『検証 政治改革 なぜ劣化を招いたのか』=川上高志・著 (毎日新聞)

(岩波新書・990円) 事実と違う答弁を、「国権の最高機関」で118回もする首相。その首相を引きずり下ろせない多弱野党に、「よいしょ」する与党。憲法が定める臨時国会を開かない政府。官僚の公文書改ざん、「モリ・カケ・サクラ」と権力の私物化……。本書で思い出す政・官の「劣化」のオンパレード……

世界を変えた12の時計 デイヴィッド・ルーニー著 (日本経済新聞)

境界侵犯する知的快楽を味わう。本書の醍醐味はこれだ。内容は明快で首尾一貫している。計時装置「時計」を覗(のぞ)き穴にして、それぞれの機械仕掛けを生みだした時代の思想や、社会の価値観を明らかにすることである。例えば、「古代ローマ」の「日時計」に始まり、古代中国の「水時計」、中世キリ……

佐藤賢一「王の綽名」 デンマーク王「青歯王」 (日本経済新聞)

海を隔てた2国を統治デンマークでも王らしい王が現れるのは10世紀で、ゴーム老王(在位936?58年ころ)からである。拠点とした土地の名前からイェリング朝と呼ばれるが、その2代目が息子のハーラル1世だ。綽名(あだな)が「青歯王」と伝わるが、なんとも聞きなれない。最も古い文書が12世紀前半の年代……

『ミャンマー金融道』=泉賢一・著 (毎日新聞)

(河出新書・935円) ミャンマー勤務を命ずる。ふつうの銀行マン四七歳に突然の辞令だ。以来八年余の奮闘が始まった。 社会主義から経済の自由化へ。当銀行も支店を出せるかも。旅行ガイドを買っていちから勉強する。 現地に行ってみたら誰も預金しない。銀行の融資も受けず、銀行口座もない。インフレ……

菊地信義さんを悼む その手に持つのは 辻原登 (日本経済新聞)

紙のメディアはいらない、と最早(もはや)暴論どころか正論、常識であるかのようにしたり顔で口にされる御時世となった最中(さなか)に、菊地信義氏は逝(い)った。紙のページをめくる感触に誘われて読み進める作品・言葉との共鳴の中に、彼の仕事はあった。本とは、紙という素材、図像、色の空間の……

新しい世界の資源地図 ダニエル・ヤーギン著 (日本経済新聞)

不吉な著者である。ダニエル・ヤーギンが本を出すと戦争が起こり、その本が売れる。ベストセラーとなった『石油の世紀』は、湾岸戦争の開戦と前後して出版されている。そして本書の日本語版は2月10日に発行されている。その2週間後にロシアの大規模なウクライナ攻撃が始まった。その結果、エネルギー価……

荒川洋治・評 『詳解現代地図 最新版 2022-2023』=二宮書店編集部・編 (毎日新聞)

(二宮書店・1870円) 地表に映し出される歴史 日本・世界地図の最新版。新登場は「ヨーロッパ中央部」と「北アメリカ中央部」の産業地図、竹島、尖閣諸島の個別図など。地理を通し歴史にも触れる編集。以下、地名は本書の表記。一部略記。 人が新しい地図帳を開くのは地表の新情報を得るためではない……

「人間とは」深く感じる 浜口道成さんの友となった本 (日本経済新聞)

子どものころ、友達がいなかった。私は、親からすると育てにくい子だったでしょう。内向的で自らの意識が内へ内へと向かう。「自分以外の人は本当に人間なのか」と。人の気持ちなんてわからない、考えたり感じたりすることこそ人間だとすると、人間は私だけ。変なことを考えていました。母の対策は本を……