(新潮クレスト・ブックス・1980円) 書けなくなった作家が帰った場所は 三十歳になった男が、「エネルギーが枯渇し、途方に暮れ、自信を失っていた」。男はイタリアの作家で、ミラノに住み、書けずにいた。そしてH・D・ソローの『森の生活 ウォールデン』などを読み、もう一度山へ行こう、と決心した……
/146 吉田修一 写真・王秉蒼 (毎日新聞)
まだ戦況がそこまで深刻ではなく、新橋の花柳界も軍人たちで賑(にぎ)わっていたころ、この材木問屋の跡取り息子である勝男と秀千代は出会った。 きれいな金の使い方をする男で、芸者との付き合い方もよく知っていた。 そのうち、いよいよ戦況も悪化して、花柳界は事実上の閉鎖、芸者たちの中にも親族……
エリイさん 『はい、こんにちは』 (毎日新聞)
(新潮社・1980円) 初の子育ての喜びと葛藤 社会の矛盾をあぶり出す作品を世に送り出してきたアーティスト・コレクティブ(協働集団)「Chim↑Pom(チンポム)」。著者はメンバー6人の一人で、その生き方や言動は度々、世間の「当たり前」とされる価値観を揺さぶってきた。本書は2020年秋に母となるま……
『告発と呼ばれるものの周辺で』=清田隆之 (毎日新聞)
映画界で「性加害」の告発が相次いでいる。監督、有名俳優、プロデューサーなど、いずれも知名度や人事権を持つ男性がその立場を利用して性的な行為を強要するという構図だ。加害者が真摯(しんし)に対応し、被害者ができる限り救済されることを願う。でも、それだけでいいのだろうか。こういった動き……
第80期名人戦A級順位戦 永瀬拓矢王座-山崎隆之八段 第44局の5 (毎日新聞)
山崎猛追 午後9時半を回った。夕食休憩ごろには5局中で一、二を争う速い展開だったが、夜戦はなかなか戦局が進まない。その間、隣室は急転直下。先は長いと思われていた糸谷―斎藤戦が終局した。 [先]2六歩(図)と急がされ、山崎は攻めるよりない。[後]3七金と打って永瀬玉を囲いの外へ追い出し、……
『リジェネレーション[再生] 気候危機を今の世代で…』=ポール・ホーケン編著、江守正多・監訳、五… (毎日新聞)
『リジェネレーション[再生] 気候危機を今の世代で終わらせる』(山と溪谷社、3080円) 地球温暖化防止のための国際枠組み「パリ協定」など、世界はさまざまな目標を設定してきた。しかし、温室効果ガス排出量は増え、豪雨や干ばつなど深刻な災害が多発。生態系破壊も進んでいる。 こうしたなか、書……
『謝名元慶福戯曲集 海の一座』=謝名元慶福・著 (毎日新聞)
謝名元慶福(じゃなもと・けいふく)著 (ゆい出版・5500円) 日本は中央集中が甚だしい国である。政治経済だけでなく文化もまた大都市に集まる。この状況の中でいかにして地方の地方性を表現し、中央に向けて投げ返すか。 例えば言葉。人は心を語るのに自分の生活の言葉を使う。NHK言葉ではなく地域の……
ウクライナ・ユダヤ人激動の歴史 日本の「根付」が語る (日本経済新聞)
ウクライナ出身のユダヤ人一族が所蔵していた日本の「根付」コレクションから、一族の激動の歴史を紹介する「琥珀(こはく)の眼の兎(うさぎ)」展が米ニューヨークのユダヤ博物館で開かれている。現地から美術評論家の神谷幸江氏がリポートする。ウクライナと日本が掌(てのひら)に収まる根付で結び……
生命の谺(こだま) 川端康成と「特攻」 多胡吉郎著 (日本経済新聞)
ノーベル文学賞を受賞して名声の絶頂を極めたはずの川端康成が突然ガス自殺を遂げてから今年でちょうど50年。意外な角度から川端文学に切り込む一冊だ。切り口は戦争末期の特攻隊。川端は1945年4月24日から1カ月間、海軍報道班員として鹿児島県鹿屋の特攻出撃基地に滞在したことがあったのだった。基地……
コマツ特別顧問 野路國夫(15)顧客の声 (日本経済新聞)
古巣の生産本部を経て、2003年に建機マーケティング本部長に就任した。それまで技術系一筋の会社人生だったが、新ポストは営業の担当で、実際にコマツの建設機械を使ってくれているお客様との接点を担うことになった。英アングロ・アメリカンなどの資源メジャーや各地の鉱山会社のトップと定期的にお会……