、トラックリミットも犯したくない。オー・ルージュとブランシモンを除き、皆どこでもそれを犯してしまう」
ハンソンは、オー・ルージュへのアプローチにあるバリアの位置が変更されたことにより、この有名なコーナーへ進入する際に感じていたある種の“視野狭窄”を取り除くことができていると指摘する。
「オー・ルージュに向かうとき、左側に壁がないのはちょっと変な感じだね」と彼は言う。
「オー・ルージュへの視野狭窄のようなものがなくなって、少し開放的な気分になる。もう少し、見下ろすような感じになるんだ」
一方エストーレは、オー・ルージュのアプローチがオープンになったことで、このコーナーがGTEドライバーに要求する“敬意(リスペクト)”のようなものが失われたと指摘する。
「オー・ルージュはフラットだがギリギリのところにあり、敬意を払わなければならないコーナーだ」と彼は指摘する。
「そのリスペクトはいま、僕らにとって、より少ないものになっている。このチャンピオンシップのためではなく、もっと若いドライバーがいる他の選手権では、このコーナーに対してもっと敬意を払う必要があるかもしれないが……それはそれでいい。全体としては、いい変更だと思っている」
スパの改修は今後も行われ、2023年にはラ・ソースからオー・ルージュへと向かう下り坂脇に、スタンドとテラスが再登場する予定となっている。