厚生労働省の統計によると、トラックドライバーの令和2年の年間賃金は全産業平均に比べて、大型トラックで約7%、中小型で約14%低いそうです。そのいっぽう、年間労働時間は全産業平均よりも大型トラックで432時間ほど長くなっているという。
となれば、時まさに春闘の季節、道路貨物運送業の従業員、中でも拘束時間・勤務時間の長いトラックドライバーは、声を大にして「お給料を上げてください!」と訴えたくなるのでは!? と思ったのですが、そんな単純な話ではないようです。
ドライバー不足の世の中、給料アップに追い風が吹いている今こそ、トラックドライバーの声に耳を傾けてほしいと思います。ベテランドライバーのみゆさん・ひろしさん・ヒデさんに給料について語ってもらいました。
文/みゆ・ひろし・ヒデ 写真/フルロード編集部・Adobe Stock(トップ画像=taka@Adobe Stock)
*2017年3月発行「フルロード」第24号より
■不透明な運賃を「見える化」すればダンピングも減るのでは?/みゆ
「お給料を上げてください」と皆さんは、経営者側に直接訴えかけてみたことはあるのでしょうか? 残念ながら私自身はそのような経験がないというか、不満と思った際には転職という別な手段を取らせてもらっていました。
もし勇気を振り絞って言っていたとしても、経営者側にも人件費以外に多額の車両経費や何やら(って何?)と苦労があるのでしょうから、双方が納得のいく形でというのはナカナカ厳しく、「じゃ来月の給料から上げましょう」と承諾して頂くのは不可能に近いと思われます。
仕事があればの話ですが「稼ぎたいのなら他人よりも走れ」と、自分が大変になるだけでしょう。私も約15年の間に数社の運送会社でお世話になってきましたが、良くも悪くも歩合制がある業界の特徴で、給料の計算方法や支給される手当は会社によってそれぞれ考え方が違います。
積み荷や仕事内容も違うので単純に比較することはできません。でも、寝る間も惜しみ(?)頑張ったぶんがきちんと給料に反映されているかどうか、疑問に思えてしまうことも時々あったりするワケで……。
しかし、飲食店のメニューのように誰が見てもわかる価格表示(運ぶだけなら○○円、荷扱いをドライバーに任せる場合はプラス××円という風に)を業界全体で義務化して「値引きには一切応じない!」となったら、ダンピングでの仕事の奪い合いも、安すぎる運賃で採算の合わない無理な仕事を引きうける会社も、ドライバー同士の不平不満も減るのではないか? と考えるのは甘いですかね?
ドライバーの仕事は長時間の労働を強いられるのは当然となっていて、1時間当たりの給料(時給)計算をしたら、求人広告で紹介されている「無資格でもOK」「誰にでもできる簡単な仕事」等の誘い文句のアルバイトのほうが割が良いのでは? と、不謹慎ながら思ってしまうことだってあります。
大型車両を運転するための免許、荷扱いするためのフォークリフト、クレーン等の資格がありながらそれでは悲しすぎますよね。
そして、生活に欠かせない必需品を届けるために一日の大半を費やして、危険と隣り合わせで走っているのですから、燃料(軽油)の価格や高速道路の料金で一般の方々よりも優遇されたり、もっと補助を受けることができても良いはずなのに? という思いもあります。
■輸送品質と運賃は比例します荷主さんにはそれをわかって欲しい/ヒデ
このご時世、なかなか満足いくお給料を貰っている方は少ないんじゃないでしょうか?
一昔前は、トラック運転手といえば手っ取り早く高収入を得られる、繁忙期ともなれば2~3カ月でウン百万円の収入。知人の中には繁忙期だけで1年分くらいのお給料を持って帰るなんて強者もおりました。
ただ、今の時代と比べたら労働環境もずっと悪かったでしょうから、ある意味皆さん命懸け、危険のリスクは何倍にもなっていたでしょうね。その分の対価としては妥当だったのかもしれません。
では、なぜ運転手の給料が下がってしまったのか? これにはさまざまな要因があるわけですが、大元はやはり90年台に施行された規制緩和でしょう。これにより新規参入業者が一気に増えて、運賃のダンピング等により適正運賃が保たれなくなったことが一つ。
さらに、利用運送業者(いわゆる水屋)が間に入ることで二次、三次と中間マージンを取って下請けに丸投げ。元の運賃の15万円が最終的に5万円前後にまでなる現実。これではどれだけ走っても利益を上げることはむずかしいでしょう。
そして燃料高騰。自分が業界に入った時で1L当たり82円くらいだったと思いますが、今や150円を超える時代。当時と比べるのもアレですが、1km走る毎に数十円ドブに捨てているわけですよ。
そこで、運送業界はどうしたかというと、とにかく走ったわけですね。少しでも利益を上げるために眠たい目をこすりながら……。そして現状がこちら。「ひたすら走る→事故が増える→指導が入る→走れなくなる→稼げなくなる→辞める」。
燃料高騰のしわ寄せが運送業界に重くのしかかってきているんです。そりゃお給料は下がりますわね。
そんなこんなで今世間で取り沙汰されているのが運転手不足問題です。正直、よっぽど「クルマが好き!」とかでもないと、今の業界には入れないです。SNSを通じて若い子達と話す機会があっても「一緒に働こうぜ!」とは言えないです。
それにしても、なんで今いる業界人を守ろう、去る人を減らそう! って考えにならないのかが不思議でしょうがない。「来る者拒まず、去る者追わず」じゃ、いつか本当に居なくなってしまいますよ。
運転手不足で困っているのは荷主さん側もそう。最近、よく荷主さんから自分の所に電話が掛かってきてこう言われます。「A~Bまでトレーラ探しているんだけど、クルマないかな? 言い値でいいから、なんとか探してもらえない?」。
これって物凄いことですよ! 規制緩和で数年前まで運転手は飽和状態に近かったのに、現状は正に不足! ごくごく普通の運転手の私にまで助けを求めてくる時代なんです。これを機にもう一度適正運賃を見直したほうが良いのではないか? と自分は思います。
安く請け負うこと自体は悪いことではない。がしかし、それに伴って輸送品質も下がるということを頭に入れておいてほしい。これは昨今のトラック・バスの事故に関するニュースを見ればおわかりになるでしょう。品質とお金はある程度比例してくるんです。
■「免停」「地域格差」「中抜き」……だけど好きな仕事はがんばる!/ひろし
「長距離トラック運転手は給料いいでしょう!?」とよく聞かれます。確かに毎日家に帰れる仕事に比べたら良いですね。……だって働いてる時間が違いますもん! 家の布団でゆっくり眠れるのは週1日~2日程度で、丸々の休みはよくて月に1日~2日くらい。
赤裸々にリアルな給料を告白したら、総額40万~45万円。引かれものをして、手取り30万~35万円くらいは貰ってます。その金額が高いのか安いのか? 拘束されている時間で時給換算してみたら、切ない金額が算出されるので止めときましょう。
給料形態は会社によって違いますが、うちの会社の場合は完全な歩合制となっています。1回走って幾らの世界です。なので、給料を誤魔化される心配はないですし、自分でも計算がしやすい仕組みになっています。
しかし、1回走って幾らっていうのも良し悪しで、行き先によって手当が違ってきます。片道計算で関東は3万円、静岡、山梨は2万6000円、関西は1万7000円などとなっています。
なぜ良し悪しかというと、関東を例にあげると、神奈川県の小田原と栃木県の那須は距離にして200~300km、時間にして4~5時間離れていますが、関東の端と端でも同じ関東料金での計算なのです。仕事内容も関係ありません。
バラ荷で作業に3~4時間かかっても、パレット荷でウイング開けて30分で終わる作業でも、行先が関東ならば一律で3万円の支給になります。月に関東を7~8往復すれば総額40万~45万円くらいの計算になります。
給料明細上は基本給や色々な手当が振り分けされていますが、基本給はありません。本数走れば給料が多いし、本数走らなければ給料が少ない。自分次第でどうにでもなる仕組みとなっています。
一番恐いのが免停などになった時です。1航海も走れず、倉庫作業などの業務も無いため、給与が全くありません。過去に180日間の長期の免停になった際は、3カ月間会社に出勤することもできず、短期のアルバイトでしのいだ苦い経験もありましたけどね。
他の会社の話で聞くのが、売上制の給料です。月の売上(運賃)の何%が給料になるシステムです。会社によって割合は違うと思いますが、このシステムはトラブルが起こりやすいようです。会社は運賃を運転手に提示しない。
バラ積みなど体力的にキツイ仕事をしたからといって、必ずしも運賃が良いわけではないし、逆に精密機械などのパレット荷を運んで、リフト荷役の体力的に楽な仕事のほうが運賃が良いこともある。「キツイ仕事=運賃が良い」なら、多少のバラ荷作業も我慢できるでしょうけどね。
運転手の間で「誰々は楽な仕事なのに給料は良い」など、会社や配車に対して疑心暗鬼になってトラブルに発展しやすいらしいです。うちの会社は1回走って幾らのシステムなので、この手のトラブルはないですが、全体的に見てやはり給料は安いと思います。
元請け→下請け→孫請け……。ひどい時には元請けから最終の指示を出してくれる会社までに、何件電話連絡入れるんだ!? って時もあります。
間に挟んだ件数だけ運賃の中抜きがあるわけですから、大手以外はなかなか儲からない仕組みなんですよね。運送業界に限ったことじゃないですが、弱者強者の関係で、下請けに位置する人間が損をする悪しき習慣だと思いますね。
運送会社は賞与、退職金、有給休暇は無いのが当たり前ですし、組合があり会社と交渉するようなシステムがあったりするのは一部の大手運送会社だけです。
僕自身、退職金も無い会社で働き続けることに対して将来の不安が無いわけではありません。ただ、自分が好きでやり始めた仕事であり、自分が好きな会社なので、倒れるまで働き続けてやろうって意気込みで、日々踏ん張っている毎日です……。
投稿 運賃が上がらなきゃ賃金も上がらない!? トラックドライバーが給料に物申す!! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。