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 世界初の電動無人トラックによる公道での貨物輸送を行なったことで知られるアインライド(スウェーデン)が、テクノロジー、文化、持続可能性などのクロスイベントを開催。

 デジタルプラットフォームのアップデートと共に、前例がないという「電動トレーラ」が発表された。2023年中にこれを使った電動・無人のスマート輸送を行なうとした。

 トラックの電動化は世界的なトレンドだが、駆動力を持たないトレーラ(被けん引車)にバッテリーを搭載し、電動化を行なうメリットとは?

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/Einride AB


電動・無人運転のソリューション

 スウェーデンの貨物輸送テクノロジー企業・アインライド (Einride) は2022年5月19日、ヨーテボリ(スウェーデン)で開催したイベント「アインライド・メッシュ」においてハードウェアとソフトウェアの製品発表を行なった。

 デジタルプラットフォーム「アインライド・サガ」の機能追加と共に明らかにされたのは、電動のトラクタや無人運転トラクタと組み合わされることを前提とした電動トレーラ「アインライド・トレーラ」であった。

 同社によるとこうした製品が市場に投入されるのは世界初だという。

 アインライドはデジタル、電動、無人運転による輸送を提供するテクノロジー企業で、2016年に設立された。2019年には世界で初めて公道での電動無人トラックによる貨物輸送を行ない、一躍注目を集めた。ちなみに、有人での自動運転による輸送は、2016年にアメリカのオットー(当時)が行なっている。

 2021年には米国市場への進出を果たし、これに合わせて電動無人輸送のデジタルプラットフォーム「アインライド・サガ」を投入している。

 同社の「ポッド」(Pod) は運転席の無い(=キャブレス)、無人運転専用の電動トラック。運転手に代わって遠方の「リモート・ポッド・オペレータ」が遠隔操作する。ちなみにオペレータはアインライドが直接雇用しているそうで、今後5年で2000人を米国だけで雇うという。

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米国進出を果たした「ポッド」

 この度、サガに対してアプリのUI刷新と、開発者向けAPIの公開、新規アプリの追加が発表されている。アインライドのCEOを務めるロバート・ファルク氏は次のように話している。

 「未来の電動貨物輸送ハードウェアの最新のデザインを公開し、私たちの最新の商品をお見せすることで、電動化と持続可能な目標に向けてコスト競争力を持ちたいと考えている荷主企業と接触する機会が増えると考えています。

 私たちは、未だに電動化されていないほぼすべての分野を視野に入れています。成長を続ける電動・自動運転による貨物輸送業界の将来のニーズはどうなるのかを積極的に探求し、そこで必要とされるソリューションを作り出すことで、私たちは移行を加速するお手伝いをしたいと思っています」

史上初の電動専用セミトレーラ「アインライド・トレーラ」

 いっぽう、「アインライド・トレーラ」は電動のトラクタ(けん引車)と組み合わされることを前提とした電動のセミトレーラ(被けん引車)だ。同社によるとこうした専用のトレーラは他に例がないという。

 公開されたのはハードウェアのデザインが中心で詳細は不明だが、道路輸送用の電動セミトレーラで、フリートの効率化と運行コストの最適化に対するソリューションとのこと。またアインライドの電動車両や無人運転車両とシームレスに統合し、更なる効率をもたらすそうだ。

 もちろんトレーラは他社の電動セミトラクタにも対応する予定だ(アインライドの電動大型トラクタはBYDやスカニアからの調達、オランダのダフ製トラックの改造などで対応している)。

 アインライド・トレーラとサガを組み合わせた場合、輸送する貨物に関するリアルタイムデータにより、AI(人工知能)ベースの様々な機能を利用できる。例えば、積み込みのルート計画、積載率の計算、盗難防止のための貨物モニタリング、予防整備などだ。

 重要なのはトレーラ側のシャシ下に320kWhのバッテリーを搭載することで、フル充電による航続距離は650kmも伸びることになる。トラクタ側のバッテリーと合わせれば1000km級の航続距離を達成することになり、バッテリーEVトラックによる長距離輸送も視野に入る。

 欧米では長距離輸送の大部分をトレーラが担っている。いっぽう車両のデジタル化が進むなかでも、トラクタから切り離されると電源を確保できないトレーラはデジタル化が遅れている車両だ。動力を持たないトレーラを「電動化」した理由はこの辺りにありそうだ。

 デザインは今後さらに改良を重ね、最初のパイロットを2023年中に完了するというスケージュールで生産を計画している。

輸送の電動化を助ける「サガ」

 デジタルプラットフォームの「サガ」はパソコンやスマホで言えばオペレーティング・システム(OS)に相当する機能で、エンド・ツー・エンドの電動・自動運転による貨物輸送に関連する一連のアプリがこの上に構築される。

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デジタルプラットフォームの「サガ」

 アプリには次のようなものがあり、新機能は今年10月から提供を開始するとした。

●エボルブ : 電動化・自動化の計画を策定し、環境インパクトを評価する
●エクスプロア : コスト、積載効率、CO2排出量などを可視化する
●ブック : 貨物の出荷から配送までを追跡し、荷主の管理システムに統合する
●オーケストレート : 電動トラックと充電器のネットワークをリアルタイムに表示し、自動化された輸送計画と人間の間の橋渡しをする

 またアプリ開発者用のAPIとして「アインライド・エクステンド」が発表された。APIによりアインライドのソフトウェエアへのアクセスが可能になり、荷主側のシステム開発などで活用することができる。APIプラットフォームは2022年末までに提供を開始する予定。

 同時に、ドライバーへ指示を出す「デリバー」、物流ターミナルで使う「ドック」、利益率モニタリングの「オウン」など3種類の追加アプリを、2023年にリリースする予定も発表されている。


 車両のデジタル化や電動化・自動運転はトラック業界のトレンドでもあるが、無人のキャブレスEVトラックを開発し、ドライバーに代わってオペレータを雇用するアインライドは、一歩進んで「輸送」自体のデジタル化・電動化を目指している。欧州・米国以外への展開を含めて、今後も目が離せない存在だ。

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