伝説のクルママンガ『頭文字D』の意思を現代に受け継ぐ新世代のクルママンガ、『MFゴースト』。2017年の連載開始時から圧倒的な読者人気を獲得しており、14巻発売時点の現在で、ついに単行本累計発行部数350万部を突破している。
当連載では、作品内で繰り広げられるガソリン車のレース『MFG』で活躍するドライバーや、主人公・片桐夏向の周囲を取り巻く人々など、魅力あふれる登場人物たちの人となりを分析し、そのキャラクターや人物像を明らかにしていく。
今回は、群馬県渋川市に住む秋名スピードスターズのメンバーたちを紹介する。あれから年月を経て、彼らは今どんな生活をしているのか、そしてMFGとどう絡んでいるのか。『頭文字D』ファン必見!
文/安藤修也
マンガ/しげの秀一
■『頭文字D』ファン待望のあいつらが登場!
MFGラウンド3「ザ・ペニンシュラ」開催を前にして、主人公・片桐夏向の新たなライバル、諸星瀬名が作中に登場する。しかしここで瀬名の出自に関連してか、突如、誌面に「群馬県渋川市」の文字が表示される。『頭文字D』からしげの作品を読み続けている熱心な読者であればすぐに気づくはず。そう、ここは藤原拓海の出身地だ。
そして次のページには、懐かしのキャラクターたちが登場して、イニDファンが度肝を抜かれることになる。まさか藤原拓海より、高橋涼介よりも先に、この3人が登場するとは! 武内樹(イツキ)、池谷浩一郎、そして健二(ケンジ)ら、かつての秋名スピードスターズの面々である。
この時3人は、直接的に本編ストーリーに絡んでくるわけではないが、「渋川出身の若きホープ」で、赤城山、妙義山、秋名山の各峠道のコースレコードをすべてぬりかえた諸星瀬名のことを気にかけている様子、そして彼らの日常生活や近況が描かれている。
まず、ここで初めてフルネームの設定がなかったことに作者も気づいた(笑)健二について。彼は今も情報通として仲間達から重宝がられているようだ。この時も、耳より情報として、どこから聞いてきたのか「諸星瀬名のMFG参戦」をイツキと池谷に伝えに来ている。
若い頃は、いかにも走り屋然としたラフな格好で180SXのステアリングを握っていた彼が、現在ではネクタイをしめて白いワイシャツを着たサラリーマンに。センター分けで長めだった髪は、短く刈り揃えて7:3に分けられており、白髪混じりのようにも見える。もしかすると、3人のなかで年を経て最もルックスが変わったキャラかもしれない。
今もイツキから「ケンジ先輩」と慕われているあたり、相変わらずの親やみすさ、人間性のよさを感じさせる。しかし、「仕事帰りにココ(池谷が経営するガソリンスタンド)に寄って、おまえらとバカ話してる時が一番ほっとする時間なんだよー」と語っているあたり、人のよさが仕事で苦痛を生み出す原因になっているのではないか、などと勘繰ってしまう。がんばれケンジ先輩!
■ルックスににじみ出る池谷とイツキの人生
秋名スピードスターズのリーダーだった池谷浩一郎はどうか。
現在はガソリンスタンドの所長になっているようで、どうやら『頭文字D』当時店員をしていたガソリンスタンドを継いだようである。見事、店員から経営者という下剋上を果たしたわけだが、本人がそれをどう捉えているのかは語られない。読者心的には、今もS13シルビアに乗っていたらシブイなと思う。
当時から無精ヒゲが目立つなど、おっさんくさかったためか、現在の姿(初登場シーン)を見るかぎり、逆にそれほど年をとったように感じられない。と思ったのも束の間、「今日はむすなぁ」と彼が帽子を外すと、かなり薄くなった頭髪が披露される! ケンジからは「また生え際後退してるぞ」と非情なひと言が飛び出す。若い頃から男性ホルモンが多そうなルックスだったからなぁ……。
「池谷はいいよな。まだ独り身だし、自分中心の人生をエンジョイできるもんなー」(ケンジ)。「自由恋愛をする権利をもってるのは所長だけですよ」(イツキ)と2人の発言にあるとおり、どうやら池谷は今も独身のまま。本人曰く、「好きで独身やってるわけじゃないんだよー(忘れられない女性がいるだけだよー)」ということで、どうやら今も佐藤真子のことを思っている様子。池谷の思いはともかく(笑)、佐藤真子の現在の姿が見てみたいものである。
そして、「イツキ」こと、武内樹だ。『頭文字D』では藤原拓海の相棒として、作品に欠かせない名バディキャラだった。しかし現在は、20キロも太り、完全にメタボ化している。中年太りは多くの男性が避けられない仕方のないこととはいえ、当時の面影はあまり感じられない。なお、キャップを被った姿しか見ることができず、ファンキーだった若い頃の髪型が現在どうなっているかは今のところまだわからない。
現在は池谷が所長を務めるガソリンスタンドで店員をしているイツキ。結婚して子どももいるようで、「MFGだけが今やオレの生きがいですよ。家に帰れば子ども中心の生活だし、嫁さんはどんどん冷たくなるし、こづかいも減るいっぽうだし……」と発言している。
この時、ケンジから「群馬の女はきついんだよなー」と言われ、話の流れ的にイツキの妻のことを言ってると捉えられる。つまり、妻は群馬出身。どうやら埼玉出身だった秋山和美とは結ばれなかったようである。
■現在の3人の姿を見て読者が投影するものとは?
諸星瀬名のMFG参戦を喜ぶいっぽうで、1カ月ほど前に片桐夏向がMFGヘ参戦した際にも、「拓海の教え子が突如出現!」ということで、狂喜乱舞したという3人。当初、「バトルになったりしたら、どっちを応援すればいいのかまよっちまうなー」と語らいあっていたが、ラウンド3の終盤頃には、夏向支持を表明している。
イツキなどは、「オレはじめから1ミリの迷いもないっす」と言い、ここでイツキの拓海への思いが語られた。「拓海はオレの親友ですからね」、「拓海は秋名スピードスターズのエースですよぉ。オレ達を代表して秋名のプライドを背負って……レッドサンズやナイトキッズ、エンペラーの猛者達を相手に獅子奮迅の活躍をしてくれたんですよ」と。
その教え子である夏向を応援しないなどありえないということで、池谷とケンジはこのイツキの名演説を聞いて涙する。イニD読者もきっと同じ思いに違いない。しかしこの3人が、当の本人である拓海との親交はあるのだろうか。あれだけ親しかった仲間と疎遠になるとは思えないが、面倒くさがりな拓海ならもしかすると……とも思える(笑)。今後の展開に期待だ。
今も3人がクルマを愛していること、そして現在は地元に密着して生きていることがわかった。
ケンジのセリフで「男ってつらいよなぁ……家族をやしなう責任があるし、ただふつうに暮らしていくだけのことが、こんなに苦行だなんて、若いころは想像もしてなかったよ」とあるが、読んでいるこちらも、大人になった3人の容姿や言動を受けて、いろいろな感情が湧かざるを得ない。そして彼らに投影するのは、今もクルマを好きでいつづける読者自身の姿なのかもしれない。
■掲載巻と最新刊情報
投稿 かつての藤原拓海の仲間たちも登場! よみがえるあの記憶 『MFゴースト』を彩る人物列伝10 秋名スピードスターズ 編 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。